マル激!メールマガジン 2020年2月5日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第982回(2020年2月1日)
5金スペシャル映画特集
救いようのないこの世界に映画が一筋の光明を見出し始めたわけ
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 月の5回目の金曜日に無料で特別企画をお送りするマル激恒例の5金スペシャル。今回も昨年11月の前回に続き、映画特集をお送りする。
 今回扱う映画は『リチャード・ジュエル』、『ダークウォーターズ』、『ザ・ディスカバリー』、『アザーライフ』、『アンダン』、『リメインダー』、『オーロラの彼方へ』、『トータル・リコール』、『レディ・プレイヤー1』、『アバウト・タイム』、『ブレインストーム』の、何と11本。
 最初の2本は悪と戦う弁護士が大活躍する古典的な社会派ヒーロー譚だ。2019年にアメリカで公開された『リチャード・ジュエル』は現在日本でも劇場公開中。『ダークウォーターズ』も2019年末にアメリカで公開され、今、話題を呼んでいる作品だが、日本ではまだ未公開だ。確かにこの2本は社会派映画の定番と言っていい、弱者に寄り添う弁護士が社会悪と戦い最後に勝利を収めるという筋書きだが、しかし実際に映画を観た後で受ける印象はもう少し複雑だ。少なくとも勧善懲悪が実現し、溜飲を下げるという雰囲気にはならない。もっとも『リチャード・ジュエル』のクリント・イーストウッドや『ダークウォーターズ』のトッド・ヘインズといった社会派にして一癖も二癖もある名匠が、社会を善と悪に単純に分けて、最後は善が勝つような水戸黄門的な映画を今さら作るとはとても思えないが、では彼らは何を描きたくてこのような社会派ヒーロー譚の定番とも言うべき題材を選んだのだろうか。
 そこに描かれている社会や人間に対する深い洞察や葛藤は、実際に劇場で映画を観て、個々人が自分自身と対話をすることによってのみ分かってくるものだ。強いて制作者のメッセージを深読みすれば、「汝自身の心の声を聞け」ということになるだろうか。少なくともこの2本は、昨今流行の敵味方の単純図式の中で自分を安全なところに置いたまま、最後は善が勝ち皆が溜飲を下げるというような安っぽい社会派ヒーロー譚として観てしまうと、制作者の意図の半分も伝わらないのではないか。
 とは言え、映画の中に描かれている、政府や大企業などの権力の暴走の危険性や、商業主義に毒されたメディアの問題点などは、今の日本にも当てはまるところが大いにあり、それだけでも十分に観る価値のある作品にはなっている。
 今週の5金マル激スペシャルでは、世界が堕ちるところまで堕ちると、映画が社会の先陣を切って、そこから再び這い上がるための糸口やきっかけ探しを本気で始めているのではないかという仮説のもとで、異色の11作品を取り上げながら、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・“視座”の重要性が分かる『リチャード・ジュエル』
・現実の儚さを知る『アンダン』『オーロラの彼方へ』
・なぜいま「時間」が描かれるのか?
・『レディ・プレイヤー1』が“クズ”である理由
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■“視座”の重要性が分かる『リチャード・ジュエル』

神保: 本日は2020年1月31日の金曜日、今年最初の「5金」となります。普段は私がやりたい企画を好きに決めさせてもらっているところもありますが、今回は宮台さんが迷わず、「映画をやりましょう」とおっしゃいましたね。

宮台: そうですね。今回は皆さんが考えているのとは違う、社会派の映画をお示しようと思います。この10年で、皆が社会/存在/現実だと思っているものが、実際どれだけ社会/存在/現実なのか、ということを疑う作品が膨大に出ています。有名なものから無名なものまで観切れないほどありますが、今回紹介する映画はどれも本当に示唆的で、従来の社会派的な切り口では切れない、言葉にならない感覚を引き起こします。

神保: 社会、政治の劣化はトランプ政権下のアメリカも含めて、世界的なものです。絶望的な状況ですが、そうなったからこそ、希望を見出せるような映画が出てきているような気がします。テレビは完全に後追い迎合ですが、映画は先取りできる媒体なんだなと、今回すごく感じました。