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マル激!メールマガジン 2026年3月4日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1299回)
消費減税の国民生活への効果と影響を検証する
ゲスト:熊野英生氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)
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 減税は誰もが歓迎するものだろう。しかし、現在高市政権が進めている食料品の消費税をゼロにすることが、どの程度物価高対策として有効なのか。また、そのリスクとしてわれわれは何を知っておく必要があるのか。
 消費税減税をめぐっては、先の衆院選では各党が一斉に公約「消費減税」を掲げたが、自民党が歴史的な大勝を収めたことから、当面は自民党の公約である「食料品の消費税の2年間ゼロ」が優先的に実現される可能性が高い。
 日本では比率の高い順に消費税、所得税、法人税が税収の柱で、その3つで全税収の9割近くを占めているが、その中でも消費税は最大の税収源となっている。しかも、日本ではほとんどの人は所得税が「源泉」されているし、法人税は経営者や個人事業主以外は直接関係してこないので、何かを購入するたびに徴収される消費税は、圧倒的に痛税感が強い。だからこそ、選挙公約でその減税を謳うことはとりわけ集票効果が大きい。
 ところで物価高対策として食品の消費税をゼロにした場合、国民生活はどれほど潤うのだろうか。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の試算では、仮に食料品の消費税率が現在の8%(軽減税率)から0%になった場合、世帯あたり平均して年間約6万8,000円の負担軽減効果が見込まれるという。これは2人以上世帯を対象にした試算なので、2人世帯の場合、一人あたりだと年間3万4,000円、毎月2,833円が浮く計算になる。
 この数字をどう見るかはそれぞれだろうが、日頃買い物をする際に感じている痛税感の割には小さいと感じられるかもしれない。過度な期待は禁物と考えておいた方がよさそうだ。
 消費税減税は、そこで潤った分のおカネの一部が消費に回ることで経済活動が活発になり経済成長を促すというのも、期待される効果の一つだ。しかし、食品の消費税をゼロにした場合の経済への影響は意外と小さく、減税によって5兆円の税収が消える一方で、それが個人消費に回る割合はその1割の約5,000億円、そのGDP押し上げ効果は3,000億円分と見積もられているため、現在約590兆円の実質GDPに与える影響はプラス0.05%程度にとどまると見込まれている。
 このようにメリットが限定的であるのに対し、食料品消費税ゼロによるマイナスの影響はかなり大きい。
 まず、消費税はもともとその逆進性、つまり所得が低い人ほど税負担の割合が大きくなる点が問題視されてきたが、消費減税にもその欠点が反映されてしまう。つまり、所得が大きい人ほど消費減税の恩恵が大きくなってしまうのだ。格差が広がる中で、消費減税には所得再分配の観点からも疑問が残る。
 しかも、食品の消費税がゼロになっても、われわれ消費者が購入する食品の価格が消費税の8%分丸ごと安くなるとは限らないことも知っておく必要があるだろう。消費税はもともと事業者に納税義務が課されているため、消費減税の恩恵を直接受けるのは事業者だけだ。
消費者は、事業者がその減税分を小売価格に反映してくれたときに初めてそのメリットを享受できる。しかし、原材料費や人件費の高騰を価格転嫁できなかったことにあえぐ中小事業者が価格を据え置く可能性もあり、仮に値下げをしても消費減税分の8%を丸ごと引いてくれるとは限らない。食品の消費税がゼロになったはずなのに、小売価格はそれほど下がらない可能性が高いということだ。
 その一方で、税収の柱である消費税の減税が財政に与えるダメージは計り知れない。食品の消費税をゼロにした場合、国と地方を合わせて年間約5兆円の税収減が見込まれている。国の税収約80兆円の3分の1を占める約26兆円の消費税は全額が社会保障に使われることが法律で定められているが、実は年間の社会保障関係費はすでに約38兆円に達しており、消費税だけでは賄えていないのが実情だ。今回の食品ゼロによってそこからさらに5兆円が消えた場合、その穴をどう埋めるのかは容易なことではない。
 さらに深刻なのが地方財政へのしわ寄せだ。消費税はもともと、国と地方自治体の間でおおむね8対2の割合で分配されることが定められている。今回食品の消費税がゼロになることによって減少する5兆円については国が約3.2兆円、地方が約1.8兆円分を被ることになる。しかし、地方自治体の行政サービスの多くは国が定めたルールの下で担われているものが多く、財源が減ったからといって簡単に削ることはできない義務的なものが多い。
熊野氏は、地方自治体の減収のしわ寄せが上下水道やごみ処理といった住民生活に直結する行政サービスの低下を招く可能性が懸念されると指摘する。
 失われる5兆円の穴を埋めるために、高市首相は赤字国債には頼らないと明言しているが、具体的な財源は示されていない。熊野氏は、外為特会(外国為替資金特別会計)や年金積立金の活用には無理があり、現実的には「2年に限って赤字国債を発行するしかないのではないか」と指摘する。しかし、赤字国債の増発はインフレ圧力をさらに強めることになる。また消費減税によって財政赤字が拡大すれば、市場からの信認低下によりさらに円安が進行する可能性が高い。
円安によって輸入物価が上昇すれば、食料自給率の低い日本では直ちに食品価格の上昇を招くことが避けられない。せっかくの消費減税の効果が一気に吹き飛んでしまう恐れが十分あるのだ。
 物価高に苦しむ国民生活への支援は急務だ。しかし、その手段として消費減税が本当に適切なのか。私たちは減税というポピュリズムの罠に陥っていないか。もし消費減税の5兆円を捻出する手段が本当にあるのなら、それはどう使われるべきなのかなどについて、熊野氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・消費減税はどのくらい国民生活を楽にするのか
・減税しても108円の食品が100円になるとは限らない理由
・5兆円の減収を賄う方法が本当にあるのか
・日本が取りうる選択肢とは
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■ 消費減税はどのくらい国民生活を楽にするのか
神保: 今日は2月27日、第1299回目のマル激となります。先日の選挙については色々な面から考えなければならないことがあると思いますが、316議席を持った高市政権の下での国会が始まりました。当面の一番大きな争点は、選挙期間中に公約をした消費税減税と、「責任ある積極財政」です。

