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  • 松谷創一郎氏:ジャニーズを「サンクチュアリ」(聖域)化し、ジャニー喜多川を「怪物」にしたものとは

    2023-07-05 20:00
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年7月5日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1160回)
    ジャニーズを「サンクチュアリ」(聖域)化し、ジャニー喜多川を「怪物」にしたものとは
    ゲスト:松谷創一郎氏(ジャーナリスト)
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     その月の5回目の金曜日に特別企画を無料でお送りする5金スペシャル。
     3月以来3ヶ月ぶりとなる今回は、映画や芸能に詳しいジャーナリストの松谷創一郎氏をゲストに招き、5金恒例となった映画特集とジャニーズ性加害問題のダブルタイトルをお送りする。
     取り上げる映画はずばり、現在ネットフリックスで配信中の『サンクチュアリ-聖域-』とカンヌでも話題となった是枝作品『怪物』の2つ。そして、それと同時に、ジャニーズ事務所の性加害問題とその背景にある日本の芸能界やスポーツ界に蔓延る人権無視の前時代的な風土とそれに平然と乗っかって商売をし続けるメディアの責任などを議論した。
     BBCのドキュメンタリーをきっかけに表面化したジャニーズ事務所の性加害問題は、元ジャニーズ事務所社長の故ジャニー喜多川氏(本名・喜多川擴=2019年7月9日死去)が長年にわたりデビュー前の所属レッスン生(ジャニーズジュニア)に性的行為を繰り返していたというもの。本人が亡くなっていることもあり、また事件の内容から被害者にとっても被害を名乗り出ることに相当なリスクが伴うことから、未だ全貌は明らかになっていないが、被害者は数百人単位にのぼるともいわれ、しかもその大半が未成年だったという、前代未聞のセクハラ事件だ。
     それにしてもなぜジャニーズ事務所が芸能界の中で「最大手にして異端」(松谷氏)という特異な地位を維持し、その中でジャニー氏による性加害が何十年にもわたり放置されてきたのだろうか。ジャニー氏によるセクハラ行為の噂はかなり以前から芸能界はもとよりその外にも漏れ伝わっており、ジャニーズ事務所と週刊文春との間で争われた名誉毀損裁判では、2004年に最高裁までがジャニー氏による性加害報道の「真実性」を認定していた。
     松谷氏はジャニーズ事務所は時にはタレント引き上げや共演NGなどの間接的手法を使い、また時にはジャニー氏の姉でジャニーズ事務所名誉会長だった故メリー喜多川氏(本名・藤島メリー泰子=2021年8月14日死去)による強権的な手法を使ってメディアに圧力をかけることにより、ジャニーズ事務所を退所したタレントが芸能活動を継続することが困難になるような状況を作り出していたと指摘する。
     実際、2016年のSMAPの解散・独立騒ぎの後、ジャニーズ事務所を退所した香取慎吾、草なぎ剛、稲垣吾郎の3人は、それまで毎日のように出ていたテレビへの出演がぱったりなくなっていた。これは最終的には2019年にジャニーズ事務所が公正取引委員会から注意を受けている。
     実はジャニーズ事務所は単に事務所を退所したタレントに対してだけでなく、ジャニーズ所属のタレントと競合する他事務所のタレントに対しても、同様の手法を使ってメディアに圧力をかけていたという。松谷氏によると、例えば沖縄出身のダンス・ボーカルグループDA PUMPはそれが理由で長らくテレビの音楽番組には出られない状況が続いていたそうだ。
     公取から注意が出されたように、事務所をやめた人間がその業界で働けなくなるように圧力をかけるような行為は品位に欠けるばかりでなく、公正な競争を阻害するとして独占禁止法にも触れる。特にジャニーズ事務所は自らの影響力をそのような形であからさまに行使してきたとみられるが、ジャニーズ事務所以外でも芸能界では事務所を抜けたタレントがその後、長らく干されるというようなことは、これまで幾度となく繰り返されてきた。
     時にそれは露骨な圧力であったかもしれないし、また時にそれはメディア側の忖度によるものだったかもしれないが、いずれにしても事務所をやめたらその業界にいられなくなるというような慣習が放置されれば、事務所から嫌な行為を強要されたり無理難題をふっかけられても、タレントはそれを甘受せざるを得なくなる。
     いやこのような慣習は芸能界だけでなく、スポーツ界にも蔓延る。ラグビーのトップリーグではつい数年前まで、選手の引き抜きを防ぐために、所属チームの承諾なくチームを移籍した選手は新しいチームで1年間試合に出さないというカルテルが存在していたし、プロ野球界にも日本でドラフトを拒否して他国に渡った選手は日本帰国後一定期間プレーできなくする「田沢ルール」なるものが存在していた。
     これらはそもそも職業選択の自由を奪う制度であると同時に、いずれも公正な競争を阻害するカルテルとして他の業界では禁止された独禁法違反に問われるものだが、日本では芸能やスポーツは社会的にも特別視されていたり、メディアと業界が一体化しているためにそうした問題が十分に批判に晒されなかったりしたために、そのような前時代的な制度や慣習が当たり前のように続いていた。
     結局、昨今のジャニーズ問題も、そもそも社内で絶対的な権力を持つジャニー氏の逆鱗に触れれば、タレントとしてデビューするチャンスが潰えてしまうという恐れがあり、また性加害行為を嫌悪して事務所を退所しようものなら、少なくとも日本の芸能界で生きていくことがほとんど不可能になるという状況の下で、日々被害に晒されてきた練習生たちにとっての選択肢はジャニー氏のセクハラ行為を甘受するか、もしくはタレントになる夢を諦めるかの二択だったことになる。
     その意味で今回の事件はまず事実関係を明らかにすることが必要だが、その上で、加害者側のジャニーズ事務所に然るべき責任を取らせると同時に、そのような事態を招いた業界の体質などにもきちんとメスを入れ、うみを出すことが必要ではないか。
     日本の芸能界を長く取材し、日本の音楽産業や映画産業が直面する課題などを指摘している松谷創一郎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
     また、番組の後半では、前半のジャニーズ問題を引き継ぐ形で、映画『怪物』と『サンクチュアリ』を取り上げ、われわれの社会が共通のプラットフォームを失ったことにより、見る者の視座によって普通の人間が怪物に見えてしまう社会の構造の変化や、法と掟の違い、掟の世界が消えることでわれわれの社会の何が変わるのかなどを議論した。

