宇野 だから前にも言ったじゃん。猪子さんは『シン・ゴジラ』にも『ポケモンGO』にも負けてないって。
猪子 他にもたくさんあるんだよ。建築やデザインで世界的に有名なヨーロッパの『Frame』では、「Events readers’ choice: top projects of 2016」という記事でも2番目に選ばれたり、世界的に巨大なデザインメディア『designboom』の「TOP 10 art exhibitions of 2016」でも取り上げてもらったんだ。
あの『THE WALL STREET JOURNAL』では、「The Top Selfie-Worthy Museum Shows of 2017」という記事で、いまロンドンで開催中の展示会『
teamLab: Transcending Boundaries 』が、草間彌生さんや村上隆さんと並んで選ばれてる。これは、ロンドンで発行される雑誌版の表紙も飾るんだよね。
そしてチームラボとしては、『WIDEWALLS』というスイスのアート誌の「10 MOST INSPIRING ARTIST COLLECTIVES WORKING TODAY」でトップに掲載されて、しかも、同誌の「10 FAMOUS INSTALLATION ARTISTS WHOSE WORK YOU HAVE TO KNOW」にも選ばれたんだよね。他に選ばれているのがオラファー・エリアソン、草間彌生さん、艾未未(アイ・ウェイウェイ)、クリストとめちゃくちゃすごいメンツなんだよ。クリストは島の周りにピンク色の布をかける作品で有名なんだけど、僕たちが小学生の頃から教科書に載ってたような人なんだよ。たぶん見たことあると思う。
▲”10 FAMOUS INSTALLATION ARTISTS WHOSE WORK YOU HAVE TO KNOW”(WIDEWALLS)
宇野 あるある。布をかける映像とか見たよ。
……というわけで、著名なメディアばかりで、ちょっとすごいでしょ?
宇野 僕は日々の言動からわかっているつもりだけど、猪子さんはこの勢いで日本からいなくなるつもりなんでしょ?
猪子 いやいや……。でも、世界を代表するようなメディアから支持されるのはやっぱり嬉しいね。
光と音で身体ごと没入する『Music Festival, teamLab Jungle』
この空間は「Body Immersive」という、身体ごとアートの中に没入するコンセプトの最新作品群の展覧会にあたるの。表面的には音楽フェスを装っていて、流れ続ける音楽に身を任せながら、作品に没入することができる。同時に会場では、大量のムービングライトを使った光の「線」の動きで空間を再構成したり、立体物を生成する「Light Sculpture – Line」という新しいコンセプトの作品群が次々に連続して現れるんだ。光でできてるから、その空間や立体物に、参加者がより身体ごと没入する。
今回は、時間帯によって「
昼フェス 」と「
夜フェス 」という2種類の公演があって。「昼フェス」は50分間、「夜フェス」は70分間、それぞれのコンセプトに合わせて、音楽が鳴りっぱなしでいろんな作品が展開されていくんだ。
【昼フェスの動画】
VIDEO
【夜フェスの動画】
VIDEO
特に「夜フェス」で展開した『Light Vortex』、『Light Cave』、『Light Shell』は、「Light Sculpture – Line」という新しいコンセプトが明確に表現された作品で、空間全体が作り変えられたり、巨大な立体物を空間に感じる感覚が、圧巻だよ。
VIDEO
VIDEO
VIDEO
最初はみんな結構呆然としてるんだけど、だんだん踊り始めるんだよね。特に「昼フェス」は子どもに楽しんでほしいというコンセプトだったから、子どもたちがすごくはしゃいだりして。「踊る」という、超身体的な状態になりながらアートを体験できる、特別な空間にしたかったんだ。美術館だとどうしても頭を使って作品を認識しながら鑑賞してしまうけど、それとは異なる、身体的なアートの知覚体験をしてほしかったんだよね。