 消費減税については、特定の政党の議員しか集まらない「国民会議」が開かれるということです。国会には税金の話をするために財政金融委員会などもあるので、本来は国会でやってほしいと思うのですが。野党で「国民会議」に参加しているのは今のところチームみらいだけです。「やってる感」を出す演出には苦労しているようですが、同時に強く意識しています。
皆、政治のことをちゃんと見ているわけではないので、高市さんはよくやっていると思ってしまいますが、残念ながら既存のメディアの力は地に落ち、お金とアルゴリズムでどうにでもできるSNSが支配的な地位になってしまいました。

 もし消費減税が実現するのであれば自民党案になると思いますが、これは2年間食品に限り消費税をゼロにするというものです。選挙公約として出した案ということで、勝った以上はやらないわけにはいかなくなっています。消費減税に関しては、チームみらい以外は何らかの形で謳っていて、大きく分けると「食料品0%」、「一律5%」、「消費税廃止」というところになります。自民と維新だけでも議席の4分の3を持っているという状況なので、彼らが主張している食料品0%になるとみられ、その場合には約5兆円の減収になります。

 そもそも本当にできるのかということは考えなければなりませんが、これをやることがどれだけ物価対策としての実効性があるのかという点も見なければいけません。もともと消費減税を主張しているれいわなどの主張は、税金を下げれば人々の生活が楽になると同時に、もっとお金を使うようになるから経済効果を生み、一時的に借金をしても回り回って返ってくるというものです。本当に経済効果があるのかどうか、もしあるとしたらどれくらいあるのかということを考える必要があります。

