行定勲監督『つやのよる』
家族を捨て、艶(つや)という名の女性と駆け落ちをした男、松生は、艶がガンに侵されこん睡状態に陥ったことを現実として受け止められず、自らの愛を確かめるため艶がかつて関係をもった男たちに、艶の死期を知らせるという考えを思いつく。一方、すでに過去の存在だった艶の危篤を知らされた男たちと、その妻や恋人、子どもらは、それぞれの人生に突然割り込んできた艶という女の存在に困惑する。
原作/井上荒野 脚本/伊藤ちひろ、行定勲 監督/行定勲
音楽/coba 主題歌/クレイジーケンバンド
出演/阿部寛、小泉今日子、野波麻帆、風吹ジュン、真木よう子、忽那汐里、大竹しのぶ
☆☆☆ 「中年化」した行定勲が行く道の難しさ
【森直人:3点】
クレイジーケンバンドの主題歌『ま、いいや』(これは名曲)がリードする予告編は良かったのに、実際の本編は2時間18分の上映時間が、さらに長く感じた。青春群像劇では世界把握の冴えを見せる行定勲監督だが、今回の「中年化」に際しては出来合いのイメージやムードだけを追っているように思える。特に「作家」や「文壇」の古臭すぎる描写は痛い。野波麻帆は単純にエロいので、せめて彼女が全編通してのヒロインであれば……。
☆☆☆☆ 典型的な原作処理の失敗
【松谷創一郎:4点】
映画としてのフックがない138分の鈍重な作品。典型的な原作処理の失敗だ。重要なシーンでは、相変わらず長回しの中で登場人物が感情を爆発。その際のコミカルさが近年の行定節だが、余韻は台無し。行定はどうしてここまでダメになったのか? 3月に公開される井上荒野原作、イ・ユンギ監督の『愛してる、愛してない』と比べると歴然とした実力差がある。野波麻帆の良さだけが救いだ。
☆☆☆☆☆ 実用性にとらわれない見ごたえ
☆☆☆
【那須千里:8点】
行定監督の確かな演出力にあらためて唸る。恋愛の様々な側面を描くテーマや作劇上の意図がすべて役者のお芝居に反映され、それ以上の補足説明を必要としない。師匠に当たる岩井俊二監督のロマンを敬承しつつ現実の延長上の設定で勝負できる、文芸作品の腕前は随一では。各パートに主役級の女優を揃え、一人一人に公平に時間を割きじっくりと見せる構成は舞台の感覚に近いかも。実用性とは別の次元で味わえる贅沢な嗜好品だと思う。
▼公開中!『つやのよる』公式サイト
http://tsuya-yoru.jp/
▼執筆者プロフィール
森直人
1971年生まれ。映画評論家、ライター。
著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)など。
http://morinao.blog.so-net.ne.jp
松谷創一郎
1974年生まれ。ライター、リサーチャー。
著書に『ギャルと不思議ちゃん論 女の子たちの三十年戦争』(原書房)など。
http://d.hatena.ne.jp/TRiCKFiSH
https://twitter.com/TRiCKPuSH
那須千里
映画文筆業。
「クイック・ジャパン」(太田出版)、「キネマ旬報」等の雑誌にて執筆。