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古川健介『TOKYO INTERNET』第5回
なぜ日本が世界共通語「Emoji」を生み出したのか、
そしてその影響とは
【毎月第2水曜配信】
なぜ日本が世界共通語「Emoji」を生み出したのか、
そしてその影響とは
【毎月第2水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2017.1.18 vol.772
ほぼ日刊惑星開発委員会では毎月第2水曜日に、古川健介さんの連載『TOKYO INTERNET』を配信しています。連載の過去記事はこちらから読むことができます。
今回のテーマは、日本社会で生まれ世界中に普及した「Emoji」です。この独特の表現形式がどのようにして生まれたのかを、日本語のデザイン特性や表現の歴史から紐解きます。
絵文字の簡単な歴史を振り返る
今回のテーマは「絵文字」です。絵文字の普及には日本が大きな影響を与えており、日本が絵文字を生み出した、といっても過言ではありません。
絵文字の起源には諸説あり、いま使われているような絵文字の原型は、もともとはアメリカの雑誌で使われた顔文字から、という説(※1)や、「:-)」という横から見た時に笑顔に見えるという、英語圏の顔文字が起源だ、という考え方、またJ-PHONEによるメールの絵文字がブームのきっかけだ、など様々なものがあります。
その中で僕は「デジタルであり若者内に爆発的に普及した」という意味で、絵文字ブームの起源は、ポケベルであり、そこからつながりdocomoの絵文字が、今使われている絵文字のはじまりだと考えています。
そこで本記事では「日本がなぜ絵文字を生み出せたのか」を考察し、そこから「今後、日本からはどのようなサービスを生み出すポテンシャルがあるのか」を考えていければと思います。
そもそも絵文字の使われ方とは
まず絵文字の使われ方を整理したいと思います。絵文字の使われ方は2種類あります。それは
・「感情表現としての絵文字」
・「意味を持った文字としての絵文字」
の二つです。
感情表現としての絵文字は、要は「今日楽しかったね」「おなかすいた」みたいな形であり、文字では表現できない気持ちを付け加えたものです。「!」などと近い使われ方ですね。
意味を持った文字としての絵文字、とは、簡単にいうと主に名詞としての役割を果たせるということです。「晴れなので車で釣りにでかけたんだけど、財布を忘れて大変だった」という文章を「なのででにでかけたんだけどを忘れて大変だった」みたいな使い方です。絵文字自体に名詞としての意味を持っているので、それで表現できるということですね。
ちなみにもちろん「I NY」みたいな形で動詞として使うことも可能です。
すべての始まりは「ハートマーク」だった
絵文字の初期は、主に感情表現として使用されました。
ポケベル時代の絵文字が、絵文字文化の起源といいましたが、この時代の実態としては絵文字=ほぼハートマークといってよいでしょう。そして、このハートマークは、ほぼ感情表現として使われたのです。
ポケベルはせいぜい10文字くらいしか送れない上に、電話機がないとメッセージを送れなかったので、文字数が少なく感情が伝えづらいという問題がありました。10文字といえば、たとえば「ナニシテル?」と送った時に「コレカラゴハン」と返す、そのくらいのやり取りしかできないわけです。
しかし、そこで「コレカラゴハン」と入れれば、かなりメッセージ性が変わります。感情が入ります。少なくともポジティブな感情を伝えようとしていることがわかるわけです。
このように、初期の原始的な絵文字は、まずは「!」のような、文字へ感情を補完するために使われていました。男性では、愛を伝える時が主ですが、女性の場合「これおいしいね」のような使い方もされます。しかし、男性がむやみにハートマークを使うと気持ち悪がられることが多いです。
余談ですが、2006年に、徳島大学の男性教授が女性職員へ送ったメールの文面の末尾にハートマークを付けていた、という理由でセクハラで懲戒戒告されたということがありました。とても痛ましい事件でした。
そんなポケベルの絵文字、ハートマークですが、あまりに絶大に若者に使われていたため、「ハートマーク事件」というものがおこりました。どのような事件かというと、docomoのポケベルがインフォネクストという端末になったときに、漢字などは使えるがハートマークが廃止されたことをきっかけに、高校生の間では「docomoはハートマーク使えない!」と広まり、ハートマークが使える東京テレメッセージ社のポケベルへ、顧客が移動したのです。私も当時は高校生でありポケベルを持っていましたが一瞬にして「docomoはダメ」という風潮が急激に広まったことを記憶しています。
絵文字たった一つで、顧客が大量に移動するほどの力を持っていた、ということを象徴する出来事でした。そして、これがdocomoのiモードで絵文字が生まれるきっかけとなったともいえます。以下は、docomoの絵文字の生みの親と呼ばれる栗田穣崇氏の発言です。
ドコモのポケベルがインフォネクストになってハートマークが送れなくなった途端、女子高生が大量にドコモからテレメッセージに乗り換えたのを目の当たりにしたのがiモードで絵文字を開発した最大の動機なので、ハートマークには足を向けて眠れない。
― 栗田穣崇Shigetaka Kurita (@sigekun) 2015年11月4日