 また、それによって発生する減収分については借金を出さずに対応すると言っているので、どうやってやるのかという問題があります。5兆円の減収とありますが、そのうち3.2兆円くらいは国庫に入るお金が入らなくなるということです。また地方に回っている分の1.8兆円も入らなくなります。地方の方が国民生活に密接に関わる公共サービスを提供している場合があるので、下手をするとそちらの方がわれわれの実感としてはるかに大きな影響が出る可能性もあります。数字の話だけでなく、実際にどうなるのかということも含めて見ていきたいと思います。
ゲストは第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんです。

熊野: 私を含めて皆、増税は嫌なのですが、それには表と裏があり、使われ方が良いか悪いかという議論をしなければなりません。しかしそういう議論はゼロでした。チームみらいもそういう話は全くしていませんでした。社会保障財源として消費税以外に何を使うのでしょうか。5兆円の穴が開いたら、その5兆円は円安で儲かっている外為特会を引っ張ってくるのかもしれませんが、そういう話ではありません。医療、福祉、介護、子育ての安定財源をどうやって持ってくるのかということです。 
マル激!メールマガジン 2026年2月25日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1298回)
通念を疑うことが政治の暴走に歯止めをかける 
「社会保障は重すぎる」は本当か
ゲスト:権丈善一氏(慶應義塾大学商学部教授)
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 2月20日の施政方針演説で高市首相は、「社会保障と税」をテーマに国民会議を立ち上げ、国民的議論を行う考えを示した。制度の持続可能性が問われる中での議論の場づくりは一見、前向きに映る。しかし、そこでどのような前提や認識が共有されるのかによって、議論の方向性は大きく左右される。結論ありきの会議にならないかは、十分に注視する必要があるだろう。
 近年の選挙戦や政策論争では、「手取りを増やす」「年収の壁を壊す」といった、わかりやすく拡散力の高い言葉が躍り、やたらと社会保障の負担感が強調されてきた。しかし、果たして日本の社会保障は本当に過重なのだろうか。
 社会保障を専門とする慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、現在広く流布している社会保障をめぐる言説の多くが、「事実というより通念」だと指摘する。つまり、事実とは異なるということだ。
 象徴的なのが、高齢者を支える現役世代の負担を説明する際によく使われる比喩だ。かつては6人で1人の高齢者を支える「おみこし型」、次に3人で1人を支える「騎馬戦型」、将来は1人で1人を支える「肩車型」になると説明されてきた。しかし権丈氏によれば、実際に「就業者1人が何人の非就業者を支えているか」を示す就業者ベースの比率は、過去も現在もおおむね1対1であり、将来も大きく変わらないという。背景には、女性の就業拡大や高齢者の就労増加がある。
 税と社会保険料を合わせた国民負担率、あるいは社会保障給付の対GDP比で見ても、日本はOECD諸国の中で中位に位置している。決して日本だけが突出して社会保障負担が大きいわけではない。それにもかかわらず、国内では社会保障が若者を苦しめているというイメージが独り歩きしている。
 権丈氏は、「広く受け入れられているもっともらしい話が、必ずしも正しいとは限らない」と警鐘を鳴らす。特に懸念するのが、通念が若い世代にもたらす年金不信だ。
 一般には「今の若者は将来、年金をほとんどもらえない」と語られがちだ。しかし社会保障審議会年金部会の分布推計によれば、現在20歳の人が65歳になったときの給付額は、現在65歳の人が受け取っている平均年金額よりも大きくなる可能性が高い。厚生年金への加入期間が長くなる人が増えれば、給付水準も相応に高まるからだ。
 それでも「年金は破綻する」「若者は損をする」という事実とは異なる誤った通念が広がり続ければ、制度への信頼は損なわれ、結果として制度そのものを弱体化させる政治的圧力につながりかねない。また、その不安が年金不払いなどを引き起こせば、それが原因で年金制度が本当に破綻してしまいかねない。
 権丈氏は、経済学者ジョン・K・ガルブレイスが指摘した「通念(conventional wisdom)」の概念を引きながら、社会で広く受け入れられている「常識」の危うさを説く。通念は、人気を集め、聴衆の賛同を得ることで強化される。しかし、それが事実と乖離していれば、誤った認識に基づく政策決定が行われ、長期的に社会に深刻な影響を及ぼす。
 社会保障をコストとしてのみ捉え、負担削減の対象とみなす議論が強まれば、再分配や生活保障といった本来の機能が見失われる。その結果、かえって格差が拡大し社会的分断が進んでしまう。
 4月から徴収が始まる子ども・子育て支援制度、今後検討される給付付き税額控除など、社会保障をめぐる制度設計は大きな転換点を迎えている。私たちは、それらを「負担増」としてのみ捉えてはいないか。政治やメディアの言説によって、事実が単純化・歪曲されてはいないか。
 社会保障の機能と現実、通念に支配された政治の危うさなどについて、権丈善一氏と社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
 また番組冒頭では、捜査機関が証拠を捏造することは考えられないとの理由から、冤罪の疑いが濃厚となっている飯塚事件の再審請求を福岡高裁が却下したことの問題点を取り上げた。

