ドラマ評論家の成馬零一さんが、90年代から00年代のテレビドラマを論じる『テレビドラマクロニクル(1995→2010)』。宮藤官九郎編の第4回では、初期の代表作『木更津キャッツアイ』を取り上げます。「地元」と「普通」を主題にした本作は、一部の識者からバブル批判の文脈で称賛されます。しかし、そこで本当に描かれていたのは、均質化した郊外と「普通」すら困難になりつつある時代の訪れでした。
『池袋ウエストゲートパーク』((以下『池袋』)、TBS系)で高い評価を得た宮藤官九郎は、翌2001年、織田裕二主演のドラマ『ロケット・ボーイ』(フジテレビ系)を手がける。
アラサーの青年三人の自分探し的な物語は、山田太一脚本の『想い出づくり。』や『ふぞろいの林檎たち』(ともにTBS系)を彷彿とさせる青春群像劇。『池袋』を見て、宮藤の本質は家族愛や友情を描けることだと思ったプロデューサー・高井一郎による抜擢だった。
▲『ロケット・ボーイ』(小説版)
放送中に織田裕二が椎間板ヘルニアで入院してしまったことで話数が全7話に短縮されたこともあってか、宮藤の作家性が存分に出ていたとは言えず、ソフト化もされていないため、今では幻の作品となっている。後の『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)にも通じるシリアスドラマ路線だったため、完全な形で仕上がっていれば、今のクドカンドラマの流れとは違う流れが生まれていたかもしれない。
『池袋』は原作モノでチーフ演出の堤幸彦のカラーも強く、『ロケット・ボーイ』は不完全燃焼。そのため宮藤の評価は保留とされた。
その意味で、ドラマ脚本家としての作家性が正当に評価されたのは、翌2002年に放送されたドラマ『木更津キャッツアイ』(以下『木更津』、TBS系)からだと言えるだろう
『木更津』は千葉県木更津市で暮す若者たちを主人公にしたコメディテイストの青春ドラマだ。
高校卒業後、実家の理髪店「バーバータブチ」を手伝いながら、毎日ブラブラしているぶっさん(岡田准一)、一人だけ東京の大学に通う童貞のバンビ(櫻井翔)、プロ野球選手を目指す弟と比較されコンプレックスを感じている実家暮らしで無職のアニ(塚本高史)、学校の先輩と結婚して居酒屋「野球狂の詩」を切り盛りする子持ちのマスター(佐藤隆太)、神出鬼没で何を考えているかわからないうっちー(岡田義徳)。彼ら5人は、元、高校の野球部、高校を卒業しても地元に残り、仲間たちと戯れる日々を送っていた。ずっと続くかと思われて彼らの日常だったが、ある日、ぶっさんが余命半年の癌(悪性リンパ腫)だと判明する……。
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