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マル激!メールマガジン 2026年4月8号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1304回)
すべてが石油でできている世界で石油が足りなくなると起きること
ゲスト:岩間剛一氏(和光大学経済経営学部教授)
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 世界は石油でできている。
 そう言っても過言ではないほど、われわれの身の回りは石油由来製品で溢れ返っている。プラスチックの生活用品は言うに及ばず、洋服も洗剤やシャンプーも、さらに医薬品から農業用品にいたるまで、今やわれわれは石油を着て、石油を食べて、石油に囲まれて暮らしていると言っても誇張ではないほど、石油に頼って生きている。
 そんな世界で石油の主要な生産地である中東で戦争が始まってしまったのだから、世界中が影響を受けないはずがない。特に原油の95%を中東に依存する日本にとって、それは死活問題となるのは当然だ。
 世界が一刻も早い停戦を期待する中で注目された4月2日のトランプ大統領の声明が、単なる攻撃継続の表明に終わったことに世界中が落胆し、原油市場も他の金融市場も敏感に反応している。株価は依然全面安でガソリン価格の上昇はとどまるところを知らず、生産現場でも医療現場でも、様々な製品価格の高騰や品不足を引き起こしている。
 石油不足についてはメディアがガソリン価格のことばかり大きく報じる中、高市政権は市民を動揺させないために、また政権の支持率を落とさないためにも、多額の補助金を入れることでガソリン価格がリッターあたり200円を大きく超える事態を何とか回避しようとしている。現在1リットルあたり約48円の補助金が注ぎ込まれることで、ガソリン価格は辛うじて170円前後を保っているが、これは単にガソリン代を税金で補填しているだけであり、財政負担を考えるといつまでも人為的に価格をコントロールし続けることはできない。
 誰の目にもわかりやすいガソリン価格が「危機」の1つの指標となるのは避けられないとして、実はより深刻なのは「素材」としての石油不足の影響だ。
 私たちの身の回りを見渡せば、プラスチック、ゴム、合成繊維、洗剤から化粧品に至るまで、ほとんどが石油由来の製品だ。実際、木材や鉱物、皮革、綿などの天然素材でできたもの以外は、ほぼすべてが石油由来製品と言っていいだろう。これらの多くは原油を精製して得られるナフサを原料としている。つまり、石油不足とは単なる燃料価格の問題ではなく、社会の物質基盤そのものが揺らいでいるのだ。
 中でも医療分野への影響は深刻だ。
 手術用マスク、注射器、カテーテル、医療用グローブ、人工呼吸器、点滴バッグ等々。これらはすべて使い捨てのプラスチック製品であり、石油からできている。また、それを輸送するためにも石油が必要だ。すでに一部の医療現場では、供給不安の兆しが出始めている。さらに、麻酔薬や医薬品の多くは、原料や製造過程で石油化学製品に依存している。これはいずれも人命に関わる重大な問題となる。
 ガソリン価格は原油価格にほぼ即時に反応する。しかし、ナフサ由来の製品はそうではない。むしろ問題は、数カ月単位で遅れてやってくる。最初は価格上昇という形で現れ、やがて供給不足に変わる。そして気づいたときには、日用品や医療資材、食品包装などが手に入らなくなる。
