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アニメーション監督の山本寛さんによる、アニメの深奥にある「意志」を浮き彫りにする連載の第21回。
今回は、宮崎駿監督の転回作となった『もののけ姫』を再考します。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』と同じ1997年に公開された本作は、どんなかたちで日本アニメの「モダニズム」の限界を垣間見せたのでしょうか?

山本寛 アニメを愛するためのいくつかの方法
第21回 「モダニズム」はこうして崩壊した -『もののけ姫』

前回「モダニズム」とは何か、について語ったが、では「モダニズム」が「ポストモダン」へと変化した、そんな境目のようなものは探せば見つかるのだろうか。
もちろん時代の流れは一瞬で切り替わる訳がなく、漸次的な移行があって当然だと思うのだが、僕は長年、どう考えてもこの「一瞬」をある年に見定めてしまう。
1997年だ。

この年、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』と並んで、もう一本の劇場アニメが公開された。
『もののけ姫』である。

たびたび僕の学生時代、特に大学時代の話をして恐縮だが、僕のアニメに対する思考の原点でかつ「終着点」がここにある、と今も思っているので、どうかご理解いただきたい。
大学4年生だった僕は、この2作を観て、「アニメは終わった」と直感した。
今思えばそれはアニメの「モダニズム」の終焉だった、と換言できるだろう。

『エヴァ』については過去(連載第8回)に言及したのでそれを参照してもらいたいが、僕はまずアニメの「ポストモダン」化を『エヴァ』に見て取った。
しかし、当時の僕は既に薄々感づいていた。
『エヴァ』シリーズ監督・庵野秀明の、事実上の師匠とも言える宮崎駿はどうするのだろう?
結論は、まさに同じ年、1997年に『もののけ姫』という形で出た。

これは至る所で述べているが、僕は卒業論文にて、『エヴァ』と『もののけ姫』、この2作を軸として、日本アニメ史を美学的に読み解くということを試行した。
教授陣の反応は案の定「???」なものだったが、この論文は今も意義あるものだと思っている。
内容は要約するとズバリ、「『エヴァ』と『もののけ姫』でアニメのモダニズムは終局を迎え、ポストモダンへと移行するだろう」というものだ。
『エヴァ』『もののけ姫』2作によって、アニメはほぼ一瞬にしてポストモダンへの扉を蹴破ったのだ。

さて、恐らく読者の方々も『エヴァ』は何となくイメージできるだろう。しかし『もののけ姫』とは? 多くの方がピンと来ないかも知れない。
今回は公開当時から議論百出し、難解だと話題になった本作を、「モダニズムの終焉」の観点から改めて考えてみたい。


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