• このエントリーをはてなブックマークに追加
脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第54回「男と食 25」
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

脚本家・井上敏樹エッセイ 男と××× 第54回「男と食 25」

2019-12-26 07:00
    02edd60c55eaada51c49f405cb6f4725455f8368
    平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』。今回は秋の風物ギンナンの話題です。「蕎麦はオヤツのようなもの」といいながら、その食し方には年季の入った食通ならではのこだわりが滲み出る敏樹先生。蕎麦について語る脳裏をよぎったのは、旅先の安宿で遭遇した、ある中年カップルとゴキブリの記憶でした。

    男 と 食  25      井上敏樹 

    今回はゴキブリと蕎麦の話である。昨夜、出たのだ。あれが、出た。出た、と言えばゴキブリか幽霊に決まっている。そして今回出たのはゴキブリの方だ。私がベッドでぼんやりしていると、天井に丸々としたのが張り付いている。『うおおおお〜』と叫びそうになって危うく堪えた。私の声に反応し、落ちて来たら一大事である。私はゴキブリが大嫌いだ。腋臭の女、音痴な歌好き、口臭のひどい犬、脚本の下手な脚本家、嫌いなものは色々あるが、中でもゴキブリがナンバー1だ。五年前にも、出た。私が仕事をしていると、キーボードの下から真っ黒いのがササッと這い出して来てパニックになった。ゴキブリというのは一匹出たら、百匹は部屋に潜んでいる、と聞いた事があるので、あの時はバルサンやらゴキブリホイホイやらあらゆる方法で対処した。それが、また、である。私はベッドで動けないまま、しばらくの間、ゴキブリを見つめていた。どうしよう。動いたら、やられる。かと言ってこのままではラチがあかない。私は丸めた雑誌を手に、ゆっくりと立ち上がった。叩き殺してやる。だが、ベッドの上にゴキブリを落としたくはない。私のベッドは黒いシーツだ。落ちたゴキブリがまだ生きていた場合、保護色になって動きが見えない。そこで私は作戦を立てた。まず、天井のゴキブリを叩く。そしてスイングを戻し、落下するゴキブリをもう一度打つ。ダブルショットだ。この作戦は成功した。私の打撃を受け、ゴキブリはテーブルを越え、ソファの後ろへと飛んで行った。私は満足した。とどめを刺すまでもあるまい。というより近づくのが怖い。とりあえず視界から消えてくれればそれでいい。


    kokomade■PLANETSチャンネルの月額会員になると…
    入会月以降の記事を読むことができるようになります。
    ・PLANETSチャンネルの生放送動画アーカイブが視聴できます。

     
    この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
    入会して購読

    チャンネルに入会して、購読者になればこのチャンネルの全記事が読めます。

    入会者特典:当月に発行された記事はチャンネル月額会員限定です。

    ブログイメージ
    PLANETS Mail Magazine
    更新頻度: 不定期
    最終更新日:2024-11-13 07:00
    チャンネル月額: ¥880 (税込)

    チャンネルに入会して購読

    ニコニコポイントで購入

    続きを読みたい方は、ニコニコポイントで記事を購入できます。

    コメントを書く
    コメントをするにはログインして下さい。