ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。今回は、2000年に放送されたドラマ『池袋ウエストゲートパーク』を取り上げます。宮藤官九郎が脚本を手掛け、長瀬智也や窪塚洋介といったキラ星のごとき若手俳優たちが出演していた本作は、以降のテレビドラマの方法論を劇的に変えることになります。
『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』が公開された直後の2000年4月。堤幸彦は石田衣良の小説をドラマ化した『池袋ウエストゲートパーク』(以下、『池袋』)をTBSで手がけることになる。
▲『池袋ウエストゲートパーク』(2000)
物語の舞台は池袋。くだもの屋の実家で母親と暮らす真島マコト(長瀬智也)は、仲間たちとつるんで楽しい日々を送っていたが、ある日、友達のリカ(酒井若菜)が何者かに殺される。リカが援助交際をしていて、あやしい男に付きまとわれていたことを、ヒカル(加藤あい)から聞かされたマコトは、カラーギャングのGボーイズたちの協力の元、独自の調査をはじめる。やがて世間を騒がしている性犯罪者・絞殺魔(ストラングラー)に犯人の目星をつけたマコトたちはストラングラーを捕獲。リカを殺した犯人とは別人だったが、この事件をきっかけにマコトの名前は池袋中にとどろき、警察には相談できないイリーガルな事件の解決を依頼されるようになる。
リカを殺した犯人はいまだ不明だったが、トラブルシューター(便利屋)として池袋で起こる事件を次々と解決していくマコト。一方、池袋では勢力を拡大するGボーイズに対抗するカラーギャングのB(ブラック)エンジェルズが勃興、やがて、池袋を巻き込んだ抗争へと発展する。
『池袋』は今となっては伝説的な作品だ。
まずは豪華な出演俳優。主演の長瀬智也を筆頭に佐藤隆太、山下智久、窪塚洋介、坂口憲二、妻夫木聡、高橋一生といった、のちに頭角を表す若手俳優が勢揃いしている姿は壮観だ。同時に脚本を担当したのが大人計画の宮藤官九郎だったこともあって、阿部サダヲ、荒川良々、池津祥子といった大人計画所属の俳優も脇で活躍しており、大人計画以外にも古田新太、河原雅彦、きたろう、峯村リエといった小劇場系の俳優が出演している。三谷幸喜という先行例はあったものの、小劇場系の才能がテレビドラマに一気に流入してくるきっかけとなったという意味でも画期的な作品である。
この見事な配役を行ったのが、プロデューサーの磯山晶。『ケイゾク』の植田博樹と同じ1967年生まれ。1990年にTBSに入社した二人は同期である。
『池袋』は、今はなくなった金曜夜9時枠で放送されていたドラマで、夜10時からの金曜ドラマでは植田がプロデュースする『QUIZ』が放送されていた。
『QUIZ』は『ケイゾク』にあったアメリカン・サイコサスペンスの要素をより強めた劇場型犯罪を題材にしたもので、閑静な住宅街で起きた誘拐事件を精神を病んだ女刑事・桐子カヲル(財前直見)が追いかけていくというドラマだ。チーフディレクターは『ケイゾク』に参加した今井夏木が担当した。
一方、『池袋』には『ケイゾク』に参加していた金子文紀がセカンドディレクターとして参加している。磯山と金子、そして本作でプライムタイムの連続ドラマの初執筆となった宮藤が『池袋』でチームを組むことになる。後にクドカンドラマと呼ばれる一連の流れはここから始まったのだ。
――当時を振り返ると、「ケイゾク」の植田さんと、「池袋ウエストゲートパーク」(2000年TBS)の磯山晶プロデューサーという、TBSの2人のプロデューサーがドラマ界に新しい風を吹き込んだような印象があります。
「磯山の『池袋』もそうですけど、それまでのTBSのドラマ作りのフォーマットを大きく変えたとは思いますね。スタジオ2日、ロケとリハで3日みたいな、それまで何十年も続けてきたクラシックな撮り方ではなく、オールロケで、編集室を3ヶ月押さえっぱなしにして編集し続けるとか、音楽も、劇伴をそのまま使うのではなく、コンピューターに取り込んで音の要素だけを使うとか。『JIN-仁-』(2009年TBS系)も、音楽は『ケイゾク』のチームが担当しましたし、その後のTBSのドラマは、当時のチームの分派が作ってるものが多い。『ケイゾク』や『池袋』で始めたドラマ作りのノウハウは、今のTBSドラマに着実に受け継がれていると思いますね」
【テレビの開拓者たち/植田博樹】「地上波のドラマもできるし、ネットで見ても面白い、というドラマを作るのが理想」(2/3)
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