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井上敏樹エッセイ『男と×××』第8回「男と運2」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.313 ☆
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井上敏樹エッセイ『男と×××』第8回「男と運2」 ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 vol.313 ☆

2015-04-28 07:00

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    井上敏樹エッセイ
    『男と×××』
    第8回「男と運2」
    ☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
    2015.4.28 vol.313

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    本日は平成仮面ライダーシリーズなどでおなじみ、脚本家・井上敏樹先生のエッセイ連載「男と×××」最新回をお届けします! 今回のテーマは前回に続き「男と運」。「タクシー運が悪い」とこぼす敏樹先生がこれまで遭遇してきた、あまりにも独創的すぎるタクシー運転手たちとは――?

    井上敏樹エッセイ連載『男と×××』これまでの連載一覧はこちらから。
     
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    ・関連動画(1)
    井上敏樹先生、そして超光戦士シャンゼリオン/仮面ライダー王蛇こと萩野崇さんが出演したPLANETSチャンネルのニコ生です!(2014年6月放送)

    ・関連動画(2)
    井上敏樹を語るニコ生も、かつて行なわれています……! 仮面ライダーカイザこと村上幸平さんも出演!(2014年2月放送)
     

    男 と 運 2
     
               井上敏樹
     
     
     運と言えばタクシー運が悪い。仕事柄、というわけではないが私はよくタクシーを利用する。概ね理由はふたつだ。まず、ほぼ毎日二日酔いなので楽をしたい。駅まで行って階段を登り改札を抜けて階段を降りるなんて想像するだけでうんざりする。まるで遠い旅である。その点、タクシーならば話が早い。電話をかけて乗るだけだ。
     
     また、私は電車であれバスであれ見知らない人々と同じ密室に閉じ込められるのが怖いのだ。突然、誰かが怪人に変身するかも分からない。
     
     そう言えば子供の頃、電車に乗っていて不思議な体験をした事がある。その時、私はシートの隅に腰掛けていたのだが車内の床をなにやら奇妙なものが近づいて来たのだ。そいつは向かいの席の下の暗がりからガサゴソと私の足元に這い寄って来た。見ると、見事な大きさの毛蟹である。怖い、と思った。別に毛蟹が、ではない。昔も今も寧ろ好きだ。ただ、毛蟹は毛蟹でも電車の床を私に向かって這い寄って来る毛蟹が怖いのだ。
     
     話はそれで終わらない。私が呆然としていると、正面に座っていた老婆が突然立ち上がり猛然と毛蟹に襲いかかった。そうして鷲掴みにした毛蟹を私の目の前に突きつけて「これあんたのかい?」と尋ねて来る。私は激しく首を振ると老婆はまた違う客に同じように尋ねる。結局蟹の持ち主は現れず老婆は毛蟹を手提げに納めて電車を下りた。きっと家で食べるのだ。私は電車の床を這う毛蟹が怖いし毛蟹を捕まえて煮て食べる老婆も怖い。だから私はタクシーに乗る。
     
     タクシー運が悪い、と言っても当然頻度の問題もある。タクシーに乗る回数が多ければ妙なものに当たる確率も高くなる。
     
     最近では真っ直ぐな運転手というのがいた。タクシーを呼び、車に乗って行き先を告げる。私の家から目的地に行くにはUターンをしなければならないのだが、車は真っ直ぐに走り続ける。
     
    「私はバックが出来ないのです」
     
     私が文句を言うとそういう答えだ。
     
    「バックが出来ない、とは?」
     
    「だからバックが出来ないのです」
     
     あり得ない話だ。大体バックが出来なくて免許が取れるはずもない。私がその旨を問うと、「もちろんです。私も以前はバックが出来ました。ですが先日バックで事故を起こして以来トウラマになっているのです」
     
     なるほど。などと納得している場合ではない。一瞬、お宅ではバックの出来ない運転手を雇っているのか、とタクシー会社に通報してやろうと思ったがやはり止めた。考えてみれば可哀相な奴だ。結局、車は途方もない遠回りをして私を目的地へと運び、私は愉快でない額の料金を払った。
     
     それからキャンディ屋とポン引きがいた。キャンディ屋には三回遭遇した。シートにいくつかの籠がセットされていて何種類かのキャンディが山盛りになっている。色鮮やかなキャンディを見ているとくらくらして来る。女子供なら喜ぶかもしれないが私は甘いものが苦手である。それが、どうぞどうぞと勧めて来る。いらない、と言ってもまあおひとつと執拗である。
     
     二回目はタクシーに乗った瞬間すぐにしまった、と思ったが運転手の方も私の事を覚えていて、「お客さん、二度目だね。まあ、キャンディをどうぞ」とうれしそうだ。三度目には寧ろ感動した。
     

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