 石油問題に詳しい和光大学経済経営学部の岩間剛一教授は、日本では1970年代のオイルショックの教訓から戦略物資でもある石油は254日分(国家備蓄が約146日分、民間備蓄が約101日分、産油国共同備蓄が約7日分)が備蓄されているが、ナフサは民間依存のためせいぜい20日分ほどしか備蓄がないと指摘する。税金を投入して一時的にガソリン価格の高騰を抑え込んでも、時間の問題で石油由来製品に依存する現場では危機が訪れることが避けられない。
また254日というのは、これまで通りのペースで石油を消費した場合、約8カ月ということにすぎない。考えたくないことだが、それまでに中東情勢が安定しホルズ海峡の封鎖が解かれなければ、日本では石油の供給自体が完全に止まってしまう可能性すらある。
 岩間氏は、今回の状況は1973年の第1次オイルショックよりもずっと深刻だと語る。その理由は、オイルショック当時は産油国が政治的判断で輸出制限をしたために石油価格が暴騰し、日本経済は大きな打撃を受けたが、実は日本向けの石油の供給そのものは維持されていた。石油の値段は上がったがモノ自体は入っていたのだ。しかし、今回の石油危機はホルムズ海峡という物理的な輸送路が遮断されることで起きている。
つまり今回は、「価格の問題」ではなく「そもそも届かない」という問題になりつつあると岩間氏は言う。しかも石油に対する日本の中東依存度はオイルショック当時の約78%から、現在は約95%にまで高まっている。
 70年代のオイルショックは、日本社会に省エネという強烈な教訓を残した。しかしその後、原油価格が安定し、供給が拡大すると、その記憶は急速に風化した。
 石油は極めて効率がよく、扱いやすいエネルギーであり素材でもある。石油が果たしている役割をそれ以外の代替品に置き換えようとすると、莫大な手間とコストがかかる。石油の手軽さと便利さのおかげで、われわれは大量生産、大量消費、大量廃棄という文化をとことん享受するようになった。しかし、その一方で、石油は地球温暖化やマイクロプラスチックといった深刻な環境問題も引き起こしている。また、何よりも地政学的なリスクが大きい。つまり私たちは、持続可能性を犠牲にしながら、石油が提供する便利さに飼い慣らされてきたということだ。
 今は歴史上の出来事のように語られることが多い、1970年代のオイルショックを超えるほどの深刻な石油危機に直面した今、われわれは果たしてこれまで通りエネルギーや食料を海外に依存し続けていて本当にいいのか、いくら便利で安いからといって、これまで通り石油由来製品に依存した生活を送り続けていていいのかを、自問すべき時に来ているのではないか。今のわれわれの生活がどれだけ石油に依存しているのか、そのリスクは何なのかなどについて、石油の専門家の岩間氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・石油とはそもそもどのような資源なのか
・現在のホルムズ海峡封鎖が1970年代の石油危機より深刻な理由
・ガソリン補助金の功罪
・大量消費、大量廃棄の石油依存生活を続けることのリスク
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■ 石油とはそもそもどのような資源なのか
神保: イラン問題が起きてから石油については色々な動きがありますが、今日はどちらかというと石油備蓄やガソリン価格の話よりも、われわれがここまで石油に依存するようになった現状に目を向けたいと思います。これは食にも関係してくることですね。