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    今週の論点
    ・芸能界の「掟」はますます曖昧になってきている
    ・ジャニーズ事務所を巨悪の組織だと思うと問題の本質を見誤る
    ・落としどころはどこにあるのか
    ・お互いが怪物に見えてしまう現代社会
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    ■ 芸能界の「掟」はますます曖昧になってきている
    神保: 今日は2023年6月30日の金曜日で、これが1160回目のマル激です。今日は5金で、映画を扱おうと思いますが、ジャニーズ問題についても扱います。ジャニーズの問題はもっとはやく断罪されなければならなかったのですが、それぞれの視座から見れば、批判する側が相手から怪物に見えていることもあります。そう考えると、一方的に断罪をすることに若干躊躇します。この整合をどのように考えれば良いのでしょうか。最初にヒントがあれば教えていただけますか。

    宮台: 今日は『怪物』という映画を扱いますよね。社会の外側にいるやつが怪物なのか、あるいは社会の外側にいるやつにとって社会が怪物なのかという対立軸です。これは白黒どちらかということを単純に言うことができません。これはもともと日本社会がどのように回ってきたのかということに関係があり、空気の支配、郷に入っては郷に従え、物言えば唇寒しなどのことわざに示されています。

     芸能の界隈は特殊な「掟」の界隈として存在し、その掟の界隈に入るのかどうかという加入儀礼がいたるところにあります。その問題を最初に指摘したのは丸山眞男で、「抑圧の移譲」という先輩から後輩へのものすごいしごきがあるんですね。これはジェネレーションが更新されていくと、自分が抑圧する側に回ります。なぜかと言えば加入儀礼だからです。加入儀礼というものはある職能集団に相応しい人間かどうかを判別し、法ではない掟に従うことを迫るものです。 
  • 鴨志田祐美氏:時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか

