デザイナーの池田明季哉さんによる連載『"kakkoii"の誕生ーー世紀末ボーイズトイ列伝』。序章で紹介したG.I.ジョーと変身サイボーグが描いた理想の男性性にまつわる想像力を引き継いで、トランスフォーマー誕生の経緯とそこに描かれた新しい成熟のイメージについて語ります。
序章では、アメリカにおける理想の男性像はG.I.ジョーというおもちゃが描いた「軍人」であり、その先に現れた「スーパーヒーロー」と共にマッチョイズムが基調となったこと、そしてG.I.ジョーの仕様変更として生まれた変身サイボーグが強化パーツを身にまとうことで丸ごとバイクになった「サイボーグライダー」が、乗り手と乗り物がコミュニケーションを取りながら主体と客体を往復する「魂を持つ乗り物」というユニークな想像力を提案したことを整理した。
今回からは、実際の20世紀末のボーイズトイのデザインに触れながら、この想像力の発展と、それによって導かれる「kakkoii」という美学の可能性について考えていく。今回からの第一章では、変身サイボーグの直系の後継者であり、「魂を持った乗り物」の中でも最もグローバルに活躍するに至った洗練されたおもちゃシリーズ「トランスフォーマー」について論じていきたい。
前編にあたる今回は、変身サイボーグがどのようにしてトランスフォーマーというかたちへと辿り着いたのか、その成立の経緯を分析しながら、20世紀末に誕生したトランスフォーマーというおもちゃの本質と、そのユニークな想像力について論じていく。トランスフォーマーは長い歴史の中で実にさまざまなバリエーションを生んできた。それぞれが興味深いため、本来であればそのデザインと想像力の関係をつぶさに追っていきたいところだが、今回はあえてその歴史を丁寧に振り返ることはせず、トランスフォーマーというコンセプトが最もピュアな状態だった誕生の瞬間に焦点を絞ることによって、その本質に迫りたい。
その上で次回の後編では、21世紀に入ってから制作され現在に至るまで続いているハリウッドによる映画シリーズについて考えていく。結論からいえば、トランスフォーマーの映画シリーズは男性性、特にアメリカン・マスキュリニティを主題にしていながらも、その可能性を捉えているというよりはむしろ限界を露呈してしまっているというのが本連載の立場だ。20世紀のトランスフォーマーを論じた上で21世紀のトランスフォーマーの陥った状況について考えることで、トランスフォーマーが20世紀に置いてきてしまったものがなんなのかが明らかになるだろう。
トランスフォーマーという「グッドデザイン」
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