 この企画を考えたきっかけは、歯医者さんから麻酔が品薄だという話を聞いたことでした。これについては別の理由もあり、国内シェアの7割を占めている製薬会社の製造プログラムに不具合があったため出荷が制限されたということなのですが、麻酔が石油由来だというのはあまり考えたことはありませんでした。
医療品にはものすごく石油由来のものが多い。医療用の手袋やカテーテル、消毒用のエタノールなどはすべて石油由来です。遠くのイランで起きている問題が、日本の医療現場にも大きく影響してくることになります。それが食品やその他のものにも影響してくることは間違いありません。石油というとガソリン代などを考えますが、ガソリンだけではなく、われわれは石油を着て石油を食べる生き物になってしまっているのではないのでしょうか。

宮台: 燃料というよりも色々なものの原材料になっているということですね。

神保: 短期的には物価が高くなるということですが、4月1日のトランプ大統領の演説を見ていると出口の目途が立っていないように見えます。4月2日は陸軍のトップを解任したという話もあり、無茶な上陸作戦に反対したトップを切ったのではないかと。最後に大きく戦い、一方的に勝利宣言をして終わったことにするというシナリオが現実に起きそうなことを思わせる演説でした。
この2~3週間は上陸を含めた非常に熾烈な攻撃をすると言っています。そうなればアメリカ側も含めて多くの人命が失われます。アメリカが一方的に攻めて目的を達成したと言ってもイランはそれで納得するわけがありません。何万発、何千発の爆弾を落としたところで、イランが「石器時代」に戻るということはありません。イランのリスクはかえって大きくなっていく。 
マル激!メールマガジン 2026年4月1日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1303回)
法秩序が崩壊した世界を日本はどう生き抜くか
ゲスト:柳原正治氏(九州大学名誉教授、放送大学名誉教授)
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 ウクライナ、ガザ、ベネズエラ、そしてイラン。いま世界で起きているのは単なる地域紛争の連鎖ではない。20世紀の2度の世界大戦という惨禍の反省の上に80年かけて積み上げてきた国際法秩序そのものが、根底から揺らいでいるのだ。
 本来、国家による武力行使は国際法上、原則として禁止されている。例外は基本的に2つしかない。国連安全保障理事会の決議に基づくものか、自国が攻撃を受けた場合の自衛権の行使だ。これはいわば、戦争を法で縛るための最低限のルールだった。
 しかし現実には、そのルールがもはや機能していない。ロシアによるウクライナ侵攻。イスラエルによる軍事行動。そしてアメリカによるベネズエラ侵攻とイラン攻撃。いずれも、あからさまな国際法違反と見るべき事案だが、決定的なのは、今の世界ではそれを止める仕組みも、裁く仕組みも機能していないことだ。言い換えれば、国際社会はすでに「無法状態」と化しているのだ。
 今回のイラン攻撃についてアメリカは「自衛権の行使」を主張している。しかしここで問題になるのが、国連憲章第51条の解釈だ。自衛権も無制限ではない。一般的な国際法解釈では、「差し迫った武力攻撃」に対してのみ認められるとされている。
 では、今回のケースはどうか。アメリカに対する「差し迫った脅威」が具体的に存在したのか。この点については、アメリカ国内からも疑義が出ている。アメリカの対テロ対策の責任者を務めていたジョー・ケント氏は、イラン攻撃の正当性に疑問を突きつけて職を辞している。米国際法学会も、明確な根拠が示されていない以上、国際法違反の可能性が高いとの見解を示している。つまりここで起きているのは、「違法かもしれない」という問題ではなく、違法であっても止められない世界が現実化しているということなのだ。
 一方、ヨーロッパでは明確な変化が起きている。EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は、ヨーロッパの戦略的自立の必要性を訴え、防衛力強化に舵を切った。いわば、アメリカ一極に依存してきた安全保障体制からの離脱を模索し始めている。
 これは極めて重要なシグナルだ。同盟国であっても無条件に追随する時代ではなくなっているのだ。
 では、翻って日本はどうか。
 政府は、今回のイラン攻撃についての法的評価を避けている。同盟国アメリカへの配慮があることは理解できなくもないが、問われているのは、日本が「法の支配」を守る側に立つのか、それともその破壊者側に付くのかという、国としての根本的な立ち位置だ。同盟とは従属ではない。むしろ、同盟国だからこそ、誤りがあれば指摘する責任があるのではないか。
 これから国際秩序はどのように変わっていくのか。国際法の権威として知られる柳原正治・九州大学名誉教授は、歴史的に見て、秩序の大転換は常に大戦争の後に起きてきたと指摘する。確かに人類は大きな戦争がなければ新しい秩序を築くことができていない。しかし、だとすれば、今起きている秩序の崩壊は、次の大きな戦争への序章ということになってしまうではないか。
 国際法が機能しない世界で、日本は何を拠り所にすべきか。何があってもアメリカに抱きついていくだけで本当にいいのか。同盟と自立のバランスをどう取るのか。国際法の第一人者である柳原正治氏を迎え、崩壊しつつある国際秩序の現実と、その中で日本が取るべき選択について、神保哲生、宮台真司が徹底的に議論した。

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今週の論点
・大国による国際法への「挑戦」
・イラン攻撃は国際法上、正当化な武力行使だと言えるのか
・こうまでアメリカがイランを敵視する理由
・アメリカからの自立を模索するヨーロッパ
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■ 大国による国際法への「挑戦」
神保: 今日はあえて国際法をテーマにしてみました。今回のイラン攻撃もそうですが、ロシアによるウクライナ侵攻、ガザ攻撃、ベネズエラ攻撃などを見ると、ほぼ無法状態になっているのではないかという思いがあります。「国際法違反だ」とはよく言われますが、そもそも国際法とは何なのかということをちゃんと押さえられていない部分があるかもしれません。今日はそこをきちんとやっておきたい。
また、それが崩れた世界がどのようなものなのか、その中で日本はどのような選択をすべきなのかを含めて議論したいと思います。