iモードで、176種類の絵文字の中で、ハートの絵文字が4種類も用意されてたのはハートマーク事件があったからです。今の絵文字でも、ハートマークが多いのはこの名残ですね。
そんなハートマークといったような、語尾につけて、簡単に感情を示す、という原始的な絵文字の使い方から始まった絵文字ですが、iモード時代に入ると、絵文字の種類がドッと増えます。176種類になりました。前述の、栗田氏による開発ストーリーはすでに伝説になっているほどです。
絵文字が増えると、様々な表現が可能になります。たとえば、「今日、持っていっていないよね?で迎えにいこうか?」みたいな使われ方が可能になります。つまり「傘」を「」と表現できるということですね。
この時から、絵が文字になる、という、文字としての絵文字が本格的にスタートしたといってよいでしょう。もちろん、「今日楽しかったね」のように、感情表現として使われることも引き続き使われていきます。
ここまでをまとめると
・ポケベルでハートマークなどが使えるようになり、感情表現として若者が使い始める
・iモード時代には感情表現だけではなく、意味のある文字としても使われるようになる
・現在の絵文字は、感情表現と意味のある文字としての2つの側面がある
ということになります。(※2)
世界への普及、そしてemojiへ
そんな絵文字が世界へ普及したのは以下の2点が大きくありました。
一つはGoogleによるUnicode化、です。
Googleの開発者が、日本の携帯電話から始まった絵文字に感銘を受け、2007年から開発を始めて、絵文字をUnicodeへ採用したのです。
Unicodeとは、「符号化文字集合や文字符号化方式などを定めた、文字コードの業界規格である。(Wikipedia)」のことです。2010年には、Unicode 6.0として採用されました。なぜUnicodeが重要かというと、業界規格に入ることで、世界的に「文字として利用できるようになった」ということなのです。日本人からしてみると、絵文字はずいぶん前からある気がしますが、世界的に見ると、割と最近ということですね。
そして、iOSでは、2011年5月に標準キーボードに絵文字が搭載されました。それにより、世界中のiPhoneユーザーが絵文字に出会うことになるのです。
日本のガラパゴス文化だった「絵文字」は、ITにおけるGoogleとAppleという超巨大グローバル企業によって、世界で使われる「emoji」になったといえるでしょう。日本のdocomoで絵文字が作られた時は、日本内にある共通のコンテキストを利用していたため、Unicodeへの採用に関しては、いろいろな議論もあったのですが、複数の日本人による尽力によって、日本の絵文字の雰囲気を損なわないまま、国際基準になったという背景もあります。
「emoji」は日本語の絵文字をそのまま呼んだのですが、おそらく、Emotionalという意味に見える「Emo」が入っており、また「e-mail」などの「e」から始まることからも、外国人にも理解しやすかったからなのでは・・・と思っています。(実際に、emojiを「イーモジ」と発音する人も多いそうです)。
そんなこんなで、「emoji」は世界中に爆発的に広がりました。2015年では英オックスフォード辞書の今年の言葉に「うれし泣き」が選ばれるほどです(※3)。イギリスの言語学者によると、文字の広がり方としては、歴史上最速といわれています(※4)。
政治レベルでもemojiは活用されています。オバマ大統領が日本文化の例として「カラテ、カラオケ、マンガ、アニメ、そして絵文字」とあげたりなど、絵文字は世界的に有名な日本文化となりました。オバマ大統領はアメリカの現状を絵文字で演説する「State of the Union in emoji」というコンテンツを作っています。これはミレニアル世代と呼ばれる若者に興味を持ってもらうための施策と思われます。
アメリカ以外でもよく使われています。ちなみにQuartzの記事によると、Instagram上で絵文字をもっとも使っている国はFinlandらしく、日本は8位でした。意外ですね。
そのフィンランドは、自国ではじめてマーケティングのために、政府が絵文字を作って公表していたりして、なかなかにおもしろいことをしています。
そんな感じで、世界中のあらゆるところでemojiが使われているわけです。Twitterの調査によると、2015年の1年間で60億回使われたというデータもあります。
日本人からしてみたら、絵文字のブームはもうはるか昔に終わり、あまり多用するものではなくなって来ているという感覚ではないでしょうか。「明日はだからでデートしよ」とか来たら、正直、ちょっとやりすぎて気持ち悪いくらいの感覚です。しかし、世界で見ると、まだまだ新鮮な文化であり、ブームの最中という感じなのかもしれません。
さて、なぜ日本からこのように、世界最速で普及する文字である「emoji」が生まれたのしょうか。ここから、仮説を考えていきたいと思います。
仮説1:異物を取り込める日本語のデザイン
仮説の1つ目は、「日本語の性質上、異物を入れても文章が読みやすい」というものです。
もともと、日本には文字というものがありませんでした。音声のよる日本語があり、一方で海外(中国)からは漢語が入ってきていたわけです。
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最終更新日:2024-11-13 07:00
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