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伊東ゆたか氏:トラウマを乗り越えることの難しさを社会は理解できていない
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伊東ゆたか氏:トラウマを乗り越えることの難しさを社会は理解できていない

2024-10-23 20:00
    マル激!メールマガジン 2024年10月23日号
    (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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    マル激トーク・オン・ディマンド (第1228回)
    トラウマを乗り越えることの難しさを社会は理解できていない
    ゲスト:伊東ゆたか氏(児童精神科医)
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     故ジャニー喜多川氏(本名・喜多川擴=2019年7月9日死去)の性加害問題について、ジャニーズ事務所が事実を認めて謝罪をしてから1年余りが過ぎた。
     10月15日、ジャニーズ事務所の後継会社であるスマイルアップは、ホームページ上で500人余りに補償金を支払ったことを公表した。それを受け、翌16日にはNHK会長が記者会見で「(ジャニーズ事務所を引き継いだ)スタートエンターテイメント所属のタレントへの出演依頼を可能とする」と発言するなど、業界全体で事態の幕引きを図ろうとしているのが透けて見える。
     しかし、問題は解決しているわけではない。
     故人とはいえ、500人を超える未成年者に対して行われた性加害は、簡単に忘れ去られてよいものではない。この数字も、あくまで事務所が認めたものであり、実際にどれほどの被害者がいるのかも定かではない。性犯罪とも言える行為の検証も行われないままの幕引きを許してしまう社会の在り方自体が、性加害が繰り返される温床となる。
     これに先立ち10月9日には被害当事者が記者会見を行い、トラウマを抱えながら何とか生き延びてきたこの1年について語った。会見では誹謗中傷に晒された上に、旧ジャニーズ事務所の心ない対応に傷つけられ、命を失った仲間や日本で暮らすことを断念し海外に移住した仲間のことが紹介された。傷つけられるのを覚悟の上で、被害者自身が被害を訴え出ることによってしか問題解決の糸口が見つけられない現在の日本の実態が、重い課題として社会に突きつけられている。
     子どものトラウマに向き合ってきた児童精神科医の伊東ゆたか氏は、トラウマを生き延びたトラウマサバイバーたちに向けられる社会の眼差しがとても重要になると語る。トラウマからの回復には時間がかかる。トラウマを抱えながらも今まで生きてこられたのは本人にはその能力があったからだと理解し、トラウマからの回復は可能だという前向きな姿勢を持つことが大切になる。被害者に対する誹謗中傷など、とんでもないことだ。
     臨床の現場では、トラウマ・インフォームド・ケアという考えが導入されていると伊東氏は言う。ケアを受ける本人も、支援者も、まずトラウマを意識することが重要になる。これは「トラウマのメガネ」という言い方もされている。児童相談所などの現場では、性被害も含めさまざまな小児期の逆境体験をしている子どもたちを支援する枠組みとして、生活環境からの様々なアプローチの方法も試みられているという。
     トラウマに対する理解が圧倒的に不足しているなかで、性被害を含めたトラウマをどうしたら乗り越えられるのか。今もトラウマを抱える子どもたちと向き合っている伊東ゆたか氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
     
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    今週の論点
    ・ジャニー喜多川氏による性加害問題を風化させてはならない
    ・トラウマ・インフォームド・ケアの重要性
    ・トラウマを受けた子どもへの具体的な治療の枠組み「ARC」
    ・子どものトラウマに対する理解がまだまだ足りていない
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    ■ ジャニー喜多川氏による性加害問題を風化させてはならない
    迫田: 故ジャニー喜多川氏による性加害問題に対し事務所が謝罪してから1年余りが過ぎ、先週は被害当事者の記者会見がありました。そこでは風化しているのではないのかという危機感も明らかになったので、今日は当事者がどれだけ傷を負っているのかという話も含めて進めていきたいと思います。
     
    宮台: 一般にスキャンダルは「賞味期限」が過ぎるとメディアには出なくなってしまいます。最近の吉田恵輔監督の『ミッシング』という映画にも詳しく描かれています。
     
    迫田: それによってトラウマを受けている当事者たちの被害はより大きくなり、特に誹謗中傷が酷い状況です。なおかつ一昨日、NHK会長の記者会見では、旧ジャニーズ事務所所属のタレントをもう一度出演させるという話も出ました。
     
    宮台: 巷では紅白歌合戦に間に合うタイミングでまた出演させると言われていますよね。
     
    迫田: 逆に言えば当事者の思いは横に置いたまま風化していくという現実があります。
     
    宮台: NHKだけではなく民間放送もほとんど同じ決定をしているので、ほとぼりが冷めたと思っているのでしょう。
     
    迫田: どういう問題だったのかをもう一度確認したいと思います。1999年ごろ、週刊文春がジャニー喜多川氏の性加害問題をキャンペーン報道して、それに対してジャニーズ社とジャニー喜多川氏が名誉棄損で週刊文春を訴えました。その民事訴訟で、喜田村弁護士の「本当に少年たちが嘘の証言をしているとあなたは思うのか」という質問に対し、ジャニー喜多川氏が嘘の証言をしたとは言えないと答え、認めた形になりました。しかしほとんど報道されず、亡くなるまで謝罪などは何もありませんでした。
     
     2023年3月にBBCドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』が放送されて問題が明らかになりました。8月4日に国連人権理事会、当事者の会が記者会見をし、9月7日にジャニーズ事務所がジャニー喜多川氏の性加害を認めて謝罪しました。10月にはジャニーズ事務所が「スマイルアップ」に社名変更し補償業務を担い、「スタートエンターテイメント」という会社が発足してタレント業務を引き継ぐことになりました。
    BBCは今年3月に『捕食者の陰 ジャニーズ解体のその後』という続編を放送し、10月15日にはスマイルアップが補償を通知した530人のうち510人と合意をしたと発表しました。しかし連絡が取れている申告者は763人いるので約200人は認めなかったということです。
    その翌日の16日にNHK会長が所属タレントの出演を解禁すると発表しました。ジャニー喜多川氏の性加害について530人の被害者をスマイルアップが認めたという状況で、数字だけ見ても驚きます。
     
    宮台: どういう要件が満たされていなければ認めないのかということが本来公開されるべきですが、まだ交渉中ということもあり分かっていません。
    所属タレントには落ち度がないという問題もあります。ジャニーズに限らず性被害を告発できなかったケースは色々あり、もし告発していればそういう人がいるということへの注意を促せたのにもかかわらず、それはできませんでした。他方で声をあげられない側のリアリティには非常に濃密なものがあり、心理学的な合理性もあります。したがって簡単に責めることはできませんが、ネットでは言いたい放題です。 
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