(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。
2010年代後半からコロナ禍にかけて、上からのスローガンで進められてきた働き方改革ブームは、一人ひとりの人生を充実させる「私の働き方改革」の成果には、必ずしも結びつきませんでした。そうした改革の機運を有名無実化させてしまう日本の土壌とは何なのか、それを組織として変えていくためには何が必要なのか、改めて考えていきます。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第6回 働き方改革が進まないワケ
あらすじ
「場」の改革や「型」の改革だけではなかなか「私の働き方改革」は進まない。それではどうすれば私の働き方改革は進められるのでしょうか?
そもそも「私の働き方改革」とは、自分が自分自身の成果(働く時間も含めた人生全体の充実)を高めるために、自分のやる事・やり方・やる力を見直して周囲にも働きかけていくことである以上、組織としてそうしたことを後押しすることは不可能で、個々人に任せるしかないのでしょうか?
今回は、その問いに答えるべく、なぜそう簡単には「私の働き方改革」が進まないのか、その原因をひもときながら、「ではどうすればよいのか?」についても考察を進めていきたいと思います。
原因はホメオスタシス(恒常性)?
ここまで、働き方改革を目指して導入されたオフィス空間やICT、制度がうまく機能せず、本質的に働き方を変える、すなわち、一人ひとりが自分のやる事・やり方・やる力の見直しを始め、周囲に働きかけ、より充実した仕事・人生になったと感じるるようになるには至らなかった事例をご紹介しました。
なぜこうした事態が起こってしまうのでしょうか?
私としては、理性や理論では太刀打ちできない「本能」のようなものが「変わることを拒絶している」ように思えてなりません。つまり、個人としても組織としても、環境が変わっても今の自分たちの状態を保とうという、生物学で言われる「恒常性(ホメオスタシス)」のようなものが、働き方についても機能しているのではないでしょうか。
例えば、海外では業務改革ツールとして広く活用されているERP(企業統合管理)と言われるシステムを、日本企業が導入するときにもそうしたホメオスタシスが機能しがちです。本来ERPとは、そのシステムに自分たちの仕事のプロセス(会計処理や決裁、など)を当てはめながら、プロセスを見直していくものであり、いわば「働き方改革強制ギブス」のような役割を果たすツールです。しかし、日本企業のERP導入においては「ERPのほうを自分たちの働き方に無理やり合わせようとして、膨大なカスタマイズが発生して大変」という状況がシステム導入部門の嘆きの声としてよく聞かれます。
オフィス改革も制度改革も同様で、「今の働き方ありき」で変化した環境をその働き方に合わせようと工夫する性質があるように思います。コロナ禍においても、テレワークやハンコレスという大きな「やり方」の変化はありつつも、「やる事」としては基本的には従来の踏襲でした。オンラインツールを駆使してこれまで同様に週次の定例ミーティングが開催され、上位階層の定例会議で交わされた情報の伝言ゲームが行われ、権限移譲しきれないまま数万円の決裁まで部長クラスが電子上でチェックを行い、チャットにはスマホではとても読み切れない長文の文章がポストされています。
そうして、テレワークでも、「今まで通りに働ける」ことに安心しているのです。
この、現状維持に対する「執着」と言っても過言ではないレベルの状況は、もはや「日本企業はそれが本能だから」と思考放棄をしたくなるほど、枚挙にいとまがありません。
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