    2023-06-28 20:00
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年6月28日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1159回)
    時代錯誤の再審制度のままでは冤罪被害者を救えないではないか
    ゲスト:鴨志田祐美氏(弁護士、日弁連再審法改正実現本部本部長代行)
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     長期の勾留や密室の取り調べによって冤罪のリスクが極めて高いといわざるを得ない日本の前時代的人質司法がそう簡単に変わらないのであれば、せめて新たな証拠が出てきた時にあらためて裁判を受ける権利を保障する再審制度くらいはきちんと整備して欲しいものだ。しかし、残念ながら日本の再審制度は、中世の異名を取る刑事司法制度に輪をかけて遅れた前時代的なもののままだ。
     今月5日、大崎事件の第4次再審請求が棄却された。現在96歳の原告、原口アヤ子さんは事件発生時から一貫して無罪を主張し続けており、弁護団は最高裁に特別抗告した。これまで第1次請求の地裁、第3次請求の地裁・高裁と、3度にわたって再審の開始が決定されたにもかかわらず、そのたびに検察官がことごとく抗告を繰り返した結果、上級審ではことごとく再審決定が取り消され現在にいたる。
     大崎事件は1979年、鹿児島県大崎町の牛小屋の堆肥の中から男性の遺体が見つかり、義理の姉である原口アヤ子さんと兄2人が殺人・死体遺棄、甥が死体遺棄で逮捕、起訴され有罪になった事件だ。20年間以上アヤ子さんの再審請求弁護団の事務局長を務めてきた鴨志田祐美弁護士は、事故死の可能性を排除し殺人事件と決めつけて捜査が行われたことや、知的障害のある証人の自白のみを証拠として有罪にされたことなど、原判決には重大な問題がいくつもあったと語る。
     今年3月には袴田事件で再審開始が決定したが、一方で、日野町事件や名張毒ぶどう事件、飯塚事件など、有罪とされた本人が亡くなってもなお再審請求が認めらない事件が多くある。袴田事件も、再審開始が決定したとはいえ1966年に袴田さんが逮捕されてから57年が経過しており、失われた時は取り戻せない。なぜ日本では再審のハードルがこうも高いのだろうか。
     刑事訴訟法の435条から453条に定められているいわゆる再審法の規定は、「再審の請求は、有罪の言渡を受けた者の利益のためにすることができる」と明記されており、被告人の不利益になる再審はできない。しかし、再審開始の要件は厳しく、元の罪より軽い罪を認めるべき「明らかな」「新しい」証拠が提出されなければ、再審は認められないとされている。
     問題は「明らかな」新しい証拠というのが、どの程度「明らか」でなければならないかという、多分に裁判所の解釈が介在する余地があることだ。裁判所の胸先三寸といった方がいいかもしれない。実は1975年に、一時その解釈を緩める最高裁判決が出されたことがある。「白鳥決定」と呼ばれ、新証拠だけで無実を証明できるほどの力がなくても、確定判決に合理的な疑いが生じるレベルの新証拠が出されれば、再審を認めるべきだとの判断が下された。
     元々、刑事裁判は検察が合理的疑いを差し挟む余地がないほど有罪を立証できているかどうかを裁判所が判断する場なので、合理的な疑いが生じ得る新証拠が見つかれば再度審理を行うのはごくごく当たりの事だ。至って真っ当な基準だったと言えるだろう。
