愛すべきチカーノ

アメリカ刑務所の修羅場経験から得た男としての生き方

第二回 ヤクザ修行1


 渡世入りして三年間、親分のもと「部屋住み修行」を経験することになったKEI。親分の身の回りの世話から事務所の電話番など様々な雑務に追われる日々を送った。

「朝昼晩と全員分の飯を作って掃除して、車にワックス、それで年中丸坊主。これを毎日しなきゃいけない。同時に入った十三人も一年したら残ったのは三人だよ。

 遠くからきた人間は逃げ帰れるけど、自分はすぐ次の次の駅からだからね、事務所が近すぎて逃げる場所がなかった(笑)」

 KEIの修行時代は、いまよりも厳しい時代であった。電話の呼び出し音が三回なるまでに取らないと先輩から壮絶なヤキを入れられる。現在はコードレスや携帯が主流だが、当時はもちろんそうではない。トイレに行こうが鳴りはじめたら出なくてはならない。KEIは用をたすときも黒電話を持っていった。言い訳なんてできないと悟ったからだ。

「はじめてヤキを入れられたのは初日。電話がなるから出てみたら〈わしじゃ〉や〈おれだけど〉だよ。こっちは入ってすぐだし聞いたことない声だから誰だかもちろんわからない。だからどちらさまでしょうか?ってなる。そうしたら〈この野郎、おれの声がわかんねーのか!〉って。今日入ったばかりなんでなんていうと〈何、小僧!口答えしやがって!〉だよ。なにもいえずに黙っていたら〈今度はシカトか、この野郎!すぐ事務所行くから正座して待ってろ!〉なんていうから、これはしょうがないと分かりました、って応えたら〈開き直ってんのか!〉ってなにをいってもあげ足とられる。正直に待っていたら本当にその人がきて袋叩きだよ」