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無印良品、ユニクロから考える
「ライフデザイン・プラットフォーム」の可能性
(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛
「これからの『カッコよさ』の話をしよう」第2弾)
「ライフデザイン・プラットフォーム」の可能性
(浅子佳英×門脇耕三×宇野常寛
「これからの『カッコよさ』の話をしよう」第2弾)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.2.21 号外
「ほぼ惑」では不定期で過去の好評記事を再配信中! 今回は昨年10月に配信した、建築家の門脇耕三さん、インテリアデザイナーの浅子佳英さん、そして宇野常寛を交えた鼎談シリーズ「これからのカッコよさの話をしよう」第2弾をお蔵出しします。 この回のテーマは、「無印良品」「ユニクロ」です!
今月PLANETSチャンネルに入会すると、前回記事(これからの「カッコよさ」の話をしよう ――ファッション、インテリア、プロダクト、そしてカルチャーの未来)も読むことができます!
なお、この「カッコよさ」鼎談シリーズの第3弾「住宅建築でめぐる東京の旅」は来月初旬に配信予定です。戦後の住宅建築の名作をまわりながら、「住まい」のデザインと機能について考えます。そちらもお楽しみに!
▼プロフィール
門脇耕三(かどわき・こうぞう)
1977年生。建築学者・明治大学専任講師。専門は建築構法、建築設計、設計方法論。効率的にデザインされた近代都市と近代建築が、人口減少期を迎えて変わりゆく姿を、建築思想の領域から考察。著書に『シェアをデザインする』〔共編著〕(学芸出版社 、2013年)ほか。
浅子佳英(あさこ・よしひで)
1972年生。インテリアデザイン、建築設計、ブックデザインを手がける。論文に『コム デ ギャルソンのインテリアデザイン』など。
◉構成:中野慧
ファストファッション、IKEAやニトリ、アップル製品など、ゼロ年代以降の私たちの生活に欠かせなくなった様々な「モノ」と「デザイン」について考えた前回の鼎談企画「これからの『カッコよさ』の話をしよう」。第2弾となる今回は、鼎談の収録前に、まず実際に門脇・浅子・宇野の3氏で、銀座の街にある様々なお店を廻ることにしました。
3氏がまず足を運んだのは、世界一巨大な規模を誇るユニクロ銀座店。
▲銀座の中央通沿いにある、ユニクロ店舗でも世界最大のグローバル旗艦店「ユニクロ 銀座店」。12階建てだそうです。
▲床から天井まで隙間なく服が並んでいます。
▲Tシャツフロア。フロア全体に多種多様なデザインのTシャツがひしめいていました。ぶらぶらと見ていたら、浅子さんが当日着ていたスヌーピーTシャツと似たようなデザインのものを発見。「このTシャツけっこう高かったのにw!」(浅子さん)
▲女性ものの丈長のスウェットシャツが気になるという門脇さん。このあと「XLサイズなら僕でもダボッと着れそう」とのことで、お買い上げになっていました。
ユニクロ銀座店の次に3人は、ユニクロ銀座店と渡り廊下でつながっているお隣のドーバーストリートマーケット(コム・デ・ギャルソンの川久保玲氏がトータルプロデュースするセレクトショップ)へと向かいました。
▲ドーバーストリートマーケット ギンザ。
渡り廊下を渡るとそこには、ユニクロとはまるで別世界が広がっていました。好対照だったのはお店のレイアウト。通路は広く取りつつも縦にぎっしりと服を並べるユニクロと違い、様々なアイテムがゆったりと店内に配置されていました。
ドーバーストリートマーケットを出た一行は、「無印良品 有楽町店」へ向かいました。
▲無印良品有楽町店。ここもかなりの大型店舗です。
▲無印良品の家。
無印らしいアースカラーの服が並ぶ店内を分け入っていくと、目に入ってきたのはスチールの外壁(「金属系サイディング」というものだそう)の、「家」でした。そう、最近、無印では「無印良品の家」を販売しているとのこと。コンパクトなサイズながら、吹き抜けと、ガラス張り(でも断熱性も高いそうです)による採光のよさもあって、見た目以上にゆったりとした住空間。「暮らしに合わせて間取りが変えられる」とのことです。(出典:「無印良品の家」ホームページ )
その後、一行はクロムハーツ、ミュウミュウ(MiuMiu)、Aesop(イソップ)、フライターグなどを回ってこの日の街歩きを終えました。
■ユニクロとコム・デ・ギャルソン、何が明暗を分けたのか?
