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記事 5件
  • 想いがこめられた波紋、本があるかぎり、本屋として編み続けたい。| 山下優

    2020-08-03 07:00  
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    青山ブックセンター本店・店長の山下優さんが綴る連載『波紋を編む本屋』。今回が最終回です。「出版不況」という言葉が飛び交うなか、書店がすべきこととはなにか。「本を作るということ」の原点に立ち返って、考えます。山下店長による魂の叫びです。
    山下優 波紋を編む本屋 最終回 想いがこめられた波紋、本があるかぎり、本屋として編み続けたい。
    前回からだいぶ時間が空いてしまいました。突然ですが、今回が最終回です。

    青山ブックセンターによる出版に至るまでのいきさつは、前回と小倉ヒラクさんのホームページが詳しいので割愛します。あの日、ヒラクさんに「本屋さんが本をつくれば良いのではないか?」といわれて、本当に道が開けた気がしました。店長になった直後とはいえ、正直燃え尽きていました。2016年にリニューアルして、意識的にトークイベントを増やして、多い月では25本、翌月、翌々月と進行していき、もちろん棚も作りながらで、一心不乱に日々を過ごしていたからです。売上は徐々に上がっていきましたし、色々と手応えもありました。しかし、それ以上に、利益という意味では、毎年、毎月、厳しさを突きつけられてきました。実際本屋は儲かりますかと、よく訊かれますが(この連載でも触れましたが)、本屋は本当に儲かりません。書籍を売った粗利は20%前後です。
    ひと昔前、いわゆる町の本屋さんをはじめ、本屋が利益を出せていたのは、週刊誌や週刊漫画、月刊誌の売上がベースとしてとても大きかったからです。ほっておいても売れるタイトルが毎週、毎月、複数あることは、今では考えられないです。加えて、店舗のランクのパターンに応じて、出版社や取次から送られてくる本を店頭に出すだけで、利益が出るほどには売上を立てることができたはずです。インターネットも、スマホもない時代の話。その時代のシステム(取次、出版社による書店のランクづけ)を今も引きずっていることが、特に書店が儲からない一因です。全国一律に、同じ本をほぼ同じ発売日に届けることができる取次のシステムは、経理の機能も加えて、本当にすごいと、今でも思っています。その恩恵を受けて、1冊の追加注文でも可能になっています。以下に続く、雑誌の配送システムに便乗することで、ついでに書籍を届けてもらうことが可能だからです。

    でも、それは雑誌が売れていたことによって、成り立っていた仕組みです。雑誌を書店に配送する際に、それ以外の単行本などの書籍の販売を絡めて同梱することで、うまくまわってきたからです。ご存じの通り、雑誌は廃刊・休刊が続き、どんどん売れなくなっています。個人的には書店と同じく、雑誌も今までのやり方(主に広告収入)が立ち行かなくなっただけで、今こそ、雑誌がイケると考えていますが、それはまた別の機会に……。もちろん売上を伸ばしているタイトルもありますが、全体ではかなり厳しい状況です。そして、蔓延っている付録文化。本当に付録を頑張れば売れると本気で信じているのか、一度面と向かって訊いてみたいものです。いまだに知られていませんが、付録の挟み込み(元々箱タイプはまた別です)は、本屋でもコンビニでも、店舗が行います。返品時は、その付録を本屋が外してから返品します。本当に意味がわからないです。たまにお客様によるお買い上げ後、付録だけ抜かれた本誌がまとめて、お店の近くに捨てられていることもあります。もう付録だけ売ればいいのではと、本気で思ってしまいます。コミックを保護するビニールも講談社以外は、本屋が巻いています。美品でないと売れないからです。雑誌もコミックも単価が低いにも関わらず、本屋側のコストが1番かかっています。ブックカバーも、昔の名残なのか、無料のサービスのままです(当店では、近々、レジ袋と共に有料化予定です)。いずれも、これまでがそうだったからという理由で、思考停止状態です。
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  • 山下優 波紋を編む本屋 第4回 なぜ青山ブックセンター本店が出版するのか

    2019-10-03 07:00  
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    青山ブックセンター本店・店長の山下優さんが綴る連載『波紋を編む本屋』。今回は、ついに青山ブックセンター本店からの出版計画が語られます。山下さんが考える、「書店が出版社になること」の意義とは?

