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武田俊彦氏:患者に必要な薬が届かなくなっている現状を看過することはできない
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武田俊彦氏:患者に必要な薬が届かなくなっている現状を看過することはできない

2023-12-27 20:00
    マル激!メールマガジン 2023年12月27日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1185回)
    患者に必要な薬が届かなくなっている現状を看過することはできない
    ゲスト:武田俊彦氏(元厚労省医薬・生活衛生局長、岩手医科大学医学部客員教授)
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     話題の新薬であるアルツハイマー病治療薬レカネマブは12月20日に保険薬として収載されたが、その薬価は対象患者を限定することで保険財政を圧迫しないぎりぎりの線とされる年間約300万円に決まった。レカネマブのような新薬は大いに喧伝される一方で、医療機関で処方される薬の供給不安が続いている。患者が必要としている薬が手に入らなくなっているというのだ。
     そもそものきっかけは、2年前のジェネリック薬を製造しているメーカーの不祥事だった。ジェネリック薬とは、特許が切れた薬を同一成分で製造した後発医薬品のことだが、ジェネリック医薬品のメーカーで製造上の問題や不正が発覚し、全国各地のメーカーが業務停止命令の処分を受ける事態に発展していた。その影響が解消されないまま、この秋以降、新型コロナとインフルエンザの同時流行やプール熱、溶連菌感染症など子どもの感染症の増加により、咳止め薬や抗生剤といった身近な薬が足りない状況が続いている。
    厚労省のデータでは、今年11月の時点で医薬品全体の24%が出荷停止、または限定出荷となっている。
     それだけではない。海外で承認されている薬が日本に入ってこない状況も深刻の度合いを増している。承認申請までの時間差があるドラッグラグに加えて、そもそも日本での申請さえ行われておらず日本に導入される見込みのないドラッグロスの医薬品が、製薬協の調べで86品目もあるというのだ。その多くは、難病や小児用の薬など患者数が限定されている医薬品だ。
    なぜこうした状況が起きるのか。その背景にあるのが、日本独特の薬価制度にある、と指摘するのは元厚生労働省医薬・生活衛生局長で退官後、薬価流通政策研究会(くすり未来塾)共同代表として薬価制度について発言を続けている武田俊彦氏だ。
     保険で使われる薬は、年を追うごとに薬価が下がっていく仕組みになっている。この20日に、来年度の診療報酬改定が財務大臣と厚労大臣の間で決着したが、診療報酬本体が0.88%プラスとなったのに対し、薬価は1%引き下げて全体で0.12%のマイナス改定となった。このように薬剤費は常に保険財源の調整役を担わされてきた。
     かつては、保険から支払われる薬剤費の公定価格である薬価基準額と、製薬メーカーや卸から購入する価格の差が薬価差益として医療機関の収入になっていた時期もあったが、これが問題となったため、実際の購入価格の平均値に合わせて薬価を引き下げる仕組みが導入された。しかし、いまやこの制度が限界にきていると武田氏はいう。抗生剤や解熱剤といった長く使われている身近な薬はいくら製造しても利益がほとんど見込めないため、メーカーが採算の合わない薬の製造から撤退するといった事態も起きている。
     ドラッグラグ、ドラッグロスが起きるのも、現在の日本の薬価制度では、日本の市場に魅力がないからではないかと武田氏は語る。
     真に必要な薬が患者に届かない事態をこれ以上引き起こさないために、いま何が必要なのか、日本の医薬品産業の現状や、ジェネリック薬推進の課題など、元厚労官僚で現在は内閣官房の健康・医療戦略室政策参与という立場でもある武田氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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    今週の論点
    ・海外で使われている薬が手に入らない「ドラッグラグ」、「ドラッグロス」
    ・薬不足の現状とその原因
    ・ハイリスク・ハイリターンの新薬開発
    ・自分たちが使っている薬に興味を持つことから始まる
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    ■ 海外で使われている薬が手に入らない「ドラッグラグ」、「ドラッグロス」
    迫田: 今日は12月22日の金曜日、第1185回目のマル激トーク・オン・ディマンドとなります。今日はお医者さんのところで出される処方薬がどうなっているのかということについて話したいと思います。普通に薬をもらっていると何も問題がないように思いますが、実は現場では薬不足が起きています。今日は元厚労省医薬・生活衛生局長の武田俊彦さんに来ていただきました。
    今年1月にもかかりつけ医の話で来ていただきましたが、武田さんは元厚労官僚でありながら市民サイドの発言をされています。今年9月には内閣官房の健康・医療戦略室の政策参与になられたということで、これからは発言が難しくなるのでしょうか。

    武田: 私なりにやっていこうと思っています。

    迫田: 今は薬が足りないと言われていて、特に医療現場からは悲鳴のような声が聞こえていますが、処方薬の世界がどうなっているのかを伝えていこうと思っています。

     まず先月お伝えしたアルツハイマーの話からですが、岸田首相が施政方針演説で名前も出したレカネマブという薬が保険薬になりました。算定薬価は体重50キロで計算した時に年間で約298万円です。番組では政府が喧伝しているほど効果があるのかという、そもそもの研究の仕方の問題などを伝えたのですが、とにかくいろいろな期待は高まっていて、アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制に効果があるとされたことで薬価として金額が設定されました。
    これがアルツハイマー病の人全てに使われるとすればすごい金額になるのですが、ある程度対象は限られ、なおかつ薬を使うまでにいろいろな検査をしなければならず、薬を使える医療機関も限定されます。したがって計算上は患者数が年間3.2万人だと予測され、販売金額は986億円となります。

    武田: レカネマブはいろいろな意味で注目されています。日本のメーカーであるエーザイが世界で初めてアルツハイマー病の進行を抑制する薬を出したわけですが、世界中の製薬会社がトライして皆失敗したんです。その中でエーザイは認知症は自分たちが追究するべき分野だとしてやってきて、成功したということは世界的にも輝かしい成果だと受け止められています。
    販売金額の986億円が大きいのかどうかということは分かりにくいと思いますが、ざっといって日本の医療費は44~45兆円くらいで、そのうちの4分の1は薬代です。その約10兆円の中の986億円ということになります。薬を保険に入れるのかどうかを決める時には、ピーク時にいくら売り上げるのかということを必ず出してもらいます。それで保険でやっていけるのかどうかを見ていくのですが、かつて1,000億円を超える見込みがあった医薬品があったのでレカネマブが過去最高ということではありません。 
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