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なぜ"マイルドヤンキー"を描けなかったのか――松谷創一郎×宇野常寛が語る『クローズ EXPLODE』 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.096 ☆
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なぜ"マイルドヤンキー"を描けなかったのか――松谷創一郎×宇野常寛が語る『クローズ EXPLODE』 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.096 ☆

2014-06-19 07:00

    なぜ"マイルドヤンキー"を描けなかったのか
    ――松谷創一郎×宇野常寛が語る『クローズ EXPLODE』
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2014.6.19 vol.096

    ゼロ年代国内映画市場に大きなインパクトを残した『クローズZERO』『ZERO Ⅱ』。
    そして今春、キャストと設定を一新して公開されたさらなる続編『クローズ EXPLODE』は、
    高橋ヒロシが作り出したこの「鈴蘭」という箱庭世界にどうアプローチしたのか!?
    国内映画の動向に詳しいライター/リサーチャーの松谷創一郎と、
    大の『クローズ』好きでもある宇野常寛が語った。

    初出:『サイゾー』2014年6月号(サイゾー)
     
    近年のヤンキーマンガの金字塔である『クローズ』が、最初に映画化されたのは07年の『クローズZERO』だ。小栗旬・山田孝之主演の“イケメン映画”としても人気を博してヒットを果たした同作は09年に続編『ZEROⅡ』も公開された。そしてこの春、さらなる“新章”として再び『クローズ』映画が登場。キャストも設定も一新された『EXPLODE』、そのワルさのほどは──?

    ◎構成:藤谷千明

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    監督/豊田利晃 脚本/向井康介、水島力也 出演/東出昌大、柳楽優弥、勝地涼ほか 配給/東宝 公開/14年4月12日

     高橋ヒロシのマンガ『クローズ』映画化シリーズの新章と位置づけられ、前2作から出演者を入れ替えた新作。前作『ZERO』の3年生たちが卒業したことにより空席となった鈴蘭高校の頂点を目指す内部抗争に加え、不安定な状態にある鈴蘭を狙う他校や周辺地域のヤクザらアウトローが絡み合う、盛大な勢力争いが始まる──。

    【対談出席者プロフィール】
    松谷創一郎(まつたに・そういちろう)
    1974年生まれ。著書に『ギャルと不思議ちゃん論』(原書房)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(共著/恒星社厚生閣)など。
     
     
    ■『クローズ』新章――大ヒットした『ZERO』2作を超えられるのか?
     
    宇野 『クローズ EXPLODE』(以下、EXPLODE)は今年の邦画の中では面白いほうだけど、『クローズZERO』(以下、ZERO)【1】、『クローズZEROⅡ』(以下、ZEROⅡ)【2】の前2作ほどのエポック感はなかったですね。野心的なことをやろうとした形跡はあるけど、あまり成功しているとは言えない。前2作は映画界全体と闘っていたというか、国内のエンタメシーン全般に対してインパクトがあったと思うんだけど、今回はすでに確立された『クローズ』ブランドの中での比較的大きい花火にしかなっていない感じがした。及第点と褒められる映画の中間くらいにある作品かな、と。

    松谷 僕も同じ感想ですね。

    宇野 松谷さんは本作を、今年の邦画の中でどう位置づけますか?

    松谷 日本映画自体が去年から引き続いて低調な状況です。企画が細っている中で、「貴重なアクション映画」であることは特筆すべきことでしょう。日本映画は、アクションが弱いですからね。こうした中でシリーズものの『EXPLODE』は内容も及第点、興行収入もおそらく10億円を超えるでしょうから、十分に健闘してる。ただ、『ZERO』の興行収入25億円、『Ⅱ』の30億円と比べると弱いし、「Yahoo!映画」のレビュー点数が前2作に比べて異様に低い。原作や前作ファンが、かなりがっかりしていることがうかがえます。

