宇野常寛が火曜日のキャスターを担当する番組「NewsX」(dTVチャンネル・ひかりTVチャンネル+にて放送中)の書き起こしをお届けします。11月20日に放送されたvol.11のテーマは「“自分の働き方改革”で世界は変わる」。コクヨ株式会社働き方改革プロジェクトアドバイザーの坂本崇博さんをゲストに迎え、行政の指導のもとで形骸化しがちな「働き方改革」を乗り越え、個人単位で会社との生産的な関係を築いていく方法について考えます。(構成:籔 和馬)
NewsX vol.12
「“自分の働き方改革”で世界は変わる」
2018年11月20日放送
ゲスト:坂本崇博(コクヨ株式会社働き方改革プロジェクトアドバイザー)
アシスタント:加藤るみ(タレント)
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サラリーマンとオタクの両立のために、ひとりではじめる働き方改革
加藤 NewsX火曜日、今日のゲストはコクヨ株式会社 働き方改革プロジェクトアドバイザー、坂本崇博さんです。宇野さんと坂本さんはどういうきっかけでお知り合いになられたんですか?
宇野 去年の11月に、坂本さんが勤めているコクヨさんの主催する「働き方改革」をテーマにしたシンポジウムに、僕がパネラーとして呼ばれたんですよ。「今の働き方改革ブームなんて名前ばかりで空回りしている」とスピーチしようと考えていたら、坂本さんが冒頭のプレゼンで「あなたたちの信じている働き方改革なんて意味がありません」とビシッと言って、いい意味でやられたなと思ったんです。そこで、この人はおもしろいから仲良くなろうと思って、うちのメルマガに出てもらったり、『PLANETS vol.10』に出てもらったりしました。ちなみに僕と坂本さんは同い年なんです。僕は会社からドロップアウトして好き放題してやくざに生きている人間なので、僕の生き方はロールモデルにはならないと思うけど、坂本さんは組織の体制の中にいながらもすごくのびのびやっていているので、坂本さんの生き方はロールモデルになると思うんです。なので、こういう機会に坂本さんのやり方を紹介できたらいいなと思って今日はお呼びしました。
加藤 今日のトークテーマは「自分の働き方で世界は変わる」です。宇野さん、こちらのテーマを設定した理由は?
宇野 坂本さんは、ひとりのサラリーマンとして、まず自分の働き方改革をやったんです。それですごく成果を上げて、会社に評価されて、今コクヨで働き方改革のコンサルをやっている。つまりコクヨは単にオフィス家具などを提供しているだけじゃなくて、オフィス設計とかもやっていて、さらに坂本さんを中心にいろんな会社の働き方改革のコンサルをやっているわけなんだよ。坂本さん自身が自分の働き方改革をやることによって得たテクニックを、他社に広めていっているのね。個人的な工夫や小さなアイデアをシステム全体に応用していくのが、この人の理論ではきれいにつながっている。それがもっと世の中に紹介されるべきだと思ってこのテーマを選びました。
加藤 今日も三つのキーワードでトークしていきます。まずは「“自分の働き方改革”の紹介」です。
坂本 私はコクヨに入社したときに営業に配属されました。まわりの営業の人たちは1日に平均5件のお客様にお会いしに行っていたんですね。ある意味訪問件数が日々の目標のようにになっていました。でも、会いに行く営業スタイルは私の働き方ではないかなと思ったんです。その理由は、夕方に会社に帰ってきて、事務処理とかをしなきゃいけないので、どうしても帰宅が遅くなるんです。そうすると、アニメを観れないんですよ。これはまずいわけです。当時、録り貯めていた『エヴァ』をもう一回観たいし、あとは『ビバップ』とかも観たかった。このままではやばいと思いました。また、もともと天邪鬼な性質で、自分のやり方にこだわりたいところもあったんですね。そんな中でふと、「お客様に会いに行く」ではなく「お客様に来てもらう」とよいのではないかと思いついたんです。そこからいろいろ勉強したり練習して、お客様向けのセミナーや交流会を開いて、お客様にお越しいただくスタイルを確立していきました。交流会については、私は母子家庭の鍵っ子だったので、結構自炊することが多く、料理が好きだったんですね。そこで、「自分の料理を振る舞う会」を年末に開いて、年末の挨拶まわりじゃなくて、年末に挨拶に来てもらうという仕掛けをしました。ありがたいことに盛況で、毎年リピート開催するようになりました。というようなことをやっていると、残業はほぼなしで業績も結構高くなっていって。それを見たお客様から「うちにも君の働き方を紹介してよ」と言っていただいたんです。そこで、これはイケるかもと思い、コンサルと名乗って、契約の仕方とかを覚えて、中の人たちをうまく説得して、セミナーやワークショップを開いたり、いろんな会社さんの働き方改革のアドバイザーとしての生業をはじめたら、今では部署として活動できるレベルに普及してきたんです。
宇野 これはすごいスタンドプレイですよね。周りから何か言われたりしなかったんですか?
