オーディションに向けてマネージャーの小村君と打ち合わせしているうちに、分かって来たことがあった。
 
 それは、インディーズで全国規模のツアーもしている謎のバンド、エックスは、その組織や活動がメンバーの人数以上の人間によって支えられている、という事実だった。
 
 支えられている、といっても、そこに大人はいない。
 
 全てメンバーと同じか年下、つまり23才以下の若者達だった。
 
 メンバーそれぞれに付き人のような存在がいて、さらに小村君のように全体に関わる人間も何人かいる。
 
 バンド活動だけではなく、インディーズレーベルもオーガナイズしているから、そのための人間もいるし、リーダーのYOSHIKIに至っては、数名の人間を常に従えている、ということだった。
 
 小村君の話を聞けば聞くほど、得体の知れないエックスというバンドに強い興味が募っていく。
 
 「ねえ、そんな風にメンバーの周りに人が集まるのは、なんでなの?」
 
 すっかり親しくなっていた小村君に、ある日僕は尋ねた。
 
 「さあ…。何ででしょうねぇ〜」
 
 相変わらず小村君は答えない。
 
 真面目な顔をしていても、心の中は少しふざけている、そんな感じの小村君は、核心に触れるようなことは一切話さない、不思議な男だった。
 
 そこがまた僕とは妙に気が合い、僕は心を許した親友のように、エックスについて思うことを何でも小村君に話すようになっていた。
 
 人の心を惹きつける何かを強く持っているバンドなのかな…。
 
 僕はそんな気がしてならなかった。
 
 メンバーと初めて会った時の印象が、しっかりと僕の心を掴んでいたからだ。
 
 そう、この間ソニーミュージックの5階に現れ、自然体でだらだらと歩いていたメンバーは、見事に全員が「赤ちゃん」だったのだ。
 
 そんな風に、自分を作ったりせずに自然体で存在することができるメンバーに、それを支えようと若者が集まるとしたら、よほどメンバーの人間性に魅力があるのだろう、と僕は考えたのだ。
 
 いや、何といっても目の前にいる、とぼけた小村君こそ、メンバーに惹かれている見本じゃないか…。
 
 僕は再び小村君に尋ねた。