宮台: 国民国家に限らず「法治」という概念は主権国家の内部の話なので、国際法は主権国家の中の概念には馴染みません。国際法は基本的に慣習法で、その慣習法を守ろうという国際連合が戦後にできたというだけなんです。

神保: ゲストは国際法の権威で、九州大学名誉教授、放送大学名誉教授の柳原正治さんです。直近ではイラン攻撃がありますが、その前にベネズエラ、ガザ、ウクライナでも同じようなことがありました。それ以前は、湾岸戦争など色々なことはあったものの、比較的平和な時代を過ごしてきたと思っていた。イランのような状況が当たり前の時代に入ったように見えます。国際法の専門家としては、今の世界状況を総論的にどのように見ていますか。

柳原: 冷戦が終わった時、国際法学者はこれで世界に平和が訪れると考えました。私は1983年から1985年まで西ドイツに住んでいましたが、東西ドイツはいつ1つになるのかと周りに聞くと、今世紀中は無理だと言われました。しかしたった5年でできた。この喜びは世界中に広がっていたと思います。
しかしその後湾岸戦争がありました。あれが合法だったのかどうかは、国際法上、非常に大きな議論がありました。日本の国際法学者の中でも反対を表明する人が多く、理論的な論争が巻き起こりました。

 その後も1999年にはNATOによるユーゴ空爆、2001年にはアフガニスタン紛争、2003年にはイラクに対する米国などの武力行使がありました。2014年にもイスラム国(IS)に対するシリア領内での空爆があり、いくつもの大きな戦闘が起きていました。

 確かに2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ここ2年は特に中東で大きな動きがあります。ここ2~3年が目立っているというのは間違いありませんが、『プラクティス国際法講義』という教科書の序文では何年も前から、今は国際法に対する危機ではないのかということを書いてきました。特にロシア、中国、アメリカといった大国が既存の国際法に対する挑戦を行っているのではないか。ここ2年ほどはそれが特に際立った形で出ていると見ています。

神保: 国際法では本来、かなり特別な場合を除いて武力攻撃が禁止されています。しかしこれだけ武力行使が行われている。しかも、ロシアのウクライナ侵攻以外はほとんどアメリカとイスラエルが関わっています。このような無法状態の中でも、日本はアメリカに守ってもらうしかないという考え方が今の高市政権の路線だとすれば、日本は法の破壊者側に立つことになるのではないかという心配があります。

宮台: これについてチョムスキーは、第2次世界大戦後は国連を中心とした国際法があるとされているが、一方的に破り続けているのはアメリカであると指摘しています。しかし重要なことは、それでも国際法があるという前提で議論できたという点です。たとえ「やってる感」であっても、それができるのは重要なことです。法は暴力的威嚇に基づく命令ですが、国際法は相互期待です。信頼したことにしているので、自分がそれを破ると国の正当性がなくなり、攻められても文句が言えない状態になります。

柳原: 国際法学者として冷戦以降の状況を見ると、どの国も国際法上の正当化理由を出します。国際法上違法ではないという論理を見つけようとしていて、それはプーチンも同じです。彼ですら国連憲章51条の集団的自衛権を使い、自分は国際法に反したことはしていないと主張します。