宇野 まず簡単に前回のおさらいをすると、今の時代のファッションは、ノームコア(※ノーマル+ハードコアという意味の造語。スティーブ・ジョブズの「いつも黒のタートルニットにジーンズ」というスタイルに代表されるような、極めてシンプルなファッションのこと。最近のファストファッションの隆盛を受けたトレンドでもある)的なものが優位になっている。そしてその潮流は一部で「身体自体を鍛えるのが真のオシャレであり、自分の身体さえしっかり鍛えていれば着るものはなんでもいい」という五体満足主義的な思想に回収されつつある。それはファッションが本来持っていた「やせっぽちでも太っていても、工夫しだいでカッコよく、気持ちよくなれる」という、文化としての豊かさがやせ細ってしまっているということでもある。こういう現状に対する違和感は共有されていますよね。
そこに対して例えばデザイナーである浅子さんは、ノームコア的なものを批判して「新しいラグジュアリー」のような価値を提示していくことが必要なのではないかという立場でした。
また、鼎談のなかで見えてきたのは、ファッションだけでなく、インテリアや建築のような「デザイン」と言われる世界ではどこでも、90年代以降に似たようなことが起こっているのではないか、ということでした。
今日は第二弾ということで、ファストファッションからデザイナーズブランドまで、銀座のいろいろなお店を実際に回ってきたわけですが、みなさんは改めてどう感じましたか?
浅子 やっぱりユニクロが今強いのは、面白いデザインの服を揃えているわけではないけれど、カラーバリエーションやちょっとしたデザインの違いの製品を大量に揃えていて、その「多くのものから一つを選ぶ」という体験自体に楽しさがあるからなんだと思いましたね。
宇野 ショッピングにゲーム的な楽しさがあるということですよね。
浅子 そうです。銀座店は特に、12階建てなのにもかかわらず、フロアのレイアウトがほとんど同じだったりして、あの感じは僕自身はそんなに好きじゃないんだけど、実際に上から下まで全部見て回ると本当にゲーム空間にいるようで面白かったです。
門脇 ユニクロの店内のレイアウトは「とにかく下から上まで整然と服を並べる」という思想ですよね。対照的だったのはそのあとに行ったドーバーストリートマーケットで、店内に余白をたくさん取っていました。あれは「アート的に見せる」というテクニックなんだけど、物量としてはユニクロよりも全然少ないですよね。そうすると服の一点一点が高くならざるをえない。置いているモノはカッコいいんだけど、トータルで見るとどうしても元気がないように見えてしまった。
浅子 僕は立場的にコム・デ・ギャルソンを擁護するしかないんだけど、たしかに銀座店は少しゆったりしすぎているかもしれないですね。ただ、最初にできたロンドンのドーバーストリートマーケットはとてもエキサイティングな空間です。もともとオフィスか何かだった建物に、川久保玲やセットデザイナーなどが介入して百貨店にしてしまっている。たとえばエスカレーターでなく階段で登らないといけなかったりとか、フロアの使い方もわけのわからないことになっていて。
そもそもドーバーストリートマーケットの面白さって、コム・デ・ギャルソンというブランドが、自分たちの服を売るだけではなく様々なブランドの服を売ったり、アーティストの作品を展示するスペースをつくったり、ある種のプラットフォームとしてお店を構えたところにあると思うんですよ。
ただ銀座のお店はやっぱり、「ギンザコマツ」という百貨店の建て替えで用意された空間に出店しているから、そういう面白い化学反応が起こらなかったんだと思います。だからそこを責めるのはちょっと気の毒な感じがするんですよね。
門脇さんは店内のレイアウトのことを指摘されたけど、インテリアのデザイナーとして言うとやっぱり余白というか、そもそも白い壁が良くないと思う。確かに白い壁にするとニュートラルであるかのようにふるまいながらも簡単に綺麗に見せることができるんだけど、それは何も考えていないということの裏返しでもあるんですよね。
