(ほぼ)毎週月曜日は、大手文具メーカー・コクヨに勤めながら「働き方改革アドバイザー」として活躍する坂本崇博さんの好評連載「(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革」を大幅に加筆再構成してリニューアル配信しています。
働き方を改革する上で最後の障壁となるのが個々人の「性質(キャラクター)」。実際に仕事との関わり方を変えていった人々の調査から、自らの「性質」を変え働き方を改革していく糸口を探ります。
(意識が高くない僕たちのための)ゼロからはじめる働き方改革〈リニューアル配信〉
第9回 私の働き方改革実践の最後のピース=「私」の改革
あらすじ
ここまで、私の働き方改革とは何か、そしてそれを組織的に進めるための課題と成功の鍵についてご紹介しました。これらの取り組みによって、一定数の組織メンバーは自らの「私の働き方改革」に注目し、動き出すことができると思います。
しかし、組織メンバーの意識・価値観が確実に変化し、フル活用できる制度や環境が整った中でも、全員が一斉に働き方改革に挑み始めるかというと、そうもいかないでしょう。
私の働き方改革に向けた一歩を踏み出す上で最後のボトルネックは「一人ひとりの性質(キャラクター)」であると考えます。
ここでいう「性質」とは、意識・価値観といった「なんらかのきっかけで大きく変わる」ことができるものよりももっと深い部分、「無意識」の領域に近い行動習慣や意思決定の傾向といったものです。
ここからは、この「性質」を変える(もしくは上書きする)上での考え方やアクション例をご紹介していきます。
私の働き方改革の最後のピース
ここまで、働き方改革とは自分で自分の働き方をアップデートする、いわば「私の働き方改革」であるべきと解説してきました。そしてそれを組織的に推進する上では、単に場や型をつくるだけでなく、技づくりにも着目するべきであると整理し、そのためには政治的・論理的・心理的なアプローチを組み合わせて、一人ひとりが「私の働き方改革」に着手できるような後押し施策に取り組むことが必要であるということを、事例も交えながらご紹介しました。
しかしながら、「私の働き方改革」はあくまで「私自身」の一人ひとりの意識・行動変容がゴールであり、どんなに周りからお膳立てをされても、それを機会として生かして一歩踏み出さなければ働き方改革は実現しません。
私がアドバイザーとしてお手伝いさせていただいているお客様からも「結局は社員一人ひとりが坂本のように、自分で自分の働き方改革を見直せる『意識の高い人』にならないと変わらない」「たとえ型・場・技づくりを進めても、そんな意識の高い人間に変わってもらうことは無理な話なのではないか?」といった問いかけをいただくことも少なくありません。
この問いかけに対しては助走をつけて全力で「そうではありません」とお答えしています。
なぜなら、私自身、意識が高くない人間であり、世の中の「意識高い系」には嫌悪感すら覚える「非リア充」なオタクだからです。
私は長年自分の働き方改革に取り組んできていますが、実のところそのモチベーションの源泉は「アニメを観たい」からですし、組織や周囲に働きかけて新しいやる事・やり方に挑戦しているように見えるのは、「空気を読めないから」です。
「意識高い」と言われている人によくあるような「自分を成長させたい」とか「社会や会社に貢献したい」「働き方改革というキーワードで色々な人とつながりたい」といった欲求はひとつもありません(それはそれで問題かもしれませんが……)。それなのに「坂本は意識が高い」なんて言われると、自分のアイデンティティを否定されているような気すらしてしまうくらいです。
……と、「坂本は意識が高いかどうか?」の水掛け論はともかくとして、私自身がこれまでにコクヨという組織の中で「私の働き方改革」を実践してきたことは事実です。そして、弊社の中でそうした「私の働き方改革」をまだ実践できていない人がいることも事実です。
また、私がお手伝いさせていただいている企業でも、型・場・技づくりが進むにつれ、自ら働き方改革に取り組む人が発生し始める一方、なかなか行動には現れてこない人もいることも事実です。
つまり、「私の働き方改革」を組織的に進めていく上でも、個人として勇気をもって一歩踏み出して私の働き方改革に挑戦できるようになるためにも、何かもう一欠片足りていないピースがあることは間違いありません。
ここからは、この「最後のピース」は何なのかという問いに着目し、「できている人は意識が高いからだ。どんなにお膳立てをしてもできない人はできない」という単純かつ解決策のない答えで終わらせずに、「たとえ今できていなくても、いつかできるようになるには何をすればよいか?」について、深く考察を進めたいと思います。
最後のピースとは「人の性質(キャラクター)」
先述したように、私がお手伝いさせていただいている政治的・論理的・心理的アプローチを駆使して型・場・技づくりを進めている企業内でも、「私の働き方改革」に挑み始める人(実践者)とそうでない人(非実践者)に分かれています。
しかし、この非実践者についても、型・場・技づくりの効果がまったくないということではありません。
つまり、働き方改革に無関心・無理解だったり否定的というわけではなく、働き方改革の本質について理解し、その取り組みの必要性も実感していることが多いにもかかわらず、「行動に移す」ステップには至っていないという状況が多いのです。
ここで、人が行動変容に至るまでの段階についてモデル化した「行動変容段階モデル(トランスセオレティカルモデル)」に照らし合わせて整理してみると、図にあるように、多くの人は働き方改革というものに次第に関心を持つようになり(関心期)、かつ必要性も実感して「取り組みたい」と周りにも言い始めてはいるのです(準備期)。
これは社内で改革意識アンケートをとってみても明らかでした。組織的な型・場・技づくりを進める前と後では、確実に働き方改革について正しく認識し、その必要性を感じ、「なんらかの動きをしたい」と考えている層が増えていたのです。
こうした「意識は高まっているがまだ行動に移せていない層」にヒアリングを行ったところ、こういうセリフをよく耳にしました。
「やりたいし、やれそうなんだけれども、キャラ的に難しい」と。
すなわち、型・場・技づくりによる意識改革や行動変容の後押しが功を奏して、一人ひとりが自らの行動を変えるかどうかには、「本人の性質(キャラクター)」も少なからず影響しているということです。
そして、その「人の性質」というものがもしどうやっても変われないとするなら、ここまでせっかく解説してきた「私の働き方改革」も最後は本人の生まれ持った性質次第ということになってしまいます。
もちろん、この連載をそんな結論で終わらせたくはありません。そこで、ここからは本人の性質は決して「不変のもの」ではなく、自分自身で変えることができるということを示していきたいと思うのです。
本連載の読者の皆様も、たとえ組織的に働き方改革を推進する担当者であっても、「頭ではわかっていても、自分自身、自分の働き方を変えることに不安がある」「最後の一歩が踏み出せない」という方も多いと思います。
この先の解説をお読みいただくことで、そうした最後の一歩を踏み出す後押しにつながれば幸いです。
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