ティーンズの「性と死」を描ける
ジャンルとしてのロボットアニメ
『石岡良治の現代アニメ史講義』第5章
今世紀のロボットアニメ(3)
【不定期配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2017.1.19 vol.773

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「日本最強の自宅警備員」の二つ名を持つ批評家・石岡良治さんによる連載『現代アニメ史講義』。今回はロボットアニメの「性と死」にまつわる表現の歴史に触れつつ、「多彩なドラマ展開が可能なブースター」としての側面を論じます。
(※あす1/20(金)20:00より、石岡さんの月1ニコ生「最強☆自宅警備塾」が放送予定! 2016年秋クールのアニメを徹底総括、今期の期待作についても語ります。視聴ページはこちら


▼プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。


■ガンプラは体系性への欲望を喚起する

 前回は、ガンプラの1/144スケールについて、手頃な大きさゆえにたいていのメカが模型化されていたことによって、ある種の「コンプリート欲」を喚起するものとなっていた話に触れました。ガンプラのそうした側面をよく示すキットが通称「武器セット」と呼ばれたモデルです。ガンプラ熱が最高潮のときには、ガンダムやザク・グフなどの人気モデルが手に入らず、この武器セットだけ先に買う人もいたほどで、私もその一人だったりします。

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 ファッション好きにみられる購買活動として、仮に靴が気に入った場合、「靴合わせ」で服装一式を新調する人が出るなど、付属物とされやすいアクセサリーの側が「本体」を規定するケースはまま見られるわけですが、ガンプラにおける「武器セット」も、まさにそうした役割を演じていたわけですね。『オルフェンズ』でもこの「武器セット」の伝統は健在で、武器ユニットだけの「オプションセット」が複数発売されています。

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 現在ではさすがに「本体よりも先に武器を買う」ような購買活動はまれだと思いますが、ここには「コレクション」を駆動する重要な要素があると思います。マイナーなオプション武器が揃うことから生まれる「体系性」への欲望こそが、ガンプラが一つのワールドを形成した重要な理由のように考えられるからです。ちょうどレゴブロックが「なんでも作れるのではないか」と思わせるように、ガンプラには「今ここ」にある模型だけでは完結せず「その次」へと駆り立てる要素に満ちています。単体で興味を惹くロボやメカは他の作品でも生み出されていますが、メカ群のトータルな集合体そのものの魅力を、ガンダム以外のロボットアニメが作り出すことはできなかったように思います。
 現在このような「コンプリート」への欲望を担っているのは、トレーディングカードであったり、収集系のRPGであったりするわけで、ロボットがそうした役割を演じるために超えなければならないハードルはかなり高いと言わざるを得ません。ガンダムにおいてなぜ執拗に「宇宙世紀もの」が制作されるのか、また『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の「ブグ」のような、人によっては蛇足と感じられるモビルスーツがなぜ増殖していくのか、というその増殖原理は、体系性への欲望にあるんですね。個別のエピソードが少しぐらい崩れようとも、モビルスーツの体系の方に魅力を感じる人がいるわけです(例えば個人的に『機動戦士ガンダムUC』のネオ・ジオングはあまり好きではないのですが、あの造形も『逆襲のシャア』における「アルパ・アジール」の系統を意識しており、「体系を埋める」造形ではあるわけです)。


■ガンプラ視点で捉える『∀ガンダム』の達成

 このように、ガンダムのモビルスーツが、プラモを介して体系性を喚起させるものであることについては、『∀ガンダム』(1999-2000年)のコンセプトが批評性を備えた画期的なものとなっているので少し触れてみたいと思います。『∀ガンダム』は、今では日常語となった感のある単語「黒歴史」を生み出したことで知られています。「黒歴史」は有史以来の戦争の歴史として位置付けられており、そこに代々のガンダムシリーズが並列的に含まれるわけですが、作品世界ではその歴史は「忘却されている」という設定です。しかし他方で、数々の過去のモビルスーツが遺跡として埋まっていて、それを発掘して使っているという秀逸な設定があります。とりわけ、ガンダムを知っている者からはどうみても「ザク」にしか見えないモビルスーツを掘り出した地球人が、勝手に「ボルジャーノン」と名付けるところが批評的に興味深いと言えるでしょう。言葉の記憶が失われてしまっても、モビルスーツというガジェットさえ健在であれば、そこに勝手な命名を施して好き勝手に使うことができるという、「記憶を掘り返すこと」の魅力を示しているように思うからです。他方月に住むムーンレィスは「正しい記録」を保持しているので「ザク」と呼んでおり、同じモビルスーツを前にした言葉の齟齬が、文化摩擦としてうまく描かれているわけです。


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