門脇 結局現代アートもそうだけど、白いところにポツーンと何かゴミが置いてあるだけでアートに見えたりするんですよ。それ以外の見せ方を開発できてないのはちょっと残念だった。そういう意味ではユニクロの見せ方のほうが面白かったですよね。
宇野 ユニクロって、ある時期まではフリースだったり、インナーや寝間着を買うお店というイメージで捉えられていましたよね。で、誰が着てもそこそこ似合うものを、豊富なカラーバリエーションで提供していたのがフリース時代だとすると、今は第2段階、いわばUT(=ユニクロのTシャツ)以降の時代に入っていると思うんですよ。
UTって色々な企業のロゴだったり、スヌーピーやディズニーなどのキャラクターイラストに、多種多様なカラーバリエーションを掛け合わせるという発想でつくられていますよね。あれってインターネット以降の感覚だと思っていて、要するに統一されたフォーマットに多様なコンテンツを流し込むことで無限にバリエーションを生成できるということだと思うんです。そういう思想が商品ラインナップだったり、レイアウトの方法とも結びついていて、UTという独特のジャンルを生んでいるんじゃないか、と。
門脇 フォーマットが決まっているからこそ多様な表現が生まれてくる、ということですよね。僕には商品そのものとしてあれが良いのかどうかピンと来ないところがあるけど、でもあれだけのバリエーションがあるなかで選ぶという体験はたしかに楽しかった。さっきもスウェットを買ったけれど、たぶんドーバーストリートマーケットに並んでても買わないんじゃないかな。たくさんのバリエーションが並んでいるなかで気に入ったものを見つけて、買ってしまう。そういう体験を含めて買っている気がしますね。
■「バブルの鬼子」としての無印良品
宇野 これは都市部に限った話かもしれないけど、ユニクロと無印良品ってもうインフラみたいになっているじゃないですか。「あ、この街って駅前にユニクロと無印あるんだ、便利だね」とみんな思ったりする。だからこの2つの企業って、日本の生活文化においては非常に強いと思うんだけど、でも今日見ていて改めて思ったのは、ユニクロはまだ無印を倒せていないということなんですよ。要するに今の無印良品はライフスタイルそのものを提案できているけど、ユニクロはまだそこまで行けていない。
たとえばユニクロの主力製品であるヒートテックひとつとっても、「冬のファッションで重ね着させない」ということを目標にしたもののはずです。厚着させないということは、つまり「こういう身体が美しい」とか「こういう屋内ライフスタイルが気持ちいい」という提案であるはずで、それを延長していくと僕たちの身体観やライフスタイルの変革へと結びついていくはず。でも、今のユニクロのラインナップからはまだ「新しいライフスタイルの提案」まで読み取ることはできない。アイテム1個1個の持っている快楽やゲーム性に留まっていて、総合的なビジョンがまだないんだなあ、と思ってしまいました。
一方で無印は、僕の考えでは言わばディフェンディング・チャンピオンだと思うんですよ。あそこに行くと衣食住全部ある――というか、今は家具だけでなく家まで売っているわけですからね。総合的なライフスタイルを提案できているわけです。たとえば僕はあの透明の衣装ケースも使っているし、食べ物にしても僕はMUJIカフェによく行くし、無印カレーも大好きなんですよ。
そもそも、無印良品のコンセプトって基本的に「アンチバブル」だったわけですよね。80年代の消費社会=バブル的な価値観に対して距離をとりつつ、かといってニューエイジや昔のヒッピーのように消費社会を全面的に批判するわけでもなく、要するに「消費社会に対してはこれぐらいの中距離で付き合いましょう」というライフスタイルを提案している。
