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  プロデューサーの役割は〈こども電話相談室のおじさん〉である
――90年代V系全盛期を支えた裏方たち
(市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第6回)
【不定期連載】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.9.16 vol.691

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今朝のメルマガは、市川哲史さんと藤谷千明さんによる対談連載『すべての道はV系に通ず』をお届けします。今回は、90年代V系全盛期に成田忍、佐久間正英、岡野ハジメといった名プロデューサーが果たした役割を考えます。


【お知らせ】市川哲史さんの〈V系〉論、最新刊が発売中です!
(藤谷千明さんとの録り下ろし対談も収録!)
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▼内容紹介(Amazonより)
ゴールデンボンバーは〈V系〉の最終進化系だったーー?
80年代半ばの黎明期から約30年、日本特有の音楽カルチャー〈V系〉とともに歩んできた音楽評論家・市川哲史の集大成がここに完成。X JAPAN、LUNA SEA、ラルクアンシエル、GLAY、PIERROT、Acid Black Cherry……世界に誇る一大文化を築いてきた彼らの肉声を振り返りながら、ヤンキーからオタクへと受け継がれた“過剰なる美意識"の正体に迫る。
ゴールデンボンバー・鬼龍院翔の録り下ろしロング・インタビューほか、狂乱のルナフェス・レポ、YOSHIKI伝説、次世代V系ライターとのネオV系考察、エッセイ漫画『バンギャルちゃんの日常』で知られる漫画家・蟹めんまとの対談、そして天国のhideに捧ぐ著者入魂のエッセイまで、〈V系〉悲喜交々の歴史を愛と笑いで書き飛ばした怒涛の584頁!


▼対談者プロフィール
市川哲史(いちかわ・てつし)

1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント!」などで歯に衣着せぬ個性的な文筆活動を展開。最新刊は『逆襲の<ヴィジュアル系>―ヤンキーからオタクに受け継がれたもの―』(垣内出版刊)。

藤谷千明(ふじたに・ちあき)
1981年山口生まれ。思春期にヴィジュアル系の洗礼を浴びて現在は若手ヴィジュアル系バンドを中心にインタビューを手がけるフリーライター。執筆媒体は「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ総研」ほか。

◎構成:藤谷千明

『すべての道はV系に通ず』これまでの配信記事一覧はこちらのリンクから。


■優秀なリスナーは優秀なパフォーマーになれる――今井寿、hide、SUGIZOの雑食性

藤谷 ヤンキー文化の雑食性とV系の雑食性に、共通項はあるんでしょうか。

市川 文字通りのヴィジュアル――視覚的な要素に関しては、特にオールドスクール勢にはヤンキー的な雑食性は明らかにあったでしょ(苦笑)。ただ音楽性に関して言うならば、リスナーとして、ヘヴィーユーザーならではの雑食性だよね。洋楽に対する「日本のリスナーをナメんなよ」的な、日本ならではの勝手なリスナー文化。例えば、好きなバンドを発見したら最後、もう遡るのは当たり前、「在籍バンド全部聴くぞ!」「1曲だけセッション参加のアルバムだって聴くぞ!」「仲がいいバンドも聴くぞ!」という、オタク的な探究衝動――蒐集癖ですわ。

藤谷 とはいえ、あの人たちに渋谷系的なスノッブさはないじゃないですか。

市川 そりゃそうだよ。V系におけるオタク性とは本能的なものであって、その生態は真逆だからスノッブさなんて無縁無縁。スノッブなヤンキーなんて見たことないぞ。

藤谷 ……たしかに。

市川 だろ? 例えばhideはまったくヤンキーではなく、成績優秀だけども屈折してるデブで内向的な小中学生だったわけじゃん。洋楽ロックにはKISS聴いて衝撃を受けてそこからのめり込むんだけども、そのパターンは典型的な〈聴きまくり/聴き漁り〉タイプで。
私は彼がリスナーとして優秀だったから、信頼できたのかもしれない。「優秀なリスナーは優秀なパフォーマーになれる」とは私の長年の確信なんだけども、まさにhideはその典型で。今やまさかのベビメタ“ギミチョコ!!”の作者として知られるようになった(失笑)、上田剛士(AA=/THE MAD CAPSULE MARKETS)もそのパターンだよね。
BUCK-TICKの今井寿だと、そもそも音楽的基礎が一切欠落した極めて普通の一般少年なのでギターは究極の我流だし、スターリンとYMOという聴き始めてた音楽そのものも突然変異ジャンル(失笑)だから、もう本当に〈基本〉から縁遠い男なわけ。で、聴いたことがない音が出るエフェクターやチェンジャーが開発される度に、買っては変な音を出して悦んでたというギタリストの風上にも置けない奴――いいよねぇ(爆苦笑)。海外の(当時の)最先端ノイズ・ミュージックやインダストリアル・テクノも、知識や情報ではなく店頭で勘とジャケットで片っ端から聴いてたら、それがいつの間にか血肉になってるというある意味天才タイプだよね。

藤谷 理論に頼らず、その場で自分の手元にあるものを集めながら探究していく、という感じですね。

市川 動物的勘だな、要は(愉笑)。今井に――あとhideとかもそうだよね。対照的にSUGIZOはやっぱり、その音楽を聴く理屈や情報がまず必要な男。それはなぜかと言うと、ヴァイオリン出身だからなのかもしれない。クラシックは知識と歴史の積み重ねだもんね? しかし初期LUNA SEAの頃は、SUGIZOが〈蓄積〉と〈様式美〉で書いた曲と、元々ノイズパンク野郎だったJが〈本能〉でワーッと書いた曲で、シングルにいつも選ばれてたのはJの曲という。

藤谷 LUNA SEAの代表曲“ROSIER”も、作曲はJですからね。

市川 うん。まあ、そういうタイプの違いはあるけども、基本的にV系バンドマンたちは音楽に関して真面目な奴が圧倒的に多いね。「自分たちが影響を受けたロックをファンの子たちにも聴いて欲しい」という気持ちも強くて、洋楽のアルバムをやたら雑誌やファンクラブの会報やラジオで紹介しまくってたし、ファンの子たちもまた紹介されたものを素直にちゃんと聴いてたんだよねぇ。真面目だよね両者とも。

藤谷 実際に紹介されたものを聴いて「LUNA SEAの音楽と全然違う!」と驚いた経験も、今思うと面白かったなと思います。

市川 もちろん音楽的な理論武装ばかりだけでなく、個人差はあるけど皆楽器をすごく練習していたなと思う。正確には、目茶目茶練習する奴とまったくしない奴に二極化してたわけ。LUNA SEAは全員すごく練習してたし、hideやPATAもよく練習していた。その一方で〈センスまかせ〉の今井は、練習する必要がなかったんだけども(爆苦笑)。


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