永濱利廣氏:総選挙の争点「責任ある積極財政」で日本は30年ぶりの成長に転じることができるのか
2026/01/28(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年1月28日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1294回)
総選挙の争点「責任ある積極財政」で日本は30年ぶりの成長に転じることができるのか
ゲスト:永濱利廣氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)
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高市首相は1月23日、衆議院を解散し、1月27日公示・2月8日投開票の日程での総選挙に踏み切った。通常国会の冒頭での解散は60年ぶり、解散から投開票までわずか16日間という戦後最短の選挙期間となる。
この選挙の最大の争点は、高市政権の看板政策である「責任ある積極財政」の是非だ。選挙戦を前に、野党各党が大幅な消費減税を主張していることに加え、1月19日の記者会見で高市首相までが食品の消費税減税を打ち出したため、債券市場では財政悪化への懸念から日本国債が売られ、長期金利が上昇するなど、市場は早くも敏感な反応を示している。
財政をめぐる議論はこれまで、「緊縮財政」か「拡張財政」の二項対立で語られてきた。将来世代にツケを回さないためには財政規律を重視し支出を抑えるべきだとする立場と、景気刺激のためには積極的な財政出動が必要だとする立場の2つだ。実際に日本の政府債務残高の対GDP比が世界の中で群を抜いて高くなっているのも事実だ。
しかし永濱氏は、この二分法自体が実態を捉えていないと指摘し、本来あるべき選択肢はその中間に位置する「積極財政」だと説く。積極財政とは無制限に財政を拡張する「拡張財政」とは一線を画するもので、将来の経済成長につながる分野を慎重に選んだ上でそこに戦略的に投資し、国が方向性を示しながら民間投資を誘導していく考え方だと永濱氏は語る。
ところで高市首相が繰り返し強調する「責任ある積極財政」の「責任」とは何を指すのか。責任ある積極財政は政府の借金の絶対額を意識するのではなく、債務残高の対GDP比を安定的に引き下げられる範囲で積極的に財政を投入することを意味していると永濱氏は説明する。
そこで鍵となるのが、経済成長率が国債の利子率を上回るかどうかだ。経済学ではこれを「ドーマー条件」と呼び、これが満たされていれば、名目上の借金が増えても財政の持続性は損なわれにくいとされている。永濱氏は、今後の財政運営において、この条件を冷静に見極める必要があると強調する。
これまでの日本は長期のデフレに苦しんできた。そのため、財政出動を行えば即座に財政が悪化するという制約意識が強く、政策の選択肢は厳しく制限されてきた。しかし、コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけに、現在の日本はインフレ局面に入っている。永濱氏によれば、インフレ下では名目GDPが拡大し、税収も増えやすい。その結果、債務残高を一定程度増やしながらでも、成長投資を行う余地が生まれるという。
しかし、この「時間の窓」は未来永劫続くとは限らない。現実には今後およそ5年程度だと永濱氏は見ている。その間に成長分野への投資を積極的に進め、日本経済の体質を変えられるかどうかが勝負になる。
政府は投資対象となる成長分野を17挙げ、そこに積極的に投資を行うとしている。しかし、それで日本が再び成長できるのかという疑問は残る。過去30年、日本は数々の政策を打ち出してきたが、結果として成長率を押し上げることはできなかった。
それでも永濱氏が今回に限って楽観的な理由は、経済環境が明確に変わっているからだ。長いデフレ期を通じて国民の間には「財政出動=財政悪化」という感覚が根付いてしまったが、インフレ下では税収増というメカニズムが働くため、債務残高を一定程度増やしながらでも成長投資を行う余地が生まれる。
高市首相が掲げる「責任ある積極財政」とは何か。失われた30年を引きずる日本は、本当に成長できるのか。そしてこれ以上の財政出動を行って財政は本当に持つのか。
