(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。
上からお仕着せられる、単なる労働時間の削減だけに終わらない「私の働き方改革」を組織的に進めていくためのアプローチは、具体的にはどんなふうに行っていけばいいのか。そのイメージの解像度をさらに高めるために、実際に行われた3つの事例をケーススタディとして紹介します。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第8回 「私の働き方改革」の具体的な推進施策
あらすじ
ここまで、組織内で「私の働き方改革」を推進する上での課題やその課題を乗り越えるための3つの推進手法について解説していきました。
今回は、より具体的な取り組み施策の例示をしながら、型・場・技の改革や政治的アプローチ、論理的アプローチ、心理的アプローチの実施方法についてより解像度を高めたイメージができるように解説をしていきます。
ケーススタディ1 某不動産会社における働き方改革プロジェクト
この事例では、「型づくり・場づくり・技づくり」という3つの改革対象について、どのような改革を行ったかに着目してご紹介します。
こちらも老舗の大手企業で、2015年ごろ、本社オフィス移転という大きなイベントを機に働き方改革に本格的に取り組み開始。
改革当初は「場づくり」に注力。従来の硬くて狭くて古いオフィス環境から、非常に見晴らしもよく快適で、フレキシブルに働くことができるオフィスに移転。フリーアドレスの導入や瞑想ルーム、夜はお酒も飲める素敵な食堂、さらに先進ICTの整備など、まさに「改革」レベルで空間・ツール環境を刷新しました。
完成した場にはメディア取材が殺到。革新的なオフィスを評価する日経ニューオフィス賞なども受賞。経営層や従業員も「我慢から自慢のオフィスへの改革」に心躍り、会社が本気で働き方改革を進めようとしていることを実感。ある意味この「場」の改革こそが、大きな心理的アプローチ(改革しようという意識の盛り上げ)になっていたと思います。
しかし、オフィス移転後しばらくして「場は変わったけれど、生産性ややりがいが変わっていない」という状況でした。
社内アンケートでもオフィスの満足度は高いものの、仕事の生産性や働きがい・やりがいについては思ったほど高まっておらず、会議の非効率さや資料作成に時間がとられ過ぎていることへの不満、忖度ばかりして意思決定が遅いことへの問題意識などが高いままでした。
場(オフィス・ツール環境)の改革だけではこれらの改革は進まないと判断したプロジェクトメンバーは、型づくり(制度・仕組みづくり)や技づくり(知識・スキル向上)も本格化。
まず型(制度・仕組み)づくりとして、各自の業務効率化を支援するサポートセンターという仕組みを設置。サポートセンター員(コンシェルジュ)が、各部署の資料作成を代行したり、社内の情報を集め発信する活動を行うことで、一人ひとりの時間効率化を直接後押し。
また、「部署密着サポート」という働き方改革を支援する制度を構築。毎年手を挙げた部署には、働き方改革のノウハウ豊富なコンサルタントが半年間密着して、その部署の固有課題についてアドバイスや実行のお手伝いをするという「狭く深い支援」を行うことで、確実な働き方改革実現につなげています。
こうした「型」を整えることで、場の改革によって盛り上がっていた意識と相まって、各部署・各自のやる事・やり方の改革が進むようになりました。
また、技(知識・スキル)づくりとして、従来行ってきた人材開発研修に加えて、ICT活用テクニック講座や、部署内での情報共有活用の進め方ノウハウ講座、テレワークにおけるコミュニケーションの高め方講座などの働き方改革スキル研修を実施。さらにそれら研修を録画編集した動画コンテンツも配信し、「変わりたいけれど、変わり方がわからない」といった声に対応しています。
こうした、型・場・技それぞれを改革する施策を進めることで、この数年で明らかに「私の働き方改革」への着目度や実践度が高まっています。
ケーススタディ2 某大手老舗メーカーにおける働き方改革プロジェクト
この事例では、「政治的アプローチ」、「論理的アプローチ」、「心理的アプローチ」という働き方改革のプロセス(進め方)に着目します。
創業100年を超え、グループ全体で国内1万人の従業員を抱える素材メーカーA社で、2017年に生産性とやりがいの両輪での向上を掲げて、グループを挙げた働き方改革プロジェクトが発足しました。