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第23回  疑問、葛藤、推し変へ

AKB48は日を追うごとにますます人気を獲得していった。それと反比例するかのように、ぼくはAKB48への情熱が冷めつつあった。それは推しメンである小林香菜への興味が薄れていることに他ならなかった。小林香菜の握手に行ったり権利を使ったり、つまりはわずかな時間とは言え直接喋る機会はあったのだが、その時間はもはや楽しいものではなくなっていた。相変わらず緊張してうまく喋れないし、会話も特に内容のないぎこちないものに終始しがちだった。AKB48が地下アイドルであったのなら良かったのかも知れない。小林香菜がAKB48を辞めたら、あるいはAKB48自体がなくなってしまったら、一般人となる彼女と個人的に繋がることすら出来るんじゃないかと邪なことを考えないわけではなかった。しかしAKB48はますます人気を付け世間的にも知られるようになり、ファンの数も増えている。劇場公演は日に日に入れる頻度が少なくなっていく。その状況の中で、少なくない時間とお金をかけてAKBヲタ(小林推し)を続けるモチベーションを保つことは難しくなってきていた。

かといって今さら推し変(推しメンを変えること)をするようなエネルギーも持ち合わせていなかった。既存の正規メンバーの中にお気に入りのメンバーもいたし、認知されているメンバーもいないわけではなかったが、別の誰かを代わりに推しメンに据えることなどできない。確固たる推しメンには、目に見えない、しかし超えられない壁【※1】というものがあるのだ。ぼくのAKBヲタとしてのキャリアはたった一人、小林香菜を推したことのみとなるのだろう、と思った。「AKBヲタになることは、推しメンを見つけること」である。それはつまり「推しメンがいなくなることは、AKBヲタでなくなること」でもあった。少なくともぼくにとっては。