浅子 いや、それもあるけれど、その前にみんな忘れているのは、僕らが子どもの頃の昭和の時代って、ともかくダサイもので溢れていたんですよ。布団がなぜか花柄だったり、家具も変な色に塗られていたり、ほとんどの家庭にはわけのわからないデザインのものがいっぱいあって、子ども心にあれがすごく嫌だったわけですよね。そこに対して無印は、「柄のない布団のほうがいい」というようなニュートラルでフラットでシンプルなデザインを提案し、支持を受けた結果、今やそれがスタンダードにまでなったと。
宇野 無印だけが、モノだけでなく「こういうライフスタイルがいい」という世界観を提示するに至っているんじゃないかなと思うんです。そしてそれは90年代以降の世界的な潮流ともマッチしていた。たとえば宮台真司さんがよく言っているけど、スローフードが好きな奴って、エアコンの効いた部屋でスターバックスのコーヒーを飲みながら環境問題の本を読んで悩んだふりをしている人なんですよ。要するにスローフードとはグローバル資本主義下におけるアッパーミドル向けの優秀な商品にすぎないわけです。でも、それでいいと思う。だから無印良品は強い。僕も大好きです。あの「素材を大切にした」シリーズのカレーやスープのレトルトパウチは家に常備している。あれは、「レトルトのスローフード」という矛盾するコンセプトが同居しているわけなんですが、そこが素晴らしい。
門脇 レトルト食品を排除するのではなく、レトルトをいかに美味しくて栄養バランスもいいものにしていくかという発想ですよね。ただ、無印の提案しているライフスタイルって、今ではちょっと古くなってしまっている気もするんです。「家族で郊外に住み、お父さんは電車で都心に通勤する」という昭和的モデルのバージョンアップで、まだその先に突き抜けられていないというか。
宇野 無印はやはりバブルの落とし子なので、どうしてもそうなってしまうところはありますよね。それに、当初のコンセプトである「アンチバブル」が実はすごく狭いイデオロギーなので、その価値観が押し付けがましいと感じる人も多いと思うんですよ。たとえばこれだけ無印大好きな僕でさえも、ほぼアースカラーオンリーの衣料や、家具類の「柔らかい木目」のゴリ押しはちょっとしんどく感じることがある。
浅子 正直、僕もそう思っていますよ。
浅子 正直、僕もそう思っていますよ。
門脇 無印良品ってすごく哲学がしっかりしていて、「文明は共通化して文化は差異化する」という未来予測を展開しています。つまりグローバル化のなかで「感じのよい暮らしをリーズナブルに」という方向性はぶれずに追求していきつつ、それだとほかの国や地方、あるいは「無印的価値観にドンピシャな世代」以外には展開できないから、地域性や時代性に紐付いた文化で彩っていくということになるんだと思いますが、それだとどうしても既成の価値観を無印的にセレクトすることになってしまうから、まったく新しいものを生み出すことが難しくなってしまう。
無印も本当は「新しいラグジュアリー」のようなものを追求すべきなんだけど、そもそものコンセプトが「オルタナティブなスタンダード」なので、クリエイションに根拠を与えるものが既にあるものにしかならない。無印のインパクトって確かに大きいし、それがいよいよ浸透してきた勢いも感じますが、次の時代を考えるとそこが弱いところだと思うんですよね。
浅子 無印のデザインって文化の多様化と言うにはちょっと一本調子すぎますよね。たとえばヤンキーが作るわけのわからないバイクのようなものって、文化の多様化そのものだと思うけれど、そういうデザインのものは絶対に製品ラインナップに入ってこない。だからすごく偽善的な感じがするわけです。これは無印だけでなく、アップルのデザインにも言えることだと思うんですけど。
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最終更新日:2024-11-13 07:00
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