毎年書いてるけれど。
ヒデちゃん、ありがとう。
本当にありがとう。
数え切れないほど、たくさんの人たちが
ヒデちゃんの作品と人生に夢と幸せをもらってね
もちろん悲しい思いもしたりするけれど…。
でもね、ありがとう、っていう気持ちが
凄いんだよ みんな
だからね。
ねぇ、ヒデちゃん
いったいヒデちゃんは、その細い体でね、
何人の心を救ったと思う?
何人の人生を変えたと思う?
何人の夢を導いたと思う?
それも、まだまだ続くんだよ。
これはね、とんでもなくありがとう、なんだ。
だって…。
ヒデちゃんは、いつも寂しかったじゃんか。
ヒデちゃんは、いつも悔しかったじゃんか。
ヒデちゃんは、いつも夢みてたじゃんか。
だから、凄いんだ。
作品を生んでね、表現をしてね
そして何より、ガラスのようにギリギリで生きてね。
ありがとう。
ありがとう。だから
ありがとうしか言えないよ。
じゃあさ、今日は僕、ちょっと回想するからね
微笑んで聞いててね。
おかしかったら笑ってもいいからね。
**************************
あの頃、ヒデと僕が言葉のいらない関係だった理由はいまだに分からない。
ただ、その感覚を2人で共有していたのは間違いない。
例えばファンを気づかって、プロジェクト上のある部分をヒデが気にしていて。
僕はそれを知らなくて、ふらっとヒデに話しかける。
(どう?その後…)
(うん。何かさ、イベントのことさぁ…。
ファンの気持ちんなってみるとさ、やっぱりもう少し考えなきゃ、って)
ああ。
なるほど…。
この時点で、僕にはヒデが気にしているポイントと、それをもう一度プロジェクトとして考え直すために、バンドサイド、そしてソニーミュージックのスタッフサイド、それぞれどういう風に話を進めて行けば良いのか、考え始めている。
でも、そのことを口には出さない。
(ヨシキのイメージ、ちゃんとスタッフに伝わってないのかなぁ・・・)
と僕が言うと、ヒデは少しうつむいて、
(ヨシキはさ、全体をちゃんと考えてるから・・・)
とつぶやくと、深い表情で考え込んでいる。
それを見て、僕はヒデの考えているポイントが分って納得する。
ヒデはヨシキのことをとことん理解しているから。
そして一方、ヒデはメンバーの中で、ずば抜けてファンの気持ちを理解しているから…。
考えをまとめて、僕はひとことだけ
(今はヒデちゃんの考えが大事だと思う・・・)
新たな案をヒデが考えて、そのために予算を少し調整してもらうべきかも知れない…。
そう僕は判断して、
(宣伝のことだからさ、まだ分からないけど、ちょっと話してみるね)
(うん・・・)
この会話で必要なことは共有してしまうのだ。
本当であれば
・ ヒデの気にしている内容をよく聞き
・ それに対する僕の意見を返して、何が一番良いのかを共に考え
・ その結果をバンドメンバー、特にリーダーのヨシキ、そしてソニーミュージックのスタッフにどう提案し
・ そのために何が必要なのかをお互い確認する…
といったやり取りがあるべきなのだけれど。
ヒデとだと、それが全くいらない。
こんな場合もある。
レコーディングに向けて、リハーサルスタジオを押さえてある。
大きいスタジオはバンド全体、そして小さいスタジオはヨシキと僕がART OF LIFEのデモテープを録るため。
ヒデが僕に聞く。
(ヨシキの方、どうなりそう?)
(ああ。えっとね、来週から始める。たぶん火曜日から。2週間位は籠もるかも)
それには何も答えず、ヒデは考えている。
(どうする?)
と僕が聞くと
(曲はあるからさ)とヒデが答える。
(稲ちゃん…かな? パタ? 先に・・・)
と、僕。
(うん…)とヒデ、少し考えて、
(じゃあ、ヨシキと津田さんやってる間さ、稲ちゃんと始めてるから)
(分かった。できたの、メジャーの方?マイナーの方?)
(マイナーの方)
(そっか、分かった。
そうだ、ヒデちゃん、今度歌詞見せて。途中でいいから)
(うん)
こんな会話だ。
で、その後、僕はすぐにサブマネージャーへ連絡をして打ち合わせをする。
デモテープ制作の段取りと、稲ちゃん、パタのスケジュール、タイジ、トシの大まかな動きを把握して調整するためだ。
さらに、その流れでデモテープ制作を行う場合、ギターのメンテやアンプの音創りなどをどう進めて行けば良いのか、テクニシャンに相談すべくマネージャーに指示を出す。
これでヒデの要望通りの準備が整った。
そのために必要な会話は、本当にちょっとだけ。
更にもっと抽象的な会話もある。
ヒデ
何かさぁ、もっと赤黒い感じがね、いいと思うから。
僕
ああ…。分かる。分かる!
なるほどねー。
ヒデ
赤、っつてもさ、普通の赤じゃあ…
僕
そりゃそうだ。あのさぁ、妖しい暗めの赤ってあるじゃん。
ヒデ
うん…。
何かもうさぁ、うね、ってしてて、ヤバい感じ、っつうか…
僕
あ!
ああああ、ああ…。
凄い分かる!
そっかー、うね、ってしててね…。
凄い。ねぇ、それやって。
ヒデ
合うかな。
僕
合う、合う。逆にすごく意味あると思う。
あの…ほら、「ROSE&BLOOD TOUR」のパンフの写真と同じ意味だよね。
あのうなじの美!!
あれね、もう性別関係ないから。
男女超えてるよ。美し過ぎて、俺、感じちゃうんだよね。
ヒデ
はははは、何なの、この人、変なの、ははは。
僕
俺はね、そのセンスがヤバいと思うの。カルチャーだから。いや、芸術かな。
数え切れない位の子たちにね、影響与えるから。絶対。
ヒデ
うん、そうかなぁ。
僕
マジで。まあ、でもとにかく暗い赤はいいねぇ。
ヒデ
でも、音とのシンクロ大事でしょ。
僕
ああ、まぁ、でも赤じゃないとね。
ヒデ
…。
うねるのが…。
僕
あっ!大事かも!!
分かった!
ヒデちゃん、うねるのが大事だよ!
もうねぇ、最近の音はうねってないの多いから。
ヒデ
Xはさぁ。
僕
そう、大事にしながらね。
ヒデ
ふふ。
僕
うねって、赤黒くて、最高じゃんか!
**************************
言葉がどんどん省略されていく会話
それがいつも心地よかった。
黙ったまま、それぞれイメージを膨らませて
話をする時は、たいてい横に並んで
僕にとって、それがヒデの一番自然な場所だった。
そうして時々 横を向いて 思い切り
ヒデの顔を見つめることがあった。
それはヒデが声を上げて笑う時だった。
その笑顔が大好きだった。
それは驚くほど
無垢な笑顔だった。
2015年5月2日 津田直士
コメント
コメントを書くこの文章がすきで、たまにふと読み返して元気をもらっています。ありがとうございます。
hideがなくなった頃わたしはまだ高校生で、そこから本当に色んなことがあったけど、hideからずっと元気をもらっています。彼が生前生きてきた姿が、わたしだけじゃなく沢山の人を勇気づけていると思います。わたしも、優しく、強く、純粋なhideの笑顔が大好きなので、 最後の文に共感し、元気をもらっています。
本当に、こんな素敵なエピソード、聞かせてもらい、ありがとうございます。