青山ブックセンター本店・店長の山下優さんが綴る連載『波紋を編む本屋』。今回が最終回です。「出版不況」という言葉が飛び交うなか、書店がすべきこととはなにか。「本を作るということ」の原点に立ち返って、考えます。山下店長による魂の叫びです。
山下優 波紋を編む本屋
最終回 想いがこめられた波紋、本があるかぎり、本屋として編み続けたい。
前回からだいぶ時間が空いてしまいました。突然ですが、今回が最終回です。
青山ブックセンターによる出版に至るまでのいきさつは、前回と小倉ヒラクさんのホームページが詳しいので割愛します。あの日、ヒラクさんに「本屋さんが本をつくれば良いのではないか?」といわれて、本当に道が開けた気がしました。店長になった直後とはいえ、正直燃え尽きていました。2016年にリニューアルして、意識的にトークイベントを増やして、多い月では25本、翌月、翌々月と進行していき、もちろん棚も作りながらで、一心不乱に日々を過ごしていたからです。売上は徐々に上がっていきましたし、色々と手応えもありました。しかし、それ以上に、利益という意味では、毎年、毎月、厳しさを突きつけられてきました。実際本屋は儲かりますかと、よく訊かれますが(この連載でも触れましたが)、本屋は本当に儲かりません。書籍を売った粗利は20%前後です。
ひと昔前、いわゆる町の本屋さんをはじめ、本屋が利益を出せていたのは、週刊誌や週刊漫画、月刊誌の売上がベースとしてとても大きかったからです。ほっておいても売れるタイトルが毎週、毎月、複数あることは、今では考えられないです。加えて、店舗のランクのパターンに応じて、出版社や取次から送られてくる本を店頭に出すだけで、利益が出るほどには売上を立てることができたはずです。インターネットも、スマホもない時代の話。その時代のシステム(取次、出版社による書店のランクづけ)を今も引きずっていることが、特に書店が儲からない一因です。全国一律に、同じ本をほぼ同じ発売日に届けることができる取次のシステムは、経理の機能も加えて、本当にすごいと、今でも思っています。その恩恵を受けて、1冊の追加注文でも可能になっています。以下に続く、雑誌の配送システムに便乗することで、ついでに書籍を届けてもらうことが可能だからです。
でも、それは雑誌が売れていたことによって、成り立っていた仕組みです。雑誌を書店に配送する際に、それ以外の単行本などの書籍の販売を絡めて同梱することで、うまくまわってきたからです。ご存じの通り、雑誌は廃刊・休刊が続き、どんどん売れなくなっています。個人的には書店と同じく、雑誌も今までのやり方(主に広告収入)が立ち行かなくなっただけで、今こそ、雑誌がイケると考えていますが、それはまた別の機会に……。もちろん売上を伸ばしているタイトルもありますが、全体ではかなり厳しい状況です。そして、蔓延っている付録文化。本当に付録を頑張れば売れると本気で信じているのか、一度面と向かって訊いてみたいものです。いまだに知られていませんが、付録の挟み込み(元々箱タイプはまた別です)は、本屋でもコンビニでも、店舗が行います。返品時は、その付録を本屋が外してから返品します。本当に意味がわからないです。たまにお客様によるお買い上げ後、付録だけ抜かれた本誌がまとめて、お店の近くに捨てられていることもあります。もう付録だけ売ればいいのではと、本気で思ってしまいます。コミックを保護するビニールも講談社以外は、本屋が巻いています。美品でないと売れないからです。雑誌もコミックも単価が低いにも関わらず、本屋側のコストが1番かかっています。ブックカバーも、昔の名残なのか、無料のサービスのままです(当店では、近々、レジ袋と共に有料化予定です)。いずれも、これまでがそうだったからという理由で、思考停止状態です。