「働き方改革アドバイザー」の坂本崇博さんが、「My WX(私の働き方改革)」の極意を説く異色のワークスタイル指南、いよいよ最終回です。これまでの「意識が高くない」からこそできるメソッドで見えてきた選択肢を、どうすれば組織の中で行動に移していけるのか。新規事業開発のための「エフェクチュエーション」理論を坂本さん流に変換しつつ、「外道」の実践方法を考えていきます。
坂本崇博『(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革』
最終回 明日からできる「私の働き方改革(My WX)」その3
前回は、「私の働き方改革(My WX)」の実践理論として、セルフマネジメント論や心理学(脳科学)的な視点での行動変容アプローチも引用しつつ、「意識が高くないからこそできるやり方」をご紹介させていただきました。
「二次元にしか興味がない」状況から、ちょっとした地名トリビアを調べることで脳内ホルモンを分泌させ、次第に世界のあらゆることにアンテナを張りたいと「ハマる」ための手法。新たに記憶したいことを過去の後悔している体験(もしくはそのリベンジ妄想)と結びつけることで長期記憶領域に残す「クヨクヨ記憶術」。そして、記憶したネタ同士を斬新な組み合わせ方をしてアイデアを生み出す力を育てるためにことあるごとに「私が大富豪ならこのときどうするか?」を考えるFR(虚構現実)発想術。
これらを組み合わせることで、自分がやりたい志事にもっと注力できるようになるために、様々な情報を組み合わせ、過去の慣習・固定概念(王道)に流されずに自分の働き方を変えるための新たな選択肢(外道)が見えてくるようになるわけです。
しかし、私の働き方改革(My WX)の実現にあたっては、こうして浮かんだ選択肢を「実行」できるかどうかが、大きな分岐点になります。そしてその選択肢を実行できるかどうかの鍵が、「Effectuation(エフェクチュエーション)」に代表される新規事業開発・イノベーション理論に隠されていると、私は考えます。
私の働き方改革(My WX)実践理論の最後はこの「行動」のやり方・やる力についてご紹介したいと思います。
5 行動力を高める(前回からのつづき)
Effectuation(エフェクチュエーション)とは、「Effect(効果)」からくる言葉で「効果をあげる・実現する」という意味です。つまり、浮かんだアイデアを「いつかやる選択肢」のまま放置することなく、実際に行動に移し、かつ成果が出るまで試行錯誤したり、やり方を見直したりしてやり続け、最終的に成果をあげることを指します。
この言葉は、米国バージニア大学ダーデン経営大学院のサラス・サラスバシー教授が2008年に発表した『エフェクチュエーション 市場創造の実効理論』の中で新規事業に成功するために求められる「行動原則」の総称として用いられています。
サラスバシー教授は、27人の新規事業創造に成功した人へのインタビュー調査などを経て、新規事業創造(イノベーション)という効果をあげる(Effectuation)ために必要な「5つの行動原理」を見出しました。さらにそれら行動原理は天才的・先天的に備わっているものではなく、誰もが学び実践することができるものであると分析しています。
そして私は、私の働き方改革(My WX)という「改革(イノベーション)」を実行する上でも、この行動原理を意識し取り入れることで、効果をあげられる確率が高まると考えます。
その行動原理とは、次の5つです。
1 手中の鳥(手元にある資源を使ってできることからやる)
2 許容可能な損失(成功したときの利益よりも失敗したときの損失の量に着目し、その損失量が自分の許容範囲ならチャレンジする)
3 クレイジーキルト(一人で進めず周囲の人たちに働きかけ、パートナーとしてコミットしてもらう)
4 レモネード(“レモンをレモネードにする”ということわざの通り、酸っぱい状況(トラブルや予期せぬ事態)に直面しても、発想を転換してそれをテコにして成果につなげる)
5 飛行機パイロット(刻々変化する状況を観察し、目的地すら変更しながら常に状況に応じて自らをコントロールし続ける)(『エフェクチュエーション(日本語)』(サラス・サラスバシー (著), 加護野 忠男 (翻訳), 高瀬 進 (翻訳), 吉田 満梨 (翻訳),2015,碩学舎/碩学叢書 より)
これら5つを意思決定や判断の際に心がけ実践し習慣化することで、効果をあげられるというわけです。
ただ、この5つ、日本語訳をする際に米国のことわざや慣用句をそのまま訳してしまっているせいか、申し訳ないのですが個人的には「すっと入ってこない」印象を受けます。そこで、私なりに言葉を編み直し、かつ5つを3つに再編して、「私の働き方改革(My WX)流エフェクチュエーション理論 ~3つのシ~」としてみました。