マル激トーク・オン・ディマンド第1294回では、「積極財政解散」で私たちが本当に理解しておくべきポイントについて、第一生命経済研究所首席エコノミストで高市政権の経済財政諮問会議の民間議員も務める永濱利廣氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・「責任ある積極財政」は正しく理解されているか
・日本の財政は本当にもつのか
・成長に転じる可能性が高まるボーナス期間を逃してはいけない
・消費減税だけが選挙の争点ではない
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■ 「責任ある積極財政」は正しく理解されているか
神保: 国会で衆議院が解散され、これから選挙が行われます。今回は選挙期間が短く、投票日は2月8日です。「積極財政解散」と言うからには、その是非を問い、中身をきちんと分析しようと思います。財政や経済は難しいところがありますが、何が問われているのかを経済の専門家と一緒に考えていきます。
今日のゲストは第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんです。財政をめぐっては財政規律が非常に重要で、日本は対GDP比で国債残高が世界の中でも高く、積極財政をやると大変なことになるという意見があります。実際に長期国債の利回りが上がっているというニュースもあり、今はできないという考え方がある一方で、MMTはかなり特殊だとしても、ここは積極的に出なければならないという意見もあります。
失われた30年で緊縮を続けてきた結果としての財政悪化なので、ここは打って出なければならないという考え方もあり、明確に2つに論が分かれている状況です。その中で、企業系シンクタンクのエコノミストでオーソドックスな経済学から来ていながら、永濱さんはMMTそのものではなくても積極財政に対して理解を示しているように思います。永濱さんご自身は自分を積極財政派と位置づけているのでしょうか。
永濱: 私は緊縮財政と積極財政の2種類とは考えておらず、緊縮財政、積極財政、拡張財政の3つに分かれていると考えています。個人的には拡張ではなく積極です。積極財政は、世界標準的な財政の考え方だという認識をしています。緊縮という言葉は何となく財政を絞るという感じで捉えられがちですが、これまでの日本の財政は単年度中立主義というもので、どこかで減税をするなら必ずどこかで財源が必要だという考え方でした。しかし海外ではこれは一般的ではありません。
例えば今回高市政権になって初めてできた政策として、設備投資の即時償却があります。戦略的な分野に投資を促すために投資の優遇税制を行うということは海外では普通に行われていますが、日本ではこれまでできませんでした。設備投資の即時償却はその年には法人税が減りますが、あくまで前倒しで償却しているだけなので、多年度で見れば税収は中立です。これは海外では普通に行われていますが、日本ではそうした政策を行う際には必ずどこかで財源を持ってこいと言われてきました。
もう1つ高市政権の大きな成果だと思うものが、ガソリンと軽油の暫定税率の廃止です。これまでも議論には出てきましたが実現できませんでした。ガソリンだけを見ても暫定税率を廃止するなら1兆円の財源が必要で、どこかで財源を作らないとできないということで、当時の党税調が突っぱねていました。そうした単年度主義を高市政権が撤廃したことでできるようになりました。
その一方で、財政規模をすべて膨らませるわけではありません。国際標準では経済規模は毎年大きくなっていくので、借金の規模が大きくなるのは当たり前です。一般的にはGDP比で安定的に下がっていれば財政の持続可能性は担保されます。財政の持続可能性を担保する中で、将来の分母である名目GDPが増えるような分野、あるいは経済安全保障上重要性が高まっている分野に焦点を絞り、国が積極的に投資を誘導していこうということなので、必ずしも拡張ではありません。
『MMTとケインズ経済学』という本に書きましたが、私はMMTには賛成していません。MMTにいかなくても、いわゆる世界標準的なニュー・ケインジアンと呼ばれる最先端のマクロ経済理論で考えれば、これまでの日本の政策は緊縮すぎたので、もう少し分野を絞って財政を出す余地があると考えています。
渡辺靖氏:2026年、19世紀に回帰するアメリカによる戦後世界秩序の本格的な解体が始まった
2026/01/21(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年1月21日号