宇野 僕、この「光を点ではなく、線として用いる」ということと、これが「音楽フェス」であることは、一見別のことのようだけど、両方とも同じコンセプトに基づいていると思うんだよね。
たとえば、光の点の集合でできた作品『
Crystal Universe 』では、スマホを操作することでインタラクティブなことをしたり、要するに鑑賞者がアクションを起こすことによって、猪子さんのいう「モノのような空間」に入り込んでしまう快楽が発生する。
それに対してこの『Music Festival, teamLab Jungle』は、「光の線」で立体物が構成されることによって、自分たちがアクションしなくても勝手に空間が動的に変化して、鑑賞者の身体を作品に没入させてくれる。猪子さんがどう考えているかはわからないけれど、僕には人間の意識ではなく無意識にアプローチする後者のほうがより直接的に「身体的なアートの知覚体験」を呼び起こしているように見えるね。
猪子 ただ、シーン(作品)によっては自分たちがアクションを起こす作品もあるよ。そこで、自分も音楽及び空間(作品)に参加している感を感じてもらいたかったんだよね。
たとえば『Light Chords』では、光の弦に触ると弦が跳ね返ったり、音が鳴ったりするし、『奏でる図形』とかは、壁に投影される図形を触ると、インタラクティブに反応するようになっているんだ。そして『奏でるトランポリン』という作品は、トランポリンを飛ぶと音が鳴る。遊んでるだけで、結果的にみんなで一緒に空間全体の音楽を作るようにしたかったんだよ。
VIDEO
でも宇野さんの言うとおり、美術館では自分の時間配分で作品を観ていくけど、今回の『Music Festival, teamLab Jungle』は、ひとつの空間に対して音楽によって「作品のタイムライン」が決まっている。だから自分で何かをすることで空間に没入するというより、流れる時間の方に身を任せることで、受動的に作品に没入できるんだと思う。
宇野 そう。美術館の作品は究極的にはどの順番で観ても良いし、鑑賞する時間も、観る側がコントロールできる。だけど音楽は時間芸術だから、聴く側は絶対に時間をコントロールできないんだよね。そうした制約があることによって、人間の頭脳的な知の発動を抑えて、身体的な知に寄せることに成功していると思う。
もっと言うと、立体物でも絵画でも、鑑賞者が時間の主導権を握ってると、絶対に“自意識的”な没入になってしまう。だって、「観たくなくなったら離れればいいや」みたいなことを、常に考えてしまう可能性もあるじゃない?
だから、時間をコントロールする自由を奪われることによって初めて、身体的な知を発動させることができる。鳴っている音楽に対して打ち返すこと、インタラクティブな装置を経由して介入することはできても、音楽の時間の流れそのものは絶対に変化させることができない。そうすると必然的に、その参加は作品との調和的なアプローチになっていくと思うんだよね。
そもそも従来の美術館の「鑑賞物と鑑賞者」を分ける構造自体が、原理的に、鑑賞者から鑑賞物への支配的なアプローチによる没入しかできないようにさせているよね。猪子さんも作品を販売しているけど、コレクターたちは究極的にはその鑑賞物を自分のモノにしたいわけで、それは支配的なアプローチを促す。
それに対して『Music Festival, teamLab Jungle』は、音楽の「鑑賞者が時間の主導権を握れない」という性質を上手く利用して、「鑑賞物と鑑賞者」という関係を破壊している。
猪子 たしかに。最初はただ、踊っているような状態でアート的な体験をしてもらいたいという気持ちで始めたんだけど、その調和的なアプローチを目指して、無意識で音楽を選びとっていたのかもしれないね。
音楽による「秩序がなくともピースは成り立つ」
猪子 途中、『Throw in the Moon』という、投げ込まれた球体に、光の線が追従する作品があって、それから最後に、光の線が追従してものすごく輝くミラーボールが乗った神輿で会場を練り歩く、『Carry in the Sun』という作品がある。なんだか人類にとって宗教が始まる瞬間を垣間見ている気持ちになった(笑)。
VIDEO