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三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉第二章 キャラクターに命を吹き込むもの(2)
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三宅陽一郎 オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき〈リニューアル配信〉第二章 キャラクターに命を吹き込むもの(2)

2020-07-31 07:00
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    (ほぼ)毎週金曜日は、ゲームAI開発者の三宅陽一郎さんが日本的想像力に基づく新しい人工知能のあり方を展望した人気連載『オートマトン・フィロソフィア──人工知能が「生命」になるとき』を改訂・リニューアル配信しています。今朝は第二章「キャラクターに命を吹き込むもの(2)」をお届けします。
    効率的な情報検索と正しい推論によって解答にたどり着くための「機能」を追い求める、西洋的な人工知能と、「存在」を奥深く探求しようとする、いわば東洋的な人工知性。前回に引き続き、東洋哲学の視点を参照しながら人工知能の構造を捉え直します。

    (3)混沌が持つ人工知能における意味

     こうした東洋的な混沌など引き合いに出さず、機能的な人工知能で充分ではないか、という意見もあります。しかし、「一つの自律した知性を作り出す」という目標は西洋の夢でもあり、同時に人工知能研究の上でも重要な方向の一つです。たとえ辿り着くことが遠くても、その道程には重要な知見と技術が横たわっているはずです。そして、その探求は人工知能という概念そのもの、あるいは知能という概念そのものさえ打ち破っていくことになるかもしれません。

    自律型カオス力学系

     「機能を突き詰めて存在へ至ろうとする」という方法もあります。現在の人工知能の枠の中で、知能を存在として作ろうとすれば、環境と人工知能の機能的相互連関の中で混沌を獲得するという手法、「自律型カオス力学系」と呼ばれる手法が適しています(図5)。

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    図5 多数の要素が相互作用し発展する「力学系」のイメージ

     力学系とは「絡み合う複数の要素が時間と共に変化するシステム」のことです。特にこの力学系が「繰り返す動的な運動をボトムアップに持つ」場合には「自律型力学系」、さらに、外界からのインプットに関してセンシティブ(鋭敏)に運動を変化する場合に「自律型カオス力学系」と言います。イメージとしては、天井から吊り下げられたたくさんの振り子がお互い細い糸でつながれている場を想像しましょう。いくつかの振り子を力強く動かすと、力が伝搬して全体として複雑な振り子運動が生成されます。振り子は現実の物理空間の中にありますが、「自律型カオス力学系」の法則性を数学的に解析するためには、より抽象化された物理量で構成される位相空間を用いて記述する必要があります。これが、自然界に存在する一般の力学系のモデルです。
     これと同様、私自身も知能を「外部環境と内部構造の相互作用による情報の混沌の中から自律生成されるカオス力学系」とみなして人工知能を構築するという試みに長い間関わってきました(これは私の博士課程の頃からのテーマでありました)。現在も続けていますし、またこれからもこの手法が最も有望であると感じています。

    人工知能のカオス存在理論

     ところが、このアプローチは人工知能の中に閉じている限り、とても数学的でトリッキーなものに見えてしまいます。このアプローチにしっかりとした基盤を与えようとするならば、まず哲学の領域から土台を築く必要があります。それもより深い基盤として、東洋的な思想の上に構築することが自然です。
     というのも「混沌からすべてが生まれる」という思想は、東洋哲学においてこそ根源的なものであるからです。知能を作るという試みの中では、東洋と西洋の二つの知見がおのずと必要になります。なぜ、そうなるのかはわかりませんが、人工知能を作ろうとする行為は、まさにこの二つを世界の潮流を結び合わせる役目を持っているようです。
     それは我々の見方を逆転させることでもあります。混沌を人為的に構成する、という見方ではなく、まず知能とは混沌であり、その表現として、「自律型カオス力学系」があるという見方です。ですから知能の根底である混沌を知ることこそが、知能を形成するための最大のヒントであり、それを「自律型カオス力学系」の力を借りて描き出す、ということでもあります(図6)。

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    図6 人工知能と混沌、そして力学系

    ニューラルネットワークと混沌

     混沌は人工知能に存在を与えます。一つの混沌からの人工知能の作り方は、「リカレント・ニューラルネットワーク」を用いることです。ニューラルネットワークとは脳の神経回路を模した「電気回路シミュレータ」です。通常、ニューラルネットワークは多層構造を持っており(パーセプトロン型)、入力(感覚)から出力(判断)に向かって信号が進んでいきますが、リカレント・ニューラルネットワークは出力を入力にもう一度戻します。出力と入力が混じり合います。つまり感覚と判断が混じり合います。つまり客観と主観が混じり合います(図7)。
     判断と感覚が混じり合うのがリカレント・ニューラルネットワークの特徴です。リカレント・ニューラルネットワークを動かしていると、次第に、このリカレント・ニューラルネットワークを構成する要素の間に「自律型カオス力学系」が出現します。正確には、その場合、ニューラルネットワークは少し複雑な構造を持つ必要がありますが、本質的には自己ループバック構造と世界とのインタラクションの中からカオスが生まれます。

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    図7 リカレント・ニューラルネットワークと自律型カオス力学系

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