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今週の論点
・私たちが信じきっている社会保障の「通念」
・「若い世代は年金をもらえない」という通念を疑う
・ポストトゥルースポリティクスの時代
・子育て支援は何のためにあるのか
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■ 私たちが信じきっている社会保障の「通念」
迫田: 今日は「社会保障の通念を斬る」といった内容の番組をやりたいと思います。今日2月20日、高市首相による施政方針演説がありました。今回、通常国会が冒頭解散され異例の選挙が行われましたが、選挙中は繰り返し社会保障の問題や物価高が言われていました。施政方針演説では国民会議を設けるという話がありました。

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<映像> 2026年2月20日 施政方針演説
高市首相: 手取りの増加に向けた対策も講じます。いわゆる103万円の壁について、働き控えの解消と手取り増加の観点から、178万円に引き上げます。税・社会保険料負担や物価高に苦しむ中所得・低所得の方々の負担を減らすため、給付付き税額控除の制度設計を含めた社会保障と税の一体改革について、超党派で構成される「国民会議」において検討を進め、結論を得ます。

人口減少・少子高齢化においては、社会保障制度における給付と負担の在り方や所得再分配機能について、国民的議論が必要です。国民会議において、与野党の垣根を越え、有識者の叡智も集めて議論し、結論を得ていきます。
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迫田: 「国民会議を設ける」という話が2回出てきています。1つ目は超党派で構成される国民会議において給付付き税額控除を含め、社会保障と税の一体改革を議論すると言っていて、国会議員だけでやるような雰囲気です。もう1つは給付と負担のあり方について与野党の垣根を超え、有識者の叡智も集めてやると言っています。これが同じものなのかどうかは分かりません。1つ目の超党派でやると言っているものは国会でやっても良いのではないかと思えるような議論です。

宮台: 専門家を呼びたくないのかなと思ってしまいます。専門家で議論してある種の合理性を貫徹するという形では結論が出せないので、国会議員たちが超党派で議論して合意したという正当性を調達したがっていると推定できます。