    前回の連載では、書店の棚を作るために、書店員がどう感度・アンテナを高く持つか、考えてみました。
    今回のテーマは、出版についてです。はじめは、なぜ「書店」が出版するのかを考えていこうと思ったのですが、この連載を続け、それ以外にも色々な方にインタビューの機会を頂くうちに、もはや書店を「書店」と一括りにすることは難しいという思いを強めることになりました。チェーン店、個人の方が経営する書店、カフェに併設された書店、またカフェや他のテナントの収入がメインの書店、入場料が必要な書店、とあらゆる形態に細分化していく、現在の流れは必須だと思うからです。書店はどこに行っても、どのような形になっても書店であると、もともと強く感じていたので、「書店」の定義が曖昧になっていくことは、個人的にはとても良いことだと思っています。
    では、なぜ青山ブックセンター本店が出版するのか。きっかけは、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんです。書店は粗利を大きくすることを考えることが必要なのではないか。そのために書店自ら出版を始めるのはどうか、と小倉さんから提案を頂きました。ちょうど色々やりきったなあと感じていた時期だったので、まさに目から鱗の気分でした。その場で、藤原印刷さんをご紹介頂き、予算を組む中で、書店が出版することで、粗利が大きく得られることが具体的にわかってきました。

    このように、当初は粗利の面のみにフォーカスしていましたが、出版する意義をより突き詰めていくと、その理由は3つ挙げられます。
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  • 山下優 波紋を編む本屋 第3回「売れた」本を取り揃えることが、書店にとって第一なのか

    2019-09-10 07:00  
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    青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載『波紋を編む本屋』。第3回となる今回は、書店の棚を作るかなめとして、感度の高い書店員であるためにはどんな方法がありえるのか、考えます。
    前回のこの連載では、書店は本の文化の一端を担っているといえるのかについて、考えました。今回は、書店員の感度の高さについて、考えていきたいと思います。
    書店員は、どのように新刊の情報を得ているのか。基本的な新刊の案内は、全国津々浦々の書店に、一律同様の注文書が、営業さんの手によってか、FAX(未だに……)、あるいはメールなどで届けられる。重版情報や、テレビ、書評、広告等のメディア情報も同様です。毎日毎日、膨大な量のFAXが届きます。FAXやメールの場合は、出版社は一括送信が多いので、各書店に合う、合わないは全く関係なく、とにかく送られてくるということが多いです。
    加えて、著者や編集者、ライター、出版社のSNS、取次のシステムなど、とにかくチェックするべきチャンネルが多い現状です。また、書店の規模やチェーン一括仕入れなどによる細かい違いはあるのかもしれませんが、主に大手出版社については、全てのタイトルについて希望数を書店が指定することは基本的には難しく、売上の状況から弾き出されるランク(S、A、B~等)に応じて、配本されます。色々な事情から、アナウンスなく突発的に刊行されるタイトルもあります。このように、新刊については膨大な情報量が流れてくるので、全てを把握するのは、なかなか難しいです。
    では、書店からの注文数は、どのように決めているのか。当店、青山ブックセンター本店の場合は、各ジャンル担当者が数を決めています。たまに店長の自分は担当以外のジャンルにも口出ししています。当たり前ながら、この新刊の数を決めるというのが、難しくもあり、棚担当者の腕の見せどころです。
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  • 山下優 波紋を編む本屋 第2回 書店は文化なのか