    宇野 一言でいうと、『ZERO』ってゼロ年代の邦画ブームの、一番いい時期の大花火だったんですよね。あの時期は、メジャーシーンでヒットを狙いながらも、いや、メジャーだからこその大予算を用いてチャレンジングなことをやれる空気があって、そして作品的にも成果を残したものがいくつかあった。その代表例が『ZERO』と『告白』だったと思う。

    松谷 06年に21年ぶりに邦画のシェアが洋画を逆転し、以降現在まで好調な日本映画の波を作ってきた作品のひとつといえるでしょうね。07年に『ZERO』、09年に『ZEROⅡ』、10年に『告白』。ゼロ年代後期の日本映画を語る上で、『ZERO』はもっと見直されてもいい作品です。

    宇野 そういういい流れがあったのに、その遺伝子が今はあまり残っていないんだなということが、今の邦画の状況をみるとよくわかる。その中で『EXPLODE』はすごく健闘しているんだけど、前2作や原作といかに闘うかというところで力尽きていて、独自の表現を確立するまでには至っていない。

    松谷 マンネリ感もありますよね。ただ、それはキャストで克服できる問題だとも思いました。だって浅見れいなが一番よかったと思うくらい、前2作と比べてキャラが弱まっていた。主人公の鏑木旋風雄【3】役の東出昌大の演技も決して良くなかった。この撮影は『ごちそうさん』【4】の前でしょうしね。

    宇野 『ごちそうさん』をやって鍛えられた後の今の東出くんなら、もっといけただろう、と。

    松谷 そう。ただ、脇役もそんなに良くなかったんですよ。『ZERO』は、線が細くて作品的にはどうしても狂言回し的な役回りになる小栗旬【5】を、山田孝之や高岡蒼甫といった役者がしっかりとバックアップしていた。一応今回も、柳楽優弥(強羅徹役)【6】がいたけれど、それでも弱かった。

    宇野 あとは勝地涼(小岐須健一役)【7】が与えられた役割を一生懸命こなしてるくらいかな。あれだけたくさん登場人物がいた中で、あの2人しか印象に残ってない。『ZERO』の2作を踏襲しようとし過ぎていて、例えば強羅のキャラクターって、ほぼ『ZERO』の芹沢多摩雄(山田孝之)【8】から貧乏っていう設定を抜いただけじゃない。というか、そもそも今回はキャラが多すぎたと思う。

    松谷 キャラが立ってないんですよ。三代目J Soul Brothersの2人(ELLY、岩田剛典)は特にそうでした。例えば『ZEROⅡ』で漆原凌(綾野剛)【9】が傘を差して出てきたシーンはすごく記憶に残ってるじゃないですか。彼はあれが出世作になりましたよね。そういう掘り出し物な感じの役者が今回はいない。

    宇野 今回でいうと早乙女太一【10】が本当はそうなるはずで、悪くないけど柳楽優弥に負けてたよ。藤原一役の永山絢斗【11】も同様で、悪くはないんだけど……という。総合点は決して低くないんですよね。主演の東出くんも、演技力には問題があったかもしれないけど、フィジカル的な存在感はあったと思う。脚本に関しても「これだけ勢力がいて話がまとまるのかな?」と思ったけど、終わった後には「よくまとめたな」という印象を持った。でもやっぱりヤクザやOBのオッサンのドラマに頼っているところが弱いとも思う。
     原作の『クローズ』の世界では大人や女性がほぼ出てこず、不良男子高校生だけが存在する世界になっているでしょう? あれって要は今でいう「マイルドヤンキー」的な世界観の先駆けだと思うんですよ。「守るべき女」とか「反抗すべき教師」や「超えるべき父」がいない世界で、ヤンキーはアウトローでもなんでもなく、趣味でケンカをしているだけ。
     けれど、今ようやくオヤジ論壇がマイルドヤンキー的なものに気づき始めたことが象徴的だけれど、東京の鈍感なホワイトカラー層を観客に巻き込むには、従来のヤンキー観やアウトロー観に接続するためのクッションが必要だったと思うんですよね。だから、『ZERO』では大人や女子を配置していて、まさに「ゼロ」というか『クローズ』の世界観の入門になっていた。その「『クローズ』とは何か」というメタ解説的な要素は今回も踏襲されていたけれど、『EXPLODE』の場合はそれを構造ではなくてセリフや安っぽいトラウマエピソードで説明していて、僕は「そういうのが全部キャンセルされているのが”鈴蘭”なのに」と思った。
     もっというと、『ZERO』2作はそのまま「高橋ヒロシ」と「三池崇史」だった。つまり、「マイルドヤンキー」的世界観の代名詞である『クローズ』と、三池監督が撮ってきた日本のヤクザ映画が、そのまま滝谷源治と父親(岸谷五朗)の関係になっていた。そうやってその2つの中間をうまく立てて、学園の外側の要素を本当に最小限にして「鈴蘭入門」のドラマを作ることができていたんだけど、『EXPLODE』はドラマを構成しているのが鈴蘭の外側にいる人たちになってしまっていた。