迫田: その超党派も全党派なのかどうかは分かりませんし、それならば国会で議論しても良いのではないかという意見もあります。

宮台: 国会議員は何の専門性もなく、彼らが議論しても意味がないのでやめた方が良いと思います。 
マル激!メールマガジン 2026年2月18日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1297回)
高市自民党はいかにして歴史的勝利を勝ち取ったのか
ゲスト:高安健将氏(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
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高市自民党はいかにして歴史的勝利を勝ち取ったのか。
 2月8日に投開票された衆議院選挙で、自民党は単独で316議席を獲得し、戦後初となる「単独3分の2超」という歴史的圧勝を成し遂げた。比例名簿に登載した候補者数が足りず、14議席を他党に譲るという異例の事態まで生じるほどの地滑り的大勝利だった。
 一方で、選挙直前に立憲民主党と公明党が合併して急ごしらえで誕生した中道改革連合は、選挙前の172議席から49議席へと大敗。共同代表を務めていた野田佳彦氏と斉藤鉄夫氏は責任を取り辞任し、2月13日に行われた代表選では小川淳也氏が新代表に選出された。小選挙区では自民党の249議席に対し7議席しか取れない、二大政党の一角を占める中道改革連合としては文字通りの完敗だった。
 2009年の政権交代選挙で民主党が308議席を獲得した際、日本社会には歴史が動いたというある種の熱狂感があった。しかし今回、自民党はそれを上回る316議席を獲得したにもかかわらず、当時のような熱狂や高揚感はほとんど感じられない。それなのになぜこれほどの大勝が生まれたのか。
 この点について、早稲田大学教育・総合科学学術院教授で比較政治学を専門とする高安健将氏は、高市首相の個人的な人気が自民党の勝利に寄与したことは認めつつも、「選挙期間の短さ」と「ネット広告の力」を自民党大勝の一因として挙げる。
 高市首相が1月19日に解散を発表した記者会見の内容を見ても、自民党側は明らかに周到な準備を整えていた。これに対し中道を含む野党陣営は、まさか政権が来年度予算の年度内成立を先送りしてまで真冬の選挙に打って出るとは予想できていなかった。特に選挙直前に結党された中道改革連合は、その理念や政策はおろか党名を有権者に浸透させることもできないまま選挙を戦わなければならなかった。明らかに準備不足であり、不意打ちを喰らった形となった。
 高安氏はまた、いわゆる「7条解散」の問題点も指摘する。衆議院で多数を握る側が、自らに有利なタイミングで解散・総選挙を打てる構造は、準備の整った政権与党に圧倒的に有利に働く。本来、憲法7条は国民の意思を議会構成に反映させるための制度設計であるはずだが、政権の都合で運用されるようになれば、有権者の判断が十分に反映されない結果を招きかねない。
 今回も高市政権は自民党独自の情勢調査で自民党圧勝の観測が出る中、今選挙をすれば必ず勝てるとの確信を得た上で、万難を排して解散に打って出た。7条解散は、独自に大規模な情勢調査を行い、自分たちに有利な状況にあると判断できる時に首相が自由に解散総選挙に打って出ることを可能にする、明らかに与党に圧倒的に有利な制度だった。
 もう1つ、今回の選挙で大きな役割を果たしたとされるのが、ネット広告の威力だ。高市首相が登場する自民党の30秒のYouTube動画の1つは、投稿から投票日までに約1億6,000万回再生された。他の動画よりもその動画だけが突出してアクセス数が多いことから、その動画のプロモーションに莫大な広告費を注ぎ込んだ結果だと考えられる。
 テレビCMとは異なり、若年層を含む幅広い層に直接リーチできるネット広告は、従来の選挙戦術を大きく変えつつあるが、選挙期間にまでネット広告を自由に打てることになると、資金が豊富な政党が圧倒的に有利になってしまう。
 一方で、中道改革連合が大敗した背景として、高安氏が強調するのは「若い世代へのメッセージの欠如」だ。単にSNS戦略が下手だったというレベルの問題ではなく、そもそも若者に向けた政策的な中身がほとんど提示されていなかった。雇用、住宅、教育費、将来不安といった若年層が直面する具体的課題に対し、どのようなビジョンを示すのか。その点で中道側は有権者に訴えかける言葉を持たず、結果として若い世代から見放された格好になった。
 さらに高安氏は、国会がなかなか刷新されない背景として、小選挙区で敗れても比例代表で「復活当選」できる「重複立候補」の問題を挙げる。小選挙区制は有権者がノーを突きつけた政党をこてんぱんに敗北させることを可能にする制度だ。しかし、小選挙区制で敗れた候補者が重複立候補によって議員として生き残ることが可能になっていることが、政界の抜本的な刷新の妨げになっていると高安氏は指摘する。
 比例区を残すことで小選挙区制の過激な変化を緩和させる制度には一定のメリットがあるが、小選挙区制で「落選」の烙印を押された候補を比例区で復活させる重複立候補制度は、有権者の政治参加の意欲を削ぐことにもつながり、制度の意図にも反する。
 「高市フィーバー」と言えるほどの高市首相個人への熱狂的支持が盛り上がっていたわけでもない中で、なぜ自民党はこれほどの歴史的勝利を収めることができたのか。そして、中道勢力はなぜ若い世代からの支持を失い続けているのか。早稲田大学の高安健将氏を迎え、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司とともに、今回の選挙結果の分析とそれが露わにした日本政治の構造的問題について議論した。