坂本 たしかに、「あいつは、営業の『え』の字を知っているのか」みたいなことを言われていましたし、反対意見もありました。私の場合、何かをやるときに、「この人と仲良くなっておこう」という人を見つけておくんですね。そこで、最初に私がやったのは、タバコ部屋に行くことなんです。私はタバコを吸わないんですけど、その彼がタバコを吸う人間だったんです。そうすると彼とよく会うじゃないですか。彼から「お前の出身はどこだ?」とか声をかけられるので、「兵庫県です。そちらは?」と言うと、「山口だ」と。そこで次の日までに山口のおいしいお酒を調べておいて、また会ったときに「山口のおいしいお酒を見つけました」と言って、そのお酒が飲める店に一緒に行って、熱く会話をして「なんかやりたいことはないのか?」と言われたので、「あります」と言うんです。このようにして、営業を社内的にやったりはしました。
加藤 話すきっかけを自分からつくりに行くのは、やっぱり工夫されたんですよね。
坂本 待っていると「とにかく外に出ろ」としか言われないのでね。意地でも早く帰りたかったので工夫をしました。
加藤 その後、コンサル事業を展開されたと思うんですけど、その過程で自分の中で苦労されたことはありますか?
坂本 オタクなので、もともと人前でしゃべるのがすごい苦手なんですよ。
宇野 今の坂本さんからは想像がつかないですね。
坂本 今でも休みの日に宅配便が来ても出ませんからね。コンビニのレジに行くのも嫌な人間なんです。だけど、それでは仕事にならないですよね。会いに行く営業もできないかもしれない。というので、公園でプレゼンの練習をはじめるんですね。ギターの弾き語りの練習みたいな感じで、公園でプレゼンテーションの練習をしました。足元に空き缶おいて。お金は入らないけど、ショートしてやっているように見せないと恥ずかしいじゃないですか。そんなことしてると、だんだんと恥の概念がなくなってきて。プレゼンってのは意外に場数だなと感じました。そのようにして克服しましたね。
宇野 日本の大企業では、会社に遅くまで残っている人が、忠誠心が高くてよく働いている人だとされていますよね。だから残業代の発想もあるわけじゃないですか。成果ではなくて拘束時間に対してお金を払うというね。あれは悪しき慣習だと僕は思うんだけど、コクヨはそうじゃなかったんですか?
坂本 やっぱり評価の基準が曖昧なところは多少あります。そうすると、上司は主観的に見て頑張っていると思える人を評価するんですね。その「頑張っている」の基準が、上司が平社員だった頃に、当時の上司から「お前は遅くまで頑張っているな」と褒められていると、それが刷り込まれることもあるんじゃないでしょうか。なんとなく人情としてはわかりますよ。遅くまでいたら「頑張っているな」と声をかけますよね。そうするとメンバーも無意識に「遅くまでいると、頑張っていると評価される」というロジックができあがっちゃうんでしょうね。そのあたりは、私自身が天邪鬼なので、「人と同じこと」をやって褒められるのがそんなに好きではない人間だから、逆に違うことをやってやろうというのはあったんですけどね。でも、そういう習慣はどこの企業さんにもあったのかなと思います。「一人前」という概念が「みんなと同じことができるようになること」だった時代ですね。私は、「一人前」というのは、ひとり前に出て新しいことをはじめることだと思います。
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