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驕れる者は久しからず!? 「春の夜の夢」V系バブルの後先を振り返る・後編 (市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第11回)【不定期連載】
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驕れる者は久しからず!? 「春の夜の夢」V系バブルの後先を振り返る・後編 (市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず』第11回)【不定期連載】

2017-08-08 07:00
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    80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。今回も引き続き全盛期V系カルチャーの総括がテーマです。そのとき、わずかに顔をのぞかせた「氷河期への萌芽」とは?(構成:藤谷千明)

    バンドマンのキャラクターに起こった変化

    市川:話を戻すと、TVの音楽番組もV系に乗っかり始め、そうすると一般大衆にも届きだすからCDも売れるし、ライヴにも人が集まるようになる。となれば、それまでV系と積極的に縁が無かったメジャー・レーベルや芸能事務所までどんどん参入してくる、と。

    藤谷:バブル期は、それこそホリプロなんかも手がけてましたからね。

    市川:天下のソニー・レコードだって、Xを扱ってたのは《STAFFROOM 3rd》というあくまでも実験的な小部署(←後のキューンソニー)で、本隊はV系なんかやってなかった。で94年にようやく初めて本格的に手掛けたV系バンドが――BODY。もう破格の制作費&宣伝費を投下して、他社に出遅れた分を取り戻さんとばかりの全力投球でさ。

    藤谷:D'ERLANGER(デランジェ)のギターCIPHER(瀧川一郎)とドラムのTetsu(菊地哲)による新バンドということで、たしか新宿アルタ前のヴィジョンで告知もしていて、当時そこまでV系を知らなかったのですが、「明星」に記事が掲載されていたのを覚えています。アイドル誌にも出ていたというのは今考えると本当にプロモーションに力を入れていたのでしょうね。

    市川:うん。雑誌広告も大量出稿だったし、メジャー・デビュー・ライヴはいきなり武道館だし、アルバムとシングルを各1枚リリースしてすぐ解散したもんなぁ。デビュー2ヶ月後ぐらい? あの見事な<やらずぼったくり>ぶりは伝説だよね。

    藤谷:当時の曲自体は今でもD'ERLANGERのライブで演奏していたりするんですよ。ほかに大手レコード会社が力を入れていたというと、東芝EMIのZI:KILLでしょうか。

    市川:Xの後継バンド最右翼的存在で91年3月にメジャー・デビューしたのに、所属事務所のトラブルで年末には早くも活動休止。あとなぜか私の仲介でYOSHIKIがソロ契約したのも東芝なんだけど、結局どうでもいいクラシック・アルバム1枚以外になーんも出なかった。笑えないわぁ悲劇の東芝EMI。そんな度重なる悲劇を乗り越えて――94年に黒夢、そしてPIERROTか。

    80年代の名古屋大須に《円盤屋》という名古屋一英国ロックに長けた輸入盤店があって、この街で構成作家兼タウン誌編集長だった頃、開局当時のFM三重で喋ってた洋楽番組のスポンサーがこの店でね。社長の鰐部さんには御世話になったんだけど『ジャパン』でB-TやXをやってた頃に再会したら、「そんなんに日寄っとっちゃあかんてー(←原名古屋弁)」とクソミソに言われたわけ。ところが数年経ち東芝からの熱烈な誘いで黒夢のメジャーデビュー前の渋公でのライブを観に行ったら、関係者受付に鰐部さんがいて「黒夢よろしく頼むでよ」。いつの間にか黒夢も含め、FANATIC◇CRISISとかSleep My DearとかMERRY-GO-ROUNDとかいわゆる<名古屋系>の連中推しで、東京事務所なんか造っちゃってメジャー・レーベルに売り込むのをメインの仕事にしてたんだから。そしたら円盤屋も、いつの間にかV系専門店に生まれ変わってたよ(苦笑)。

    藤谷:黎明期からV系雑誌に広告をよく出していたので、よく覚えています。残念ながらゼロ年代に閉店してますが。

    市川:ありゃりゃりゃ。そういえば想い出したけど、V系に限らずあの頃は大型新人のデビューや推しバンド節目のライヴに地方のディーラーやマスコミをアゴアシ込みで御招待して、終演後は懇親会兼打ち上げパーティーがレーベルの黄金御接待だった。さっきまで♪堕胎云々と吐くように唄ってた清春が、笑顔で「お願いしまーす」と挨拶して廻ってた姿が象徴的だったな。

    初期のV系は殺気というかメンチというか、中の人の実際の性格はどうであれ声をかけにくいバンドが多かった気がする。そんな気配がたぶん、黒夢あたりから失くなったね。

    藤谷:本人のインタビューを読んでも、生い立ちからして不良ではなかった、ある意味<普通>だったからこそ今でもシーンにフォロワーが生まれているような普遍的なカリスマ性があるのではとは思います。

    市川:「実は人が好くて話がわかる」みたいな。でも、話がわかっちゃ駄目なのよ。

    藤谷:PENICILLINとかも、<シリアス(美形)><お笑い>の担当メンバーが分かれていたりしましたよね。『うたばん』や『HEY!HEY!HEY!』のような90年代の音楽番組で、「話すと実は面白いメンバーもいる」とか「この人たちも普通の人間だよ」って紹介がされて、アーティストの素の姿がメディア上でも見えてくるようになり……。

    市川:これは90年代を通じてV系連中にインタヴューしてて思ったんだけど、90年代半ばには無口な奴がいなくなった気がする。特にV系は皆、やたら饒舌になった。

    藤谷:MALICE MIZERのmana様みたいなキャラは別にして、ですよね。「ヴィジュアル系って見た目は怖いけど実は〜」みたいな奇を衒う方向性だったのに、皆がそうなっちゃった。でも、そういうフックがなかったらブームにもならなかったし、小学生にまで届かなかったとも思うんです。

    私の周囲のバンギャルの子たちに訊くと大体、「小学生のときにSHAZNAをみてヴィジュアル系を知って〜」となるので、今だとゴールデンボンバーがその役目を果たしているのでしょうね。その一方でDIRやPIERROTのような<『Mステ』で喋らない人たち>が現れたのは、反動なんでしょうか。

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