    松谷 そこはやっぱりプロデューサーの山本又一朗【12】の考えなんだと思いますよ。脚本にクレジットされている「水島力也」は山本さんの変名ですが、もう還暦を迎えている人だから、「理由なく何かを目指す」ということが考えづらいのかもしれない。結果、今回も「父親との葛藤」みたいな動機付けをしてしまったのでしょう。

    宇野 その「理由なく何かを目指す」ことが気持ちいいっていうのが高橋ヒロシイズムなのに、そこを理解しないで描いてしまっていたんじゃないか。「なんでガキの喧嘩に夢中にならないといけないんだ」という藤原のセリフがあったけど、あれはまさに脚本家の叫びだと思うんですよ。原作に対して無理解な人間が、無理やり自分に言い聞かせるために饒舌に言い訳を重ねているみたいな印象を受けた。原案を山本又一朗が握っているとはいえ、豊田利晃【13】監督と向井康介【14】脚本なわけですよ。90年代サブカルの血を引いたゼロ年代中堅コンビがビッグタイトルに挑戦した結果、ベテラン三池崇史と若手の武藤将吾【15】のコンビの『ZERO』に負けてしまったというか。前2作からのマンネリを回避するためにいろんな策を講じていたのもわかるし、複雑なプロットをなんとかしようと頑張っていたとは思うんだけど。
     
     
    ■豊田利晃監督復活作?「内面」を捨てた面白さ
     
    松谷 豊田監督の話をすると、復帰後の3作が正直、悪い意味で「よく今の時代にこんなことできるな」というような作品ばかりでした。ユナボマー事件をヒントにした『モンスターズクラブ』(12)は主人公が自問自答してるだけだし、『I’M FLASH!』(12)も新興宗教の教祖がどんどん内閉的になる作品。そこに『EXPLODE』がきたから、考えようによっては、今回「復活」と捉えていいんじゃないかと思うんです。豊田監督は自分で脚本を書くし、『青い春』『空中庭園』以外はオリジナル作品。そんな彼が、演出だけでもここまでエンターテインメントなことができる、ということを証明したとも言えるわけです。もちろん、そこには若い頃の『ポルノスター』にあったようなゴツゴツした才気みたいなものは見られないですが。

    宇野 結局それって、豊田さんのような、ゼロ年代のインディーズ系、単館系の映画をつくってきた90年代サブカルに出自を持つ映画監督たちの、現代的な疎外感を男の子の自意識問題に仮託するアプローチの文法自体が古くなっているってことなんじゃないかな。

    松谷 でしょうね。中年監督の若者気分がいかにくだらないかってことなんですよ。でもそれは映画ムラでは温存されてしまう。映画マニアや評論家は映画しか見ないし、そういう自意識問題を抱えている中年ばかりだから。そう考えると今回の豊田監督の使い方っていうのは、うまい落とし所を見つけたと思えます。

    宇野 このくらいの世代の監督って2系統あると思うんですよね。ひとつは「山下敦弘マイナス才能」というか、男の子の自意識問題と童貞マインドをどう維持するかにしか興味がないような一群。 
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