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猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉
第2回
「(僕らのつくる)世界はこんなにもやさしく、うつくしい」
第2回
「(僕らのつくる)世界はこんなにもやさしく、うつくしい」
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.10 vol.447
今朝のメルマガは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる連載『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』の第2回です。「境界のない群蝶」を見ながら、チームラボの作品が「自然」をテーマに取り入れている理由や、現代の社会やアートシーンの中で、文脈に依らない作品を作ることの意味を、宇野常寛との対談の中で語ってもらいました。
▼プロフィール
猪子寿之(いのこ・としゆき)
1977年、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。
47万人が訪れた「チームラボ踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」などアート展を国内外で開催。他、大河ドラマ「花燃ゆ」のオープニング映像、「ミラノ万博2015」の日本館、ロンドン「Saatchi Gallery」、パリ「Maison & Objet 20th Anniversary」など。2016年はカリフォルニア「PACE」で大規模な展覧会を予定。
◎構成:稲葉ほたて
■ デジタルは境界を消失させていく
猪子 今回は、前回からの流れで「Flutter of Butterflies beyond Borders / 境界のない群蝶(以下、境界のない群蝶)」の話をしたいな。
▲境界のない群蝶
例えば、絵画は、一見して平面の表現に見えても、キャンバスや絵の具といった質量のある物質に媒介して絵が存在しているんだよね。そして、物質に媒介しているということは、その物質によって物理的に境界がハッキリしてしまうということなんだよ。
でも、デジタルというのは物質を媒介する必要がないから、境界の存在は必然じゃないんじゃないかなと思う。
宇野 「デジタルである」ということは、情報に還元されている状態だからね。
猪子 脳内では本来、考えや概念は境界があいまいだと思う。当たり前だけど、考えや概念は、いろんな他の考えと影響を受け合って存在している。それが、実世界に出現するために物質に媒介させる。物質に媒介させるから、作品に境界が生まれるんじゃないかと思っているんだよね。作品は、物質の媒介から解放されれば、本来の脳内の状態に近づいていき、作品同士の境界も曖昧になり、境界は失われていくんじゃないかと思っているんだよね。将来的にはそういう大空間も作ってみたいと思っているんだよ。
一応、そのイメージだけは作っていて、空間を移動すると滝が流れていたり花が咲いていたりして、目の前で起きたある現象がその下の事柄に影響を受けていて、さらにはフロアをまたいで蝶が生まれたのが作品の中に入り込んできて……みたいな感じ。
大空間が一つの作品ではなく、複数の作品があって作品ごとにコンセプトは違うのだけど、作品ごとの境界がもはや存在していない大空間をさまようようなアート展を将来やりたくて、それをひとまずコンセプチュアルにやってみたのが、この作品かな。あと、この蝶は販売してみたんだよね(笑)。
宇野 データとして、ということ?
猪子 そうそう。この群蝶は、単独でも空間を飛ぶけれど、「Flowers and People, Cannot be Controlled but Live Together – A Whole Year / 花と人、コントロールできないけれども、共に生きる – A Whole Year(以下、花と人)」(http://www.team-lab.net/all/art/flowerandpeople-wholeyear.html)という空間の作品の中も飛ぶし、「増殖する生命 II – A Whole Year per Hour, Dark(以下、増殖する生命Ⅱ)」(http://www.team-lab.net/