このところ、自然が豊かな場所にいる。
 
 都心へのアクセスもすこぶる良いのに、空気が驚くほどきれいだ。
 
 たまに森林の中を歩く。
 
 数日前も、森の中にあるきれいな場所でゆったりと飲食を楽しんだ。
 
 その日は雨が降っていて、すでに肌寒い空気に包まれていたからだろうか、突然32年前の気持ちに戻った。
 
 場所は違うが、ちょうどこの季節、同じように森林に近いところで、Xのメンバー5人と音楽合宿をしていた。
 
 あの時は毎日、雨が降っていた。
 
 せっかく富士山に近く、もし天気が良ければ明るい陽差しときれいな空気の中、気持ち良く散歩などを楽しめるだろうに、残念ながら毎日毎日、雨の日ばかりで、起きて窓を開けて雨の降る様子を眺めては、少し陰鬱な気持ちになってため息を漏らしていた。
 
 誰よりも太陽と明るい陽差しが好きで、日光浴が趣味の僕だからしかたがない。 
 
 けれど、そんな毎日が憂鬱だったかというと、決してそうではなかった。
 
 陰鬱な気持ちになるのはあくまでも天気のことだけで、合宿をしている室内では、夢を形にしていくため、叫びたいほどの強い気持ちで5人のメンバーと共に未来を創り続ける毎日に、僕の心は幸せで満たされていたのだ。
 
 そんなことを森の中にあるきれいな場所でゆったりと飲食を楽しみながら思い出しているうちに、あの時に毎日雨が降っていたのが僕の大切な「Xという物語」の序章を象徴していることに気づいた。
 
 なぜなら、あのメンバーと過ごした音楽合宿は、輝く未来を生み出すために地下深くこもっていた時間だったからだ。
 
 当時もすでにインディーズバンドとしては珍しいほど多くのファンがいたけれど、僕たちが地下深くこもって生み出していた作品は、やがて日本中のとてつもない数のファンへ届く、全く新しいXの魅力に溢れた作品たちだったからだ。
 
 まだ誰も知らない・・・。
 
 ここに、やがて日本の音楽シーンを変える5人がいることを、まだ誰も知らない・・・。
 
 そんな気持ちに包まれながら、あの時の僕は毎日、未来への期待で胸がドキドキし続けているような状態でメンバーと会話をし、生まれていく作品を見守り、共に形にしていたのだ。
 
 そんな毎日に、雨はとてもよく似合っていた。
 
 毎日が雨だったから、未来を創る日々は静かに力強く進んでいたのだ。
 
 32年も経って僕はそんなことに気づいた。
 
 名曲「ENDLESS RAIN」もまた、そんな音楽合宿の中で生まれた。
 
 終わらない雨の日々から生まれたのだ。
 
 
 
 
 発表となったばかりの『Disneyマイ・ミュージック・ストーリー - YOSHIKI』を「Disney+」で観た。