     ところが、白鳥決定のあと80年代に入って、新たな再審基準に基づいて免田、財田川、松山、島田の4つの死刑確定事件が立て続けに再審に付され、いずれも無罪が確定してしまったことで、裁判所は再び再審に対する態度を硬化させてしまう。死刑確定事件の再審無罪が続けば、裁判所の権威が根底から揺らぐとでも考えたのだろうか。
     それにしても裁判所の都合で再審基準が厳しくなったり緩んだりするのも大問題だが、実際そのおかげで1987年の島田事件の再審確定から2023年に袴田事件の再審開始が確定するまで、36年間、確定死刑事件の再審は一件も認められなかった。
     日弁連の再審法改正実現本部で本部長代行を務める鴨志田氏は、日本の再審は通常の裁判に比べて制度改革が遅れていると指摘する。通常の裁判では、2016年の刑事訴訟法の改正で弁護側が証拠の一覧表を請求できるようになった。
     全ての証拠の開示が求められるドイツなどと比べれば、一覧表というのはいかにも不十分だが、再審請求や再審公判では一覧表の開示さえ義務づけられていない。証拠開示命令を行うかどうかは、裁判所の裁量に委ねられている。つまり、検察が実は被疑者・被告に有利になる証拠を持っていたとしても、それを弁護側が入手して再審請求に利用することはできないのだ。
     証拠開示の欠如と並んで日本の再審を困難にしているのが、裁判所の再審決定に対して検察官の抗告が認められていることだ。先の大崎事件でも、裁判所は3度にわたり再審を認める決定をしているが、検察がそのたびに抗告を繰り返したため、上級裁判所で再審決定がことごとく覆されてきた。裁判所が再審を決定し、検察が再審公判で有罪立証のために懸命に汗をかくのではなく、再審公判そのものをやらせないように妨害する権利を日本の検察に与えているのが現在の日本の再審制度なのだ。
     なぜ日本ではこれほどまでに再審のハードルが高いのか。鴨志田氏は戦後GHQが刑事訴訟法だけは近代法に書き換えたが、再審法まで手が回らなかったため、再審法は戦前の裁判所の職権主義のままになっていると説明するが、仮にそうだとしても戦後70年以上が経過した今、再審法を改正し、進駐軍ではなく日本人自らの手で近代的な再審制度を作ることができないはずがない。
     現在の再審法の実態と、冤罪被害者を救済する最後の砦としての再審制度をまともに機能させるために何が必要かなどについて、日弁連再審法改正実現本部本部長代行の鴨志田祐美弁護士と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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    今週の論点
    ・国際的に見ても遅れている日本の再審制度
    ・なぜ再審のハードルを高くするのか
    ・大崎事件の不条理な再審却下
    ・社会を変えていく原動力は「合理的な怒り」にある
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    ■ 国際的に見ても遅れている日本の再審制度
    神保: 今日は2023年6月22日の木曜日で、これが1159回目のマル激となります。今日は司法の問題を取り上げます。司法が機能しているのかどうかという問題は、われわれの社会が正義を貫徹できているのかどうかということに関わります。社会には色々な嫌なことがありますが、その上で最後には正義が勝つと思いながら生きるのか、あるいは正義が勝つなんてことを考えてはいけないと思いながら生きるのかということはとても重要です。