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今週の論点
・自民圧勝の背景にあるもの
・中道のメッセージはなぜ若い世代に響かなかったのか
・ネット選挙の実相
・今回の選挙で改めて浮き彫りになった選挙制度の問題点
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■ 自民圧勝の背景にあるもの
神保: 選挙で衝撃的な数字が出たので、その中身をしっかり見ていきたいと思います。宮台さんはまず今回の選挙結果を総論的にどのように受け止めていますか。

宮台: 僕はいつも通り大歓迎です。ほとんどフリーハンドになった状態でやりたいようにやらせれば沈没します。エネルギー問題や、皇室の問題についても天皇を革命の駒にすることも可能になるかもしれません。そういう意味でもできるだけ過激にやってほしいと思います。

神保: 加速主義的な立場ですよね。事前の下馬票で自民党の優勢は報じられていましたが、それにしても大勝しています。

宮台: フィーバー感がないにもかかわらず大勝していたというのがすごかったですよね。

神保: 誰がどこに投票したのかについては見る必要があります。7条解散やネット広告など、今までも言われていながら改善しなかった問題が明らかになりました。もともとネット広告については参政党や国民民主党が早くに手をつけて支持率が上がりました。しかしいよいよ自民党がお金を注ぎ込みそれをやり始めれば、ネット広告が上手い政党がいくつかあるといった話ではなくなる可能性があります。

 マスメディアは意味をなさなくなり、完全にネット選挙に移行する1つのきっかけになる可能性もあります。しかし本当にそれで良いのかという問題があり、アメリカではSNSの子どもへの影響で集団訴訟が起きています。その槍玉に上げられているものが、無限にスクロールができることと、自動に出てくるという問題です。今回の選挙ではそれがフルに使われました。その結果、案の定、若い世代の自民党の得票は今まで比べて大きく伸びています。

 今日のゲストは早稲田大学教育・総合科学学術院教授の高安健将さんです。316議席という数字は前代未聞ですが、まず政治学者としてどう見ていますか?

高安: 何かこれまでと違うことが起きています。大きなストーリーとしてはインターネットの問題があると思いますが、伝統的な政治学の考え方で言うと、総選挙は民意を確認して一定期間政権を預けるための機会なので、有権者がきちんとそれまでの業績を見て判断する時間が必要です。しかし今回はそういう時間が用意されず、チャンピオンが準備できたら試合をするようなものでした。それは高市さんの、ものすごくよく練られたスピーチに表れていていました。
それに対して野田さんや斉藤さんのスピーチは掘っ建て小屋のようなものでした。この差を考えた時に、もちろん野党が準備していないということは問題ですが、いきなり選挙が来るというのは有権者にとっても良くないことです。しかしそれで勝ってしまいました。選挙運動期間も16日で、これも人に考えさせないための短さです。

 政権と政策を変えたので必要な解散だったとは思いますが、問題は2024年に一度権力が構成されたにもかかわらず、自分たちが気に入らなかったのでもう一度首班と政策を変えてやり直しをしたことです。維新の大阪都構想とも通じる点がありますが、良いと言うまでやり続ける。そういう解散の仕方は有権者からすれば怒った方が良いと思います。 
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著者イメージ

神保哲生/宮台真司

神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。

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