滋賀県のとある街で、推定築130年を超える町家に住む菊池昌枝さん。この連載ではひょんなことから町家に住むことになった菊池さんが、「古いもの」とともに生きる、一風変わった日々のくらしを綴ります。
節分の集まりがきっかけとなり、近隣の方と一緒に朝に散歩を始めたという菊池さん。土地の記憶をたどりながら、はるか昔近江の地に降り立った渡来人や出雲族の記憶に思いを馳せます。
菊池昌枝 ひびのひのにっき
第8回 東風凍を解く(はるかぜこおりをとく)〜桃始めて笑く(ももはじめてさく)
8:30 Walkers
2月6日から朝お散歩を始めた。そろそろ老化と健康という言葉が身にしみて、自力で生活できる体力を維持することが大切になってきた。しかし残念なことにトレーニングという名の運動系、学習系全てにおいて幼い頃から向いていなくて続けることがほぼ不可能に近い。最低限社会生活を営むために矯正してきたことはあるが、結局我慢できず苦しくなってしまい自分の感性で生きられる居場所を見出せなかったのだ。元来引きこもりがちで協調性に欠けており人前が苦手なので、よくぞ表面的にここまで取り繕ってきたと褒めてあげたいくらいだが、振り返ると現代で置かれた環境ではそうするしかなかったのだと思う。
きっかけは、町内の節分会の夜のことだった。氏子神社に適当に集まり境内の大きな木に鬼の仮面をくくり付け、子供も大人も「鬼は〜外♪、福は〜内♫」と豆まきをした。そのあと、大人たちで火を囲んで乾き物をつまみながら日本酒を紙コップで飲んでおしゃべりをした。それだけのことなのだがどこかコミュニケーションがとれている。強制ではなく先の長い日々を「もうすぐ春ですね」と助け合って生きている感じ。子供や老人にはこういう安心のなごみのひとときは季節に限らず良いものだなと感じる。最近顔を見なかった人たちの生存確認にもなる。火を囲みながら話題に出たのが「蕗の薹を取りにゆく」ということだ。これに便乗させていただこうということで、朝の散歩が始まった。
▲お参りと豆まきを早々に済ませて火にあたり一杯。
初日
8時30分に近所のおじちゃまのお導きで近所の都合がついた人たちが集合する。いつでも誰でもウェルカムだが、今のところ参加希望はあるもののそれぞれの仕事や家の都合で難しく、リタイア組、フリーランス、リモートワークの人しか集まれない。ひとまずストックをおじちゃまが準備してくださり3人でスタートだ。1時間から1時間半ほど歩く。平地はもちろんだが中山間地域へも行くので一回3キロ〜6キロ歩くことになる。「歩き」はついでであり季節感を味わい、町内の土地の記憶を学び、何かを介して人と会うのが目的になっている。
それなのに私は、初日に寝坊して電話にすら気づかず大失敗した。引きこもり生活は深夜型になりがちで、朝8時に起床というのは意識しても難しかった。お昼近くなって気落ちした私に、あるおじちゃまは蕗の薹と私を揶揄った絵葉書を持ってきてくださった。翌日からは気持ちをさらに入れ替えて参加。すると日々朝型になっていくのだ。不眠症の人は寝ようとしないで朝お散歩すると治りが早いかもしれない。オススメです。
▲新鮮な蕗の薹の葉っぱはお味噌汁に浮かべて食すだけで本当に美味しい。
▲道は春日局も歩いたという御代参街道。未だに未舗装で樹木が生い茂る道もある。
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この街は寺社仏閣が本当に多い。お寺は仏教伝来と聖徳太子から始まり、大津京や平安京、戦国武将や近江商人などの影響が強いのだと思う。もちろんそれ以前は縄文弥生の日本人、渡来人が自然信仰の土台を作っていたはずだ。ひとつの集落につき寺社仏閣が必ずあり、お地蔵さんや祠を入れたらその数はかなり多いのではないか(聞いたところではおおよそ200寺社あるそうだ。ちなみに集落全体の人口は21000人だそうなので、およそ100人にひとつ寺社があることになる)。
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