 そういう意味で私が驚いたのは今年1月のトランプ氏のニューヨークタイムズでのインタビューです。自分を止めることができるのは自分のモラリティとマインドだけであり、国際法はいらないと発言しました。これは国際法学者にとってショックな発言でした。日本のマスコミではその部分だけが取り上げられていましたが、その後に「トランプ政権は国際法を守らないのか」と問われ、「守る」と答えています。「しかしそれは定義次第だ」とも言いました。それでも、国際法を守ると言ったことには一縷の望みがあるかもしれません。 
マル激!メールマガジン 2026年3月25日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1302回)
日本はどこでポスト福島のエネルギー政策を間違えたのか
ゲスト:飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)
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 70年代のオイルショックの教訓も、15年前の福島原発事故の教訓も、日本はまったく活かせていないようだ。
 アメリカとイスラエルによるイラン攻撃と、それに対するイランの報復がエスカレートする中、エネルギーをめぐる国際情勢は再び緊張の度を高めている。原油価格の上昇は燃料費にとどまらず輸送費や食料価格を通じて日本経済全体に波及し、エネルギーと食料の双方で自給率の低い日本の脆弱性を改めて浮き彫りにしている。日本は世界の中でも中東からの石油に最も大きく依存している国だからだ。
 しかし、問題は外部環境だけではない。福島第一原発事故から15年を経た現在、日本の再生可能エネルギー比率は依然として約25%にとどまり、世界的なエネルギー転換の潮流から完全に取り残されつつある。再生可能エネルギーに関連した様々な技術でも、日本は取り残されつつある。なぜ日本は、ポスト福島のエネルギー政策に失敗したのか。
 飯田氏がまず問題視するのは、ポスト福島の日本の電力システム改革が、実際には「既得権益を守ることを優先した自由化」に終始している点だ。発送電分離は形式上は実施されたものの、実際には送電会社に対する大手電力会社の影響力が依然として強く残っている。その結果、電力市場における意思決定は既存の発電事業者に有利に働きやすく、再生可能エネルギーの導入が優先されにくい構造が温存された。
そもそも電力会社にとって、自分たちの利益に直接つながる原子力や火力発電を減らしてまで、事実上誰もが参入できる再生可能エネルギーのシェアを増やしていく動機は働きにくい。この制度的バイアスが、日本の再エネ導入の重たい足かせになっていると飯田氏は言う。
 再エネ普及の柱として導入された固定価格買取制度(FIT)にも、根本部分で構造的な問題があった。日本のFITは「認定時に買取価格が決まる」仕組みを採用したため、事業者は設備コストの低下を待ってから稼働させた方が利益を得やすい。その結果、認定容量は増えても実際の稼働は遅れ、普及のスピードが鈍化するという逆転現象が起きた。本来、技術革新によってコストが低下する局面では、導入が加速するはずだが、日本では制度設計の不備がその流れを阻害してしまった。
しかもそれは再エネ賦課金という形で必要以上に一般の消費者の負担を増やす結果となっている。
 ところが、海外では状況が大きく異なる。太陽光や風力は多くの地域で最も低コストの電源となり、導入は急速に拡大している。二酸化炭素を排出せず、燃料輸入にも依存しない再エネは、安全保障と経済合理性の両面から選好されるようになっている。
 議論の核心は、エネルギー問題が単なる技術やコストの問題ではなく、「社会の統治構造」に関わるテーマであるという点にある。従来の大規模集中型エネルギーは、中央集権的な統治と親和性が高い。一方、再生可能エネルギーは地域分散型であり、電力の生産と消費の関係を根本から変える可能性を持つ。この転換は、既存の利害構造や制度の再編を伴うため、必然的に抵抗が生じる。日本で再エネ導入に対する風当たりが強い背景には、こうした構造的要因があると飯田氏は指摘する。
 福島事故後、日本は一時的にエネルギー転換への機運を高めた。しかし、その後の制度設計と政策運営の中で、既存システムとの折り合いを優先し、結果として抜本的な転換の機会を逸した。世界が再エネを軸にエネルギー安全保障と経済競争力の再構築を進める中、日本は依然として過渡的な状態にとどまっている。問われているのは、単なる電源構成の見直しではない。エネルギーを誰が、どのようにコントロールするのかという、より根源的な問いである。
 アメリカとイスラエルのイラン攻撃により、対外依存度が高い日本のエネルギー政策がにわかに危機を迎えているが、そのリスクは15年前に致命的な原発事故を引き起こしておきながら、その後、再エネへの転換に失敗し、以前としてエネルギーの対外依存度を引き下げることができていない日本の政策的な失敗という面が大きい。そして、それはまた日本が再エネとデジタルを融合させた新しいエネルギー技術の面で世界から大きく後れを取る原因となっている。
 太古の時代から人類の統治形態はその時々のエネルギーのあり方と表裏一体の関係にあった。人類の歴史は、社会の統治形態をその時々のエネルギー利用の方法に適応させることに成功した国や社会が、より多くの繁栄を享受してきたと言っても過言ではないだろう。その意味でも今の日本の状況は危機的だ。
 今からでも遅くはない。日本はポスト福島の教訓を活かし、エネルギーの対外依存度を減らすと同時に、世界の技術革新の潮流から落ちこぼれないようにしなければ、短期的にも長期的にも大きく国益を損なうことになる。環境エネルギー政策研究所所長でエネルギー政策、とりわけ再生エネルギー分野の第一人者の飯田哲也氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・イラン攻撃で改めて問われる日本のエネルギー事情
・世界で劇的に進むエネルギー革命の実相
・日本ではなぜEVが普及しないのか
・統治形態とエネルギーの密接な関わり
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■ イラン攻撃で改めて問われる日本のエネルギー事情
神保: イラン攻撃によって世界中が大混乱になっています。先週のマル激では、トランプのような大統領を選ぶと何が起きてもおかしくないのだというような話をしましたが、今日はその延長で、エネルギー問題を取り上げたいと思います。
今まさにエネルギー問題を中心として世界が大変な状況になっているのですが、今日のテーマは単なるエネルギー政策にとどまりません。実はエネルギーは、統治形態と完全に表裏一体の関係にあるんですね。

