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『ズートピア』ーーディズニーの自己批評路線が作り上げた、嫌になるくらいの完成度(イシイジロウ×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.652 ☆
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『ズートピア』ーーディズニーの自己批評路線が作り上げた、嫌になるくらいの完成度(イシイジロウ×宇野常寛)【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.652 ☆

2016-07-27 07:00

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    『ズートピア』ーーディズニーの自己批評路線が
    作り上げた、嫌になるくらいの完成度
    (イシイジロウ×宇野常寛)
    【月刊カルチャー時評 毎月第4水曜配信】
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2016.7.27 vol.652

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    今朝のメルマガは、映画『ズートピア』をめぐるイシイジロウさんと宇野常寛の対談をお届けします。高い完成度のシナリオで右肩上がりのヒットとなった本作。絶妙なさじ加減で盛り込まれた政治性と、3DCGが可能にした柔軟な映画作りの可能性、そしてディズニー買収後のピクサーが失ったテーマについて論じます。

    公開後は各所で話題となり、興行収入は右肩上がりとなった同作。その完成度の高さの理由とディズニーアニメとしてのすごさを語りました。(初出:「サイゾー」2016年7月号(サイゾー)


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    出典

    ▼作品紹介
    『ズートピア』
    監督:リッチ・ムーア/バイロン・ハワード 脚本:ジャレッド・ブッシュ/フィル・ジョンストン 制作:ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ 公開:2016年4月23日(日本)
    進化によって、肉食動物と草食動物が仲良く共存できるようになった世界の大都会「ズートピア」。ウサギ初の警察官となったジュディと、この世界にあっても嫌われ者のキツネゆえひねくれた詐欺師ニックのコンビが、ズートピアで起きる連続行方不明事件の調査に当たる。その過程で変わってゆく2人のバディ的関係を軸に、種族を超えた共存が可能になってもなお続く差別や偏見を明確に描く。

    ▼対談者プロフィール
    イシイジロウ
    ゲームデザイナー/原作・脚本家。株式会社ストーリーテリング代表。1967年兵庫県生まれ。
    広告・映像業界を経て、老舗ゲームデベロッパー(株)チュンソフトに入社。その後(株)レベルファイブに移籍。
    2014年独立。2015年株式会社ストーリーテリング設立。
    代表作:ゲーム作品では「タイムトラベラーズ」「428 ~封鎖された渋谷で~」「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」アニメ作品では「モンスターストライク」「UNDER THE DOG」など。

    ◎構成:須賀原みち

    『月刊カルチャー時評』過去の配信記事一覧はこちらのリンクから。


    イシイ 『ズートピア』、自分のようなクリエイターからすると、鼻につくぐらいよくできていましたね。「(ジョン・)ラセター【1】、ここで絶対ドヤ顔してる!」って思うところが何度もあって(笑)、嫌になるくらいの素晴らしさでした。これまでディズニーが作り上げてきたアーカイブを破壊するような邪道的なことをやりながら、エンターテインメントの文法にしっかり則っているから観客にも伝わるし、エンタメ作品として成立している。完成度が高すぎます。
    【1】ラセター:1957年生まれ。ディズニーでアニメ制作のキャリアをスタートさせ、インダストリアル・ライト&マジックに移籍。その後ピクサー創設に携わり、同スタジオ初の長編『トイ・ストーリー』をヒットさせる。現在はピクサーとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの両方でCCOを務める。

    宇野 アニメーション映画の宣伝って、「このキャラクターが動くところが観たい」と思わせるのが重要じゃないですか。『ズートピア』はそのルックスが地味で、どうなのかな?と思っていた。でも実際に観てみたら、とにかく感心しましたね。設定や筋立ては結構いい加減なところもあると思うのだけど、そういう穴をかなり露骨に現実の比喩だと宣言することで無効化してしまう、というやり方でしょう? ディズニーがファンタジーの力を使って現実のヤバさをえぐり出してくるタイプのものを、このレベルで出してくるとは。

    イシイ 僕もコマーシャルを見ただけだとそんなに惹かれていなくて、「ステレオタイプなバディものだな」って思いながら観に行った。しかも、主人公のジュディが、最初は理想主義すぎて印象が良くないんですよ。ところが、10分も観ていると彼女を応援せざるを得ない気持ちになってしまう。その演出とシナリオの積み上げ方のうまさとテーマ性がセットになっていて、よく効くようになっていた。

    宇野 後味のコントロールが絶妙なんですよね。物語の中ではすごくキレイに完結してスッキリしている半面、例えば会見のシーン【2】で「自分がジュディの立場だったらどう答えたか?」とか、現実に持ち帰って考えさせるようにしている。政治的なメッセージが鼻につくという人もいるかもしれないけど、現実の問題を作品に取り込むことで、非常に奥行きの深いアニメーションを構築していたと思う。程よくモヤモヤを持ち帰らせているのがとにかくうまい。アニメに現代の現実を持ち込むと、作品の世界が壊れてしまうことも多いけど、本作は、そのバランス感覚が巧みだった。もともとディズニーはこういうことが苦手な印象があったんですよ。ディズニーランドじゃないけど、“夢の国”を作るのがディズニーで、社会的なものを取り込むのはピクサー、という感じで。
    【2】会見のシーン:物語の中盤で、凶暴化した肉食動物たちが隠されていたことが発覚した際、発見者としてジュディが記者会見を行う。そこで「肉食動物の本能の危険性」を語ってしまい、ニックと仲違いすることになった上、社会で肉食動物が迫害されるきっかけを作ってしまう。


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