今朝のメルマガは、サッカー評論家の五百蔵容さんとレジーさんによる、ロシアW杯以降のサッカー日本代表をめぐる対談です。後編では、森保監督の戦い方が今後の日本サッカーに与える影響や、海外クラブが潜在的に持つルーツに基づいた多様性とJリーグの人工性との対比など、サッカーを軸にしながら日本人のあり方についての議論が展開されます。※この記事の前編はこちら
レジーさんの『日本代表とMr.Children』のインタビューはこちら
【インタビュー】レジー 日本代表の「終わりなき旅」はどこにたどり着いたのか?
森保式ポジショナルプレーはJリーグに還元されるか?
ーー前編では、森保さんが日本代表で展開している、日本サッカーの言語に基づいたポジショナルプレーについてお話を伺いしましたが、その戦術が、Jリーグに還元される可能性についてはどうお考えですか?
五百蔵 そこについては若干の絶望感があります。というのも、森保さんがサンフレッチェ広島の監督だった時期のJリーグの試合分析は、ゲーム構造から逆算して戦術の骨格を浮き彫りにするのではなく、局面ごとのデータを使って分析していたと思うんですよね。その中で、高いレベルの抽象化能力を持った監督がたまにいて、相手の戦術が機能しなくなる特定のポイントを見つけて、そこを突くようなことをやっていた。
広島が全体的なやり方をほとんど変えずに三度も優勝しているのを見る限り、あの5年間、他のクラブは森保さんが何をやっているのか分析できていなかった気配があるんですよ。同じようなプレーで同じようにやられ続けて、最後の年になってようやく攻め込まれた局面の分析ができるようになった。
具体的に言うと、3バックのウイングハーフが押し込まれて5バックの状態になったときに、ボランチの青山敏弘さえ動かせれば中盤がガラガラになるので、相手はそこを狙おうとするんです。でも、森保さんはそこに罠を張っていて、青山が釣り出されたら、そのスペースに入ってきた相手をCBの千葉和彦が前に出て確実に潰す。そのボールを森﨑あたりが拾って、フリーになっている青山に渡すと、敵ボランチは前に出ているから裏にスペースがある。そこに入り込んだ佐藤寿人にボールを当てて、フリックなりポストプレーなりでシャドウと連携しながらワイドに展開する。このパターンで延々やられ続けていたんです。
それが5年目になってやっと、青山を動かした上で、CBにFWを1枚貼り付けて動きを封じ、そこで生まれたCBの周囲のスペースに選手を入りこませる、という戦術を多くのチームが取るようになって、それで中央を割られる試合が増えてきた。
それに対して森保さんもいろいろ修正はするんですが、守備の考え方の枠組みはバレているのですぐに対策されて、3バックの脇のスペースを使われるとウィングハーフの負荷が高くなり、戻りが間に合わずにガンガン失点するようになって、それで森保さんは打つ手がなくなっていった。でもそれも結局、ある特定の局面を攻略したに過ぎないし、それまでに5年もかかったことを考えると、僕らが思っている以上に、日本サッカーの分析の手法は古典的な段階で止まっているのかなと。
それは近年のコンペティションを見ても感じるんですよね。むしろJ2の方がレベル的には進化している気もします。そういう意味で、森保さんのやり方を継げる監督がいるのかといえば、日本人監督ではベガルタ仙台の渡邉さんとか。あとは柏レイソルの監督だった下平さんも思考的には近いところがあったと思いますが……。
レジー そもそも日本代表のサッカーがJリーグにフィードバックされていたことが、過去どれだけあったかという疑問もあって。ハリルホジッチ以降、一対一のデュエルが増えたにしても、それは局面の話であって、ハリルホジッチ的な考え方が導入されたというわけではなかったと思うんです。
五百蔵 目に見える形で変化があったのはトルシエの時代ですよね。海外の趨勢に反して3バックのチームが増えたしショートカウンターも多くなった。あの頃は日本代表からJリーグへの戦術面でのフィードバックは非常にあったと思います。ただ、はっきり目に見えてたのはあの頃くらいで。ザッケローニ時代にポゼッションサッカーが増えたかといえばそうではなく、当時のJリーグでは、ミシャ式や森保さんのやり方、リトリート中心のサッカーが猛威を振るっていましたよね。ハリルホジッチが前に出る守備で相手を制圧する自分に近いサッカーを、レベルは違えどJリーグでやっていると認めたのは川崎フロンターレくらいですよね。
戦術的均衡は多彩かつ動的に進化する
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