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1293回)
2026年、19世紀に回帰するアメリカによる戦後世界秩序の本格的な解体が始まった
ゲスト:渡辺靖氏(慶応義塾大学SFC教授)
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ドンロー主義を標榜するアメリカは、本気で19世紀への回帰を始めたようだ。
2026年の国際情勢は、年初から決定的な転換点を迎えた。アメリカによるベネズエラへの空爆とニコラス・マドゥーロ大統領の拘束は、冷戦後に形成されてきた「法による支配」という国際秩序の大前提を根底から揺るがす出来事だった。もはや「例外的事件」として処理できる段階は過ぎつつある。世界は、構造的な変化の局面に入りつつある。
アメリカ政府は、マドゥーロ大統領夫妻を麻薬テロおよびコカイン密輸共謀などの罪で起訴することで、宣戦布告なしの軍事行動を正当化している。しかし、刑事司法と軍事力を結合させた今回の措置は、主権国家に対する武力介入として極めて異例なもので、その目的が犯罪対策に限定されると考えるのは困難だ。
実際、トランプ大統領は、ベネズエラの石油資源管理への関与を通じて同国の経済再建を主導し、アメリカの戦略的利益を拡大する構想を公然と示している。世界最大級の確認原油埋蔵量を有し、反米政権の下で中国やロシアと密接な関係にあるベネズエラは、アメリカにとって地政学的・資源戦略的にきわめて重要な位置を占める。今回の軍事介入は、資源を基軸とした勢力圏再編の一環として理解すべきだろう。
象徴的なのは、トランプがこの一連の政策を「ドンロー主義」と呼んだ点である。1823年にアメリカ第5代大統領のジェームス・モンローが打ち出したモンロー主義は、当初は西半球に対する欧州列強の介入を拒否することを主眼としたものだったが、その後、アメリカ自身の地域的優越を正当化する思想へと変遷していった経緯がある。トランプ大統領がモンロー主義に自身の名前を重ね合わせた「ドンロー主義」は、その歴史的論理を露骨な形で現代に持ち込むもので、「西半球における米国の優位性回復」という主張は、勢力圏政治の明示的な復活を意味する。
しかし、トランプのドンロー主義はどうやら西半球にはとどまらなそうだ。同様の力学が中東にも及んでいるからだ。2025年末にイランで発生した反体制デモは、短期間で全土に拡大した。トランプ大統領はこれを繰り返し支持し、政権交代を促す姿勢を隠していない。今回のデモでは、1979年のイスラム原理主義革命以前のパーレビ王政の復活を求めるスローガンまでが登場し、元国王の息子でアメリカに亡命中のレザー・パーレビ氏も帰国の可能性に言及し始めている。
全土でデモを起こすことで反米政権を転覆させた上で親米政権を樹立する政治工作は、アメリカのCIAが最も得意とする手法であり、今回も外部勢力が体制転換を後押しする典型的な「介入の政治」を想起させる。
慶応義塾大学SFC教授の渡辺靖氏は、こうした動きを、これまでアメリカが護ってきた「力による現状変更を否定する」という国際秩序の規範を、アメリカ自身が解体しつつある過程と位置づける。ドンロー主義の登場によって、戦後秩序を支えてきた「西側」という理念的枠組みは空洞化し、19世紀的な勢力圏思考が前面に出てきているという。
新年早々トランプ政権が発表した60を超える国際制度からの離脱も、この流れを象徴するものだ。2026年1月7日、トランプは国連機関や国際機関、国際条約など計66件からの脱退を指示する大統領令に署名した。国連気候変動枠組条約を含むこれらの枠組みは、戦後秩序を制度的に支えてきた中核であり、その放棄は単なる一時的な内向き志向では済まされない。
アメリカを中心とする法の支配と国際協調を媒介とした第2次世界大戦後の国際秩序を、アメリカが先導して破壊し始めている。その結果、国際社会は、力と資源、地理的優位によって秩序が編成される19世紀型の世界へと引き戻されつつある。
なぜアメリカは秩序の破壊者となることを選んだのか。この流れはトランプ政権が終わった後も続くものなのか。世界はアメリカ抜きで現在の秩序を守ることができるのか。そうした状況の下で、戦後の国際秩序の恩恵の最大の受益者の1つだった日本はどう立ち回るべきなのか。渡辺氏とともに、神保哲生と宮台真司がアメリカ発の秩序変動が持つ歴史的・思想的含意を徹底的に検証した。