    2019-05-21 07:00  
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    青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載『波紋を編む本屋』。第2回では、書店が文化の一端を担うためにはどうしたらよいのか? 「人のつながり」という視点から考えます。
    撮影:森川亮太
    街から書店が消えていくと惜しまれることが多いですが、その惜しまれ方には違和感を感じています。青山ブックセンター本店も2回ほど、閉店、倒産の憂き目にあっている。昨年、六本木店が閉店した際も、ウェブサイトの閲覧が多かったため、サーバが落ちたり、SNSでも多くの反響がありました。
    そう、書店は閉店したり経営母体が変わったりするのです。なぜか。当たり前ですけど、書店も商売、ビジネスの一つだからです。今さら何を、と感じられるかもしれませんが、書店の数が全盛時より減っていくにつれ、書店の存在自体が文化と捉えられているような、その感じ方、惜しまれ方に違和感を感じています。日本では、書店に税金が投入されているわけでもありませんし、税制の優遇もありません。
    (たしかに、最近はポイント施策等によるグレーゾーンもありますけれども)、基本的には再販制度(再販売価格維持制度)によって、書籍は、書店、コンビニ、ECサイトなど、どこでも一律で同価格で販売されています。日本書籍出版協会によれば「出版物再販制度は全国の読者に多種多様な出版物を同一価格で提供していくために不可欠なものであり、また文字・活字文化の振興上、書籍・雑誌は基本的な文化資産であり、自国の文化水準を維持するために、重要な役割を果たしています。」(一般社団法人日本書籍出版協会ホームページ、読者のみなさまへより)と述べられています。個人的にも本全般と出版は紛れもなく文化だと思っています。
    では改めて、書店は文化なのか。NOであり、YESともいえます。なぜNOかと言えば、書店が、そこにただあるという存在自体だけでは、文化とは言えないからです。YESと言うためには、様々な本を実際に並べる場を生かし、読みつがれてきた本を引き継ぎつつ、さらに未来を切り開いていこう書店員の意志があってこそ、書店は本の文化の一端を担っているといえるのではないでしょうか。

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  • 【新連載】山下優 波紋を編む本屋 第1回 なぜ書店員として発信を始めようと思ったのか

    2019-04-03 07:00  
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    今日から、青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる新連載『波紋を編む本屋』が始まります。出版不況の中、青山ブックセンターの快進撃を支える若き店長が、これからの書店文化について多角的に論じます。
    ▲青山ブックセンター本店・店長 山下優さん(撮影:森川亮太)
    はじめまして。青山ブックセンター本店、店長の山下です。「どうして書店員になったのですか」。よく訊かれるのですが、特別に本が大好きだった訳でも、強く志していた訳ではありませんでした。6歳から18歳までは、サッカー漬けの日々でした。その間の読書といえば、恥ずかしいやら、もったいないやら、サッカー漫画やいわゆる話題書、実家にあった『真田太平記』『鬼平犯科帳』『沈黙の艦隊』が主な読書歴でした。大学に入ってからの読書量は、ジャンルと量が増えたものの、日々アルバイトに明け暮れ、お金が貯まったらロンドンやニューヨークに行って、レコードを買っていたインディーのバンドのライブを観るということを繰り返していました。当時は、ふんわりと雑誌の編集や音楽のレーベル運営に興味があったくらいで、強烈に何かになりたい、何かをやりたいといったことがなかったことがコンプレックスでもありました。そんな自分が、洋雑誌の取扱いが多いからと、本当に何気なく働き始めたのが青山ブックセンターでした。そこで、書店という「場」を編集し、これから青山ブックセンターが始めようとしている出版事業において、ある種のレーベルを立ち上げることができるようになりました。恵まれた人生だと思っています。おこがましいかもしれませんが、なにかしらの形で自身の経験を世に還元したいと思っていたところ、PLANETSから連載のお話を頂きました。書くことだけからはずっと逃げてきたひとりの書店員が日々感じることを中心に、書店や出版というものについて、現場にいる人間だからだからこそ伝えていけるられる内容にしたいと思っています。どうぞおつき合いください。
    撮影:森川亮太
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