    宮台: 僕は裁判ものの映画がとても好きで、そのきっかけは『十二人の怒れる男』でした。裁判所ではそういった「最後に正義が勝つ」といったことが行われていると思い、大学院以降にいくつかの裁判を傍聴しましたが、あっと驚きました。「こいつが検事なのか」と思うようなヘタレ官僚ぶりがオーラで分かりましたし、裁判官にしても、僕が裁判所のあり方について意見を述べたら激昂した人がいました。

    神保: 司法は本当に変わらないですよね。またメディアが完全に捜査機関に依存している状態も問題で、その分、そういったところに依存していないわれわれがしっかり取り上げる必要があります。 
  • 大西連氏:孤独・孤立対策推進法が成立した今こそ政府の本気度が問われている

    2023-06-21 20:00
    550pt
    マル激!メールマガジン 2023年6月21日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1158回)
    孤独・孤立対策推進法が成立した今こそ政府の本気度が問われている
    ゲスト:大西連氏(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長)
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     問題の多い法案が次々と流れ作業のように成立している今国会だが、重要で意味のある法案もいくつか成立している。その一つが5月末に可決・成立した、社会で孤独を感じたり孤立している人を支援する孤独・孤立対策推進法だ。同法は5月31日に、与党に加え立憲、維新、国民、共産など超党派の賛成で成立している。
     約3年続いたコロナ禍では人と会う機会が減り、誰もが家に引きこもる時間が多くなった。それに呼応するかのように、このところ減少を続けていた自殺者数が、コロナ感染拡大のなかで増加に転じている。家族や地域とのつながりを失い、孤独・孤立に陥ることで引き起こされる生きづらさの問題は以前から指摘されていたが、コロナ禍でそれがあらためて顕在化している。
     政府は2021年2月、内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置し担当大臣を置いた。5年前に世界で初めて孤独担当大臣を設けたイギリスに次ぐ対応で注目を集めたが、では実際にその後、どのような施策を行ってきたのか。実は、担当室を設置した後、NPOで生活困窮者支援にあたっている自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連氏が2021年6月から政策参与となり、施策の推進に当たってきた。担当室ではNPOとの連携強化のほか、実態調査、支援情報などをWEBサイトに掲載し、今年5月31日には孤独・孤立対策推進法の成立まで漕ぎ着けた。
     2021年度、2022年度と続けて行われた実態調査では、全体の約4割が一定程度の孤独を抱えていることが明らかになり、孤独・孤立問題がもはや一部の特別の人だけの問題ではないこともわかってきた。
     しかし、この問題固有の難しさもある。支援を必要としている人は、孤立しているがゆえに社会との接点を持たず、他人とのコミュニケーションをとることができていない場合が多い。自身の孤独・孤立問題を相談することのハードルも高い。そのスティグマを社会で取り除くことも重要だと大西氏は言う。
     とは言え、今回法律ができたことで、その時々の政権の思いつきではなく、政府全体の問題として継続的に取り組むことが可能になった。法案成立を受けて、総理大臣を本部長とする孤独・孤立対策推進本部も設置される。
     施策の推進には官民連携が欠かせない。これまでのように、単に政府や自治体がNPOなどの支援団体に委託するのではなく、官民が対等な立場で意見を交換しながら、ともに取り組む姿勢を持てるかがキーポイントとなる。
     問題はより深刻さの度合いを増している。大西氏によると、毎週土曜に新宿の都庁下で行っている食料支援を受け取りに来る人は、大西氏が3年前にマル激に出演したときよりさらに増え、過去最多を記録しているという。相互に支え合うことができるような人と人とのつながりを生む社会を作るには、われわれ一人ひとりに何ができるのか。長年生活困窮者支援に尽力してきた大西連氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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    今週の論点
    ・政策によって人とのつながりや仲間を作る難しさ
    ・社会の雰囲気が変わらなければ、孤独に悩む人は増え続けるばかり
    ・機能的な支援にとどまれば根本的な解決にはならない
    ・引き受けて考えることが最初の一歩になる
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    ■ 政策によって人とのつながりや仲間を作る難しさ
    迫田: 今日は2023年6月15日の木曜日、第1158回のマル激トーク・オン・ディマンドです。国会は最終盤で、明日内閣不信任案が出るということですが、解散はなさそうだと報道されています。

     今日は孤独・孤立対策ということで話を進めていきます。これについては法律が通っていますが、実際に何を目指すのかといった話を伺いたいと思います。本日のゲストは、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの理事長でいらっしゃる大西連さんです。大西さんは孤独・孤立対策の推進法に深く関わっていました。

     大西さんには、コロナがひどくなり始めた3年前、マル激にリモートで主演していただいていますが、その時はコロナ禍で生活困窮者が大変な状態にあるという話をしました。その翌年の2021年に、内閣官房の孤独・孤立対策担当室の政策参与になられ、政権の中に入る側になりました。

     そして先月、孤独・孤立対策推進法という法律ができました。この間、どういうお考えで政策参与になられ、状況をどう見ておられ、現在はどういうふうに動いていらっしゃるのかという話を聞かせていただきたいと思います。

    宮台: 孤独死が話題になったのは2005年です。あるテレビ局が『ひとり団地の一室で』というタイトルで、年間40名弱くらいが孤独死で亡くなっていた常盤平団地の状況をドキュメンタリーにしました。これをきっかけに人々は孤独死という言葉を知りましたし、「まさかこんな現実があるのか」ということも知りました。当時においても、いわゆる高齢者というよりは65歳未満の人の方が孤独死は多かったんです。