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平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は、魅惑的な食材である牡蠣についての話題から、若かりし日の敏樹先生の思い出が蘇ります。友達のような彼女のような、微妙な関係の女性とのデート中に占い師に捕まった二人。しかし、敏樹先生はある理由から、急いでその場を切り上げようとします。

男 と 食  16      井上敏樹 

先日、深夜に咳き込んで目覚めた。しばらくの間、布団の中で咳をしていたが、なにか変だ。異臭がするし眼が痛い。飛び起きてびっくりした。部屋中に白煙が充満している。牛乳色である。一寸先が真っ白である。これは……火事だ。今や火の手はマンション全体に回り、泥酔して逃げ遅れた私は最早助からないーそんな想いが頭を巡りパニックになった。私が死んだら多くの人々がスキップをして喜ぶだろう。悲しんでくれる者は冬の松茸ぐらい少ないだろう。などと考えたのも束の間、すぐに真相に思い当たった。夜、酔っ払っらって帰宅した私は、前日作ったシチューを食べようと火にかけて、そのまま眠ってしまったのだ。私は白煙を掻き分けてキッチンに行き、ガスを止めると全ての窓を開け、ドアを開けた。当然、シチューは台無しである。真っ黒に炭化している。鍋ももう使い物にならない。私は『あっちっち!』と指を火傷しながら鍋に水を入れつつ、『よし、これはエッセイに書けるな』などと考えていたのだから物書きというのはなかなかに図太い。さて、前置きはこのぐらいにして、今回は牡蠣の話。牡蠣というのは、どうやら好き嫌いがはっきりと別れる食材のようだ。そして嫌う者は牡蠣に当たった事がある者が多い。


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