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本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。Ingressとジョン・ハンケのメッセージを通じて、もはや文字列の検索に留まらず、実現実とそこに存在するあらゆる事物を検索するに至ったGoogleの思想を解説します。 (初出:『小説トリッパー』2017夏号

5 ジョン・ハンケと「大きなゲーム」

  こうした変化の象徴として、米Googleのことを考えてみよう。Googleがウェブサイトの検索を提供する企業だったのは過去の話だ。かつてGoogleは、本来無秩序なインターネットを検索可能にし、擬似的な秩序をもたらした。たくさんのサイトからリンクされているサイトは重要なサイトである、そして重要なサイトからリンクされているサイトは重要なサイトである――こうした判断基準を人工知能に与えたGoogleは無秩序に発生するウェブサイトを、重要なものとそうでないものとに峻別したのだ。

 こうしてインターネットには擬似的な中心と周辺が形成され、人々はまるでそこをマスメディアのように秩序付けられたものとして読むことができた。それはいわば、ボトムアップの、参加型のマスメディアの誕生だった。政治からの独立が保証されるがゆえに逆説的に国家の保護を受け、第四の権力として特権的に情報を発信する――そしてそれゆえに硬直しやすい――マスメディアに対して、誰もが自由に情報を発信し得るインターネットが、Googleの人工知能に拠る「神の審判」によって重要なものとそうでないものが峻別され、フェアな競争を行う。私たちはあの頃、この新しい世界に希望を観ていた。ブロゴスフィアが担う新しいジャーナリズムが電子公共圏の礎になる――もちろん、短期的にはそこに数え切れないほどの困難が発生することは予測されていたが、同時に長期的にはこの新しいジャーナリズムと電子公共圏への移行自体は既定路線だと考えられていた。人々はボトムアップの、参加型のマスメディアを手に入れ、それが社会変革の礎になると期待した、だからこそ私たちは「動員の革命」を信じたのだ。そして、裏切られた。誰もが情報を発信できる世界が何をもたらしたか、もはや説明する必要はないだろう。

 しかし、現在のGoogleはすでに異なるアプローチを行っている。もはやGoogleはモニターの中のウェブサイトの文字列を検索する会社ではない。現在のGoogleはGoogle Mapsが代表するように実空間とそこに存在するあらゆる事物を検索する会社だ。そう、もはや情報技術の支配する範囲はモニターの中にとどまらない。そもそも私たちがいまインターネットと呼んでいるものはIoH(インターネット・オブ・ヒューマン――ヒトのインターネット)と呼ばれるもので、人間が意識的に投稿したモニターのなかの文字列のつながりにすぎない。そしてこれは情報技術におけるインターなネットワークのほんの入口にすぎない。本来のインターネットはIoT(インターネット・オブ・シングス――モノのインターネット)と呼ばれる。それはモニターの中の平面を媒介として人間と人間を結びつける従来のインターネットとは大きく異なるものだ。その支配力はモニターの外側に及び、人間と人間が接続されるだけではなく、人間と事物、事物と事物が接続されることになる。モニターの外側の事物がつながり、検索可能になる。Googleの変節はこの変化を背景にしている。もはやインターネットは人間のものでもなければ、モニターの中のものでもないのだ。

 では、このような現実優位の時代に対して、Googleはどのように対応しているのか。


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