チームラボ代表・猪子寿之さんの連載〈人類を前に進めたい〉。今回は、2018年6月21日から始まるお台場の大規模常設展「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」の制作現場からレポート! これまでにない圧倒的な規模の本展示を、編集長・宇野が先行体験し、猪子さんと語り合いました。展示会で作り上げられるボーダレスな世界と、 「身体で世界を捉え、世界を立体的に考える」空間とは?(構成:稲葉ほたて/この原稿は4月5日に収録した内容です)
圧倒的規模のテーマパークがお台場に!
猪子 今日は来てくれてありがとう。最初に説明をすると、この「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」(以下「ボーダレス」)は、5つのコンセプトを持つ空間からできているんだ。
1つ目は「Borderless World」。アート自体が展示されている場所から動き出し、鑑賞者の身体と同じ時間の流れを持つ。そして、作品同士がコミュニケーションすることで、境界のない1つの世界を作り上げていく世界です。
2つ目は「チームラボアスレチックス 運動の森」。これについては後でも詳しく話すけど、一言で言うと「身体的な知」をアップデートする取り組みだね。
3つ目は「学ぶ!未来の遊園地」。『お絵かき水族館』、『すべって育てる! フルーツ畑』なんかで遊ぶことができるよ。
4つ目は「ランプの森」。2016年にフランスで展示した『呼応するランプの森 - ワンストローク』などを展示します。
そして5つ目が、丸若裕俊さんがプロデュースするカフェ「EN Tea House」。ここでは『小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々』が体験できるよ。肥前でつくられた新しい茶「EN TEA」が注がれた茶器が運ばれてくると、その中に花が生まれ、咲いていく作品なんだ。
宇野 なるほど。ひととおり建設中の現場を観て回ったけれど、とにかく驚いたのが、この圧倒的な規模感だよね。北京の展覧会「teamLab: Living Digital Forest and Future Park」のときでさえ「これはヤバイ情報量だな」と思ったのに、今回はそれを遥かに上回っているね。
というか、こんなに情報量が多いとどう受け止めればいいか分からなくて、みんな愕然とするんじゃないかな(笑)。普通にレストランに入ったら、いきなり2.5食分出されたような感じだもの。
猪子 2.5食分どころじゃなく、1年分くらいは出してるんじゃない(笑)? これまでも机の上いっぱいに出してきたけれど、今回は壁も天も床も満杯にしてしまうレベルの物量になってる。実際に作品が入ったらもう少しピースな空間になるけれど、それでもこんな膨大な情報量の展示は、普通だったらつくらないよね(笑)。実際、今回の会場は施設面積が10,000平米と超巨大なんだ。
宇野 作品によっては、床が鏡になっている場所もあるね。すごく面白いアイデアだと思ったけど、もしかしたら酔っちゃう人とかいそうだし、訳が分からない世界で迷子になって、泣いたりする小学生とかも出てきそうだよね。
でも、この規模感にチャレンジしたことは、結構本質的な話だと思うよ。例えば、僕の好きな映画『アラビアのロレンス』って、完全版だと上映時間が3時間半とかあるんだよ。で、そうした1950〜60年代の『ベン・ハー』のような3時間半以上ある映画と、今のディズニーとかの90分ちょっとで絶対に終わる映画って、ほとんど別の鑑賞体験だと思うんだよね。あとは例えばジャクソン・ポロックの絵にしても、あの規模感も含めて作品になってるわけじゃない? あの絵を手元の雑誌で観ても、本来の面白さはよく分からないと思う。
そんなふうに、今回の「ボーダレス」って、規模のレベルでこれまでとは違う鑑賞体験にならざるを得ないと思うんだよね。既存の美術展って、普通は1時間くらいで観終えられる想定のもので、これまでのチームラボの展示もほぼその範疇にあったと思う。でも今回、全部をしっかり観るには最低半日は必要で、むしろテーマパークとかに近いものになってるよね。
猪子 それこそディズニーランドとかって、これ以上に規模が大きいわけだしね。
宇野 あそこは飲食店や休憩所なんかで隙間をたくさんつくって、部分的な気分のリセットをするのがうまいよね。もちろん、この「ボーダレス」にも丸若裕俊さんがプロデュースする日本茶「En Tea」を飲めるカフェが入るみたいだけど、通路に至るまで全てがチームラボの作品になっているわけじゃない?
猪子 そして、そのお茶自体もお茶の中に花が咲く、つまり作品になっていて、アートとなったお茶を飲むことになるんだ。だから、たしかに休憩所はあってもよいかも。
宇野 実際、チームラボの作品ってこれまで意図的に「ふと我に返る瞬間」みたいな句読点を体験に入れてこなかったと思うんだけど、句読点がある展示も、それはそれで観てみたいよね。ただ、むしろそうした句読点を一切なくすことによって、凄まじい空間に振り切っちゃうのも僕は面白いと思うよ(笑)。あるいは、休憩所の一部を作品にした上でリラックスさせてみるみたいな組み込み方とかもいいかもね。
いずれにしても、これまでの鑑賞体験とは全く別のことが求められるとは思う。1日では、作品の全てを観きれないよね。
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