宮台: エネルギーと食の共同体自治がない状態、言い換えればエネルギーを外部に依存している状態では、国際関係のプレイヤーである主権国家としての主権の行使には、どうしても枠がはまります。国際自由貿易体制とは言っても、何に依存しているのか、また何が自立できていないのかという種別がとても大事だということです。

神保: 日本のようにエネルギー源を持っていない国はエネルギーの対外依存度が非常に高く、ホルムズ海峡に少し機雷が撒かれただけでも、ガソリンがリッター200円近くになっています。暫定税率なしで200円なので、もし暫定税率があれば225円くらいになっていることになります。財源を犠牲にして暫定税率をやめたのですが、今回のことで吹っ飛んでしまったわけですね。3.11があってもエネルギー政策を転換できなかった日本が、イランで有事が始まったことで簡単に転換できるとは思いませんが、いよいよここにきて危なくなっています。

 さて、今日のテーマですが、古くからエネルギー源と統治形態は表裏一体の関係にありました。先史時代に人間が火を使い始めると、薪・枯れ木・草・樹皮などの燃料の確保と管理が重要になった。それが時代を経てだんだん中央管理になっていきます。エネルギーは農作業の生産性にも直結していて、鉄は戦争だけでなく農具にも関係しています。農具が鉄になるだけで生産性が大きく上がりました。金属を使うためには火が必要で、そのためにもエネルギーが必要になります。

 そして今、エネルギー源としての石油が限界に来ています。石油は偏在しているのでその地域に欧米列強の利権が集中し、地政学的なリスクが大きい。また原子力にも大変なリスクがあります。原子力発電は核の問題とも直結していて、核の保有は覇権とも関係しています。

 そうした中で新しい再エネの技術が出てきています。これは国内でまかなえる可能性があり、対外的な依存を減らすこともできる。良いことのように聞こえますが、これは権力の分散にもつながり、地方の自立を意味するので、ある人々にとっては都合の悪いことかもしれません。再エネは本質的に分散的なエネルギー源なので、中央集権的な世界で生きている人たちは簡単にこれを許すことはできません。

 2024年の日本の原油の輸入元を見ると、海外依存度が99.7%、中東依存度が95.1%となっています。アラブ首長国連邦43.7%、サウジアラビア40.0%、クウェート6.8%、カタール4.1%。イランからは制裁対象になっているので買っていませんが、ホルムズ海峡を実効支配しているのはイランなので、ペルシャ湾岸の国々から買う場合はそこを通らなければなりません。 
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著者イメージ

神保哲生/宮台真司

神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。

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