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今週の論点
・アメリカが壊す世界秩序
・大国が世界を分割する19世紀的な世界観の「ドンロー主義」
・トランプ政権の他国への介入は国内問題から目をそらすためか
・アメリカを覆う犠牲者ナショナリズム
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■ アメリカが壊す世界秩序
神保: 2026年の年初は2本立て企画となります。1本目は日本の現在地と針路を見据えるということで御厨さんとやりました(マル激トーク・オン・ディマンド1291回(2026年1月3日公開)「2026年の年初に壊れ始めた日本の統治機構とその先に来るものを考える」ゲスト:御厨貴・東京大学先端科学技術研究センターフェロー)。
これとセットで今回は、世界はどこへ向かうのかということを考えたいと思います。本日のゲストは慶応義塾大学SFC教授の渡辺靖さんです。年初の放送ではいよいよ自民党が終わるのではないのかという話をしていましたが、野党が新党を作るということで御厨さんの予言が段々と現実になってきたように思います。
その一方で世界はどう動くのかということを考えたいと思っていたのですが、年初からアメリカがあまりにも色んなことをするので、「アメリカがこれからどう世界を壊していくのか」という企画になってしまいそうです。ベネズエラやグリーンランドもそうですし、同盟国であるデンマークに対しても軍事力を使うことを辞さないと言っています。
イランにも手を出そうとしていますが、イスラエルのネタニヤフ首相がトランプ大統領に対し「イラン攻撃は待ってくれ」と言ったそうです。報復としてイランが周りの国々を攻撃すれば、中東情勢は本当にボコボコになってしまうと。
アメリカはさらに、国際機関からの脱退を指示したり、金利を下げようとしないパウエル連邦準備制度理事長に対して捜査を始めたりしています。2026年はまだ3週目なのにあまりにも目まぐるしく状況が変わっていますが、渡辺さんはアメリカウォッチャーとして1月に入ってからのアメリカの動きをどう見ていますか?
渡辺: トランプ政権の2期目が発足してから1年が経ちますが、彼の口から出てくる歴代大統領は19世紀の大統領ばかりです。彼の執務室にあるのはアンドリュー・ジャクソンというポピュリスト政治家の走りのような人の肖像画で、現代的な意味に翻訳すると「エリートが大嫌い」、「リベラルな寛容性や多様性は大嫌い」という人です。
その次に出てきたのはいわゆる「関税男」ということでウィリアム・マッキンリー、そして最近はベネズエラを契機にジェームス・モンローが引用されています。トランプは21世紀の大統領ですが言及される大統領は19世紀の人たちばかり。19世紀のアメリカというのはいわゆる法の支配や国際秩序といった概念の前の時代で、領土や資源などの権益を露骨に獲得し拡大していき、その一方でヨーロッパとは相互不干渉の縄張りを広げていった時代です。時計の針が200年くらい逆戻りしてしまったという印象を強く受けた1年です。
神保: 尊敬する大統領は前世紀の大統領となると、やはりトランプ大統領の感覚としては時計の針をそちらに戻すつもりなのでしょうか。世界は20世紀に2つの大戦を経て、その反省と教訓に基づき色々な秩序を作りましたが、彼はそれをことごとく壊しています。
ただ19世紀のアメリカはそこまでの超大国ではありませんでした。今では立場が全然違うのに、国家安全保障戦略の文書では平気でモンロー主義について言及しています。やはりトランプは、アメリカをその時代まで戻すことも辞さないということを明確に決めたという理解で良いのでしょうか。
渡辺: そういうことだと思います。少なくとも第2次世界大戦後は、世界は閉じてはいけない、閉じているとロクなことがないので自由で平和な世界を作っていこうということになっていました。ソ連を除けば当時はアメリカが唯一のパワーだったので、それを牽引してきました。
鈴木大裕氏:日本の教育を地方から変える
2026/01/14(水) 20:00
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マル激!メールマガジン 2026年1月14日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1292回)
日本の教育を地方から変える
