今日のメルマガは、アーティストの草野絵美さんによる連載「ニューレトロフューチャー」の第3回をお届けします。マイケル・ジャクソンをモチーフとした作品のヒントを求めて、中国・深圳へと向かった草野さん。メイカーシーンにおける「複数の正義」を目の当たりにしたことで、新たな作品の制作に取り掛かります。
目の当たりにしたい!中国の急激な経済成長と消費文化
前回の記事で、マイケルジャクソン(以下、MJ)が表紙の雑誌を模した“下絵”のアウトソース先として、「量産的で作り手が不確かな点や、ハイクオリティな複製品という意味で、フェイクニュースや複数のリテラシー・正義が流通している現代社会と重なったから」という理由で選んだ、中国・深圳(シンセン)の『絵画村』。とはいえ、実際に中国へ行ったのは、半年前、私が主宰するSatelliteYoungのMV撮影に挑んだ上海が初めてで、深圳には行ったことがありませんでした。
MJモチーフの作品のみに留まらず、「情報の流通や消費」「倫理観のアップデート」「“真実”の真実性」などは、私にとって非常に重要なテーマであり、今後も作品を作る上で一貫して関わりが深いであろう議題です。その過程で、中国のめまぐるしい経済成長や留まるところを知らない消費文化には、一度ガッツリ向き合い、探求したいというモチベーションがあったので、この度、中国・深圳へ、行って参りました!
……が、最初にお詫びしたいのが、実はスケジュールが合わず、『絵画村』には行けませんでした。その代わりと言ってはなんですが、今回は、作品に想いを馳せながら、私なりの切り口で、イノベーションシティとしての深圳を探求したレポートをお届けします!
イノベーションシティ深圳、訪問
改めて、今回の旅の目的は、私の興味や作品コンセプトと親和性が高そうな、現代の中国における消費文化およびMakerシーンを視察することです。 まず、言うまでもなく現地での決済は現金を使う場面は一度もなく、すべてがQRコードで行われます。街には、中国版Uberといわれる配車アプリ『滴滴出行(DiDi)』の乗用車が溢れ、中国語以外の言語は通じませんが、翻訳アプリ『有道翻訳官(Dear Translate)』を使えば無問題です。 ちなみに、中国の街にはそれぞれ地域が掲げるスローガン的なものがあるらしいのですが、深圳のスローガンは「来了 就是深圳人(来ればあなたも深圳人)」。
なんとオープンなんでしょう! 流石は、中国屈指のイノベーションシティです。
アップルストアを彷彿とさせる家電ショップ「Xiaomiストア」
深圳に着いてから最初に行ったのは、真っ白なアップルストアを思わせる内装の『Xiaomi(シャオミ)』のストア。Xiaomiというと、日本ではスマホメーカーというイメージもあると思いますが、今や中国を代表する大手家電メーカーです。
そんなXiaomiストアで驚いたのが、最新の商品ラインナップ。 というのも、クラウド・ファンディング等で盛り上がったスタートアップの権利を片っ端から買収して、オフィシャルとして低価格で売っているという仕組みがあるようです。なんと、セグウェイも買収されて、今はXiaomiのもの。フィリップスにそっくりな家電も数年前に出して模倣品と話題になっていましたが、財政難に陥ったフィリップスに一部出資をして、今やオフィシャルにしてしまったから驚きです。
ちょっと荒技すぎる気はしますが、プロセスとしては、一企業をピンチから救済し、正当に権利の交渉を踏まえているので、れっきとした公式ですよね。