第4回
「女性との接し方が分からず、ホモソーシャル的な空気に逃げてしまいます」
相談者:回遊魚さん(東京都・24歳・文系院生)
Q.
國分さんこんにちは。2年前、東大での東浩紀さん千葉雅也さんとの鼎談にふらりと寄って以来のファンです。
今回は文系院生ヘタレの自己開示にお付き合いいただけるということで、有りがたく思っております。
今回ご相談したいのは、女性(というか人間)との付き合い方についてです。
自分は中学や高校のはじめごろまでは、クラスの女の子などが単純に好きになっていたと記憶しているのですが、高校の中頃からでしょうか、恋愛から撤退して、男友達とばかり遊ぶようになりました。
そして、気づいたらホモソーシャル的空気(たしか定義上、ホモソーシャルを構成する男性は女性を一人以上所有していることになっていましたから、正確にはホモソーシャルですらないのですが)の中での振る舞いしかできなくなっていました。
たとえば、キャバクラや合コンに行っても、最も楽しいのは、その後の男同士の「反省会」の飲み会なのです。そこでなされる会話は、いかに女性の前で派手に失敗したか、という笑い話が中心です。つまり、女性との関係の構築に失敗することを一つのパフォーマンスと化して、男性同士の関係を再強化しているわけです。言い忘れましたが私は性的マイノリティ当事者というわけではないです。ない、、、はずです。
さらに自分の問題は、女性との関係構築の不得手を、コミュニケーションがもつ原理的な暴力性(人は人の踏み込まれたくない領域を知ることはできない、など)に対して向き合っているナイーブな俺、という自意識で処理しているところです。厳しい現実に乗り出すしかないというのはわかっているのですが、そこに困難があるのです…。
とはいえ最近はAKBの握手会に行くなかで、「人を思う本当の気持ち」のようなものを自分のなかに取り戻しつつある気にもなっています。
どうやって、まともな人間関係構築の可能性を回復したらいいのか?そもそも、もう回復を目指すべきではないのか?お答えいただければ幸いです。
A.
質問をありがとうございます。
人生相談、まだ四回目ですが、実は寄せられているのは恋愛関連の相談がほとんどです。これは驚くべきことです。もちろん、僕のところに質問をお寄せくださる人の数は多くはない。またこの話題は人に相談しやすいということもあるかもしれません。
そうだとしても、この偏りは注意を引かざるをえません。どれほど多くの人が(広い意味での)恋愛関係に悩んでいるか。人生の中には本当に実に多くの悩みの種がありますが、少なからぬ人が、その中の一つである(にすぎない)恋愛関係に強く悩んでいるのです。
ここまではそれらの質問を脇によけて答えてきたのですが、もう避けて通るわけにはいかないと思い(まだ四回目ですが…)、今回から数回にわたり、恋愛関連の質問を続けて取り上げます。
その際、注意点があります。何回になるかは分かりませんが、この一連の恋愛関連の相談には教科書があります。その教科書をきちんと読んで欲しいということ、そして、僕の話もなるべく続けて読んで欲しいということです。なぜなら一つの体系を前提にしてお話していくからです。
教科書は、
二村ヒトシ著『恋とセックスで幸せになる秘密』(イーストプレス)
です。表紙はかなりオシャレですが、このタイトルからは軽薄な恋愛系自己啓発書をご想像される方もいらっしゃるかも知れません。また書き方も一見すると自己啓発書っぽい(各項目の最後に簡潔な命題が一つだけ掲げられている等)。しかし、この本は、極めて精密に構築された思考の体系と、豊富な観察上の事実──二村さんがおそらくはご自身がいらっしゃる独自の環境ゆえに獲得し得た観察上の事実に基づいて書かれています。
二村さんはアダルトビデオの監督です。この仕事は恋愛や性についてたえまなく思考することを強いるのではないでしょうか。僕は二村さんと一度お目にかかったことがありますが、大変思考を刺激されました(あとAVの話で盛り上がりました)。