ゲスト:鈴木大裕氏(高知県土佐町議会議員)
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日本は地方からしか変わらないのではないか。その問いを教育の場で実践している1人の研究者がいる。日本の教育を改革するとの強い信念から、それを実践するために高知県の小さな町に移り住み活動を続ける鈴木大裕氏だ。
人口3,500人の高知県土佐町で、現在は町議会議員を務める鈴木大裕氏は、アメリカの大学や大学院で教育学を学んだ後、それまで住んでいたニューヨークから土佐町に家族で移住。子育てをしながら町の教育体制をよりよくするための活動に奔走している。現在の町長が掲げた「教育で町おこし」という言葉に惹かれたからだという。
昨年度、日本の不登校の児童生徒数は35万人を超えた。精神疾患による教員の病気休職者も7,000人にのぼる。長時間労働や多忙な業務などが嫌がられ、教員の志望者は年々減り続けている。
昨年9月のマル激(マル激トーク・オン・ディマンド第1276回(2025年9月20日公開)「現行の学習指導要領体制のままでは日本の教育はよくならない」ゲスト:植田健男・名古屋大学名誉教授)で取り上げたように、教育内容を一元的に管理しようとする現行の学習指導要領の下では、現場の負担が増えるだけで教育が疲弊していくことが懸念されるなど、日本の教育の問題は根深い。『崩壊する日本の公教育』の著者でもある鈴木氏は、こうした問題に警告を鳴らし続けてきた教育研究者でもある。
優良と呼ばれる高校や大学を出て安定した企業への就職を目指すことを至上目的としたこれまでの日本の教育ではユニークな存在になることができないと考え、アメリカの高校への留学を決断した鈴木氏は、そこで出会ったアメリカの全人格的なエリート教育に憧れを覚えたという。その後、日本で中学教師を務めた後、新自由主義的なアメリカの教育改革を学びたいと再渡米、そこではじめて公教育をビジネスに変えたアメリカの負の部分が見えてきたと語る。
アメリカの教育改革による市場型の学校選択制は、全国一斉のテストの結果で評価され、塾のような学校を生み出す。富裕層は数多ある学校の中から希望校を選ぶことができるが、日々の生活にも困窮する低所得層にその余裕はない。児童生徒はお客様扱いとなり「よい生徒」の奪い合いが起こる中、ますます学校の序列化がすすむ。テストの点数があたかも「通貨」のように選択の基準となり、学校の評価となっていたと語る鈴木氏は、日本もそのあとを追っていることを強く危惧していたという。
新自由主義的な教育改革に対抗する発想は、都市部ではなく地方からしか生まれないのではないかと考えていた鈴木氏は、10年前に高知県の土佐町に移り住み、町に1つしかない小中学校で公教育の意義を町の人たちと考えてきた。2019年に町議会議員になってからは全教職員との意見交換会を開くなど、小さな町ならではの活動を続けている。
そもそも教育は上からの押し付けではなく、それぞれの地域の特色を活かして行われるべきもので、そのために教育委員会制度というものがある。現在は教育長が首長の任命になっているが、地域の教育方針を議論し決定する教育委員会は元来、教育委員の合議制となっている。その地域にとってよりよい教育とはどうあるべきか、豊かな人間性と創造性を備えた子どもたちの育成のために地域は何ができるか、土佐町にはまだまだ可能性があると鈴木氏は胸を張る。
公教育とは何か、地方からしか教育は変えられないという信念のもと活動を続ける鈴木大裕氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
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今週の論点
・地方から日本の教育を変えたいと土佐町に移住した鈴木大裕氏
・アメリカにみる新自由主義的な教育改革の弊害
・塾化した学校では子どもは育たない
・小さな自治体にこそ教育を変えるチャンスがある
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■ 地方から日本の教育を変えたいと土佐町に移住した鈴木大裕氏
迫田: 今日のゲストは高知県土佐町議会議員の鈴木大裕さんです。鈴木さんは『崩壊する日本の公教育』という本を書かれ、また地方から教育を変えたいということで、10年ほど前に高知県の土佐町に移り住まれました。なぜ土佐町だったのでしょうか?
鈴木: 最初に友達が行ったんです。そして新しい町長が「教育で町おこしをする」という旗を掲げているのを見て、アメリカで新自由主義による公教育の崩壊を研究してきた私にとっては「町の存続を次世代の教育にかける」という発想は真逆だったので、ロマンがあると思いました。また市場原理を導入した教育改革に対抗するようなアンチテーゼは都市部からは生まれないのではないかとも思っていました。そうしたことが折り重なり土佐町にしました。
宮台: 教育は行政の単位の中で一番小さい。それは、特に公教育には共通感覚が必要だからです。その意味で、共通感覚でまとまれる単位はどんどん小さくなります。その上には水道やエネルギー供給、廃棄物処理、軍事、外交といったものがあり、どんどん大きな単位になっていきます。
大都市の教育というのは、既存のシステムにどうやってうまく入り込んで適応するかというものです。しかし日本だけでなく多くの国で、既存のシステムにはもう先がありません。オルタナティブを既存のシステムの中核から提案することはできません。それは民主政だからです。そのため、構造的に地方から教育を変えることで社会全体に波及効果が及ぶように考えるしかありません。
援助交際のフィールドワークをしていた時代にも、高知県全体は非常に重要な場所でした。例えば漁村文化がある場所は農村部とは共通感覚が異なります。高知県や新潟県などはもともと漁村文化で、いわゆる農村部とは共通感覚がかなり違います。
迫田: 土佐町は漁村部ではなく山間部にあり、人口は2025年11月末で3,420人です。幹線道路が1本走っていて、小中学校は1つあります。町役場はありますが、高校はありません。鈴木さんは教育研究者でいて、土佐町の町議会議員でもいらっしゃいます。教育で町おこしということで行かれて10年近くになりますが、この10年間を総まとめするとどのような感じでしょうか。
鈴木: 地方からこういう教育もありなのではないか、あるいは今の日本で行われている教育は過疎地から見るとこのように映るといった発信をしてきました。最初は議員になる気はなく、地域おこし協力隊として行ったのですが、2019年に議員になりました。学校と行政をつなぐ学校行政コーディネーターという役割で地域おこしに参加し、その後、教育系のNPOに移りました。ただNPOは面倒くさく、非営利ですが職員の生活がかかっているのでどこからかお金を持ってこなければなりません。そしてその相手はほとんどが行政なので、批判しづらくなります。
娘に全国学力調査を受けさせないという記事をネットで書いたところ、それがバズって、教育長がすごく怒りました。そのことがNPOの中でも問題になりましたが、言いたいことが言えないのであれば何のために土佐町に来たのかと。土佐町で剣道を始めたのですが、その先生に相談したところ、「今度、議員選挙があるから出てみん?」と言われました。学生時代から自分のやってきたことは政治だと思ってきたので出ませんと言いましたが、「言いたいこと言うがが議員の仕事やき」と返されました。
ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースの論点を渦中のゲストや専門家らと共に、徹底的に掘り下げるインターネットニュースの決定版『マル激トーク・オン・ディマンド』。番組開始から10年を迎えるマル激が、メールマガジンでもお楽しみいただけるようになりました。
神保哲生/宮台真司
神保 哲生(じんぼう・てつお) ビデオジャーナリスト/ビデオニュース・ドットコム代表。1961年東京生まれ。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信記者を経て 93年に独立。99年11月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。 宮台 真司(みやだい・しんじ) 首都大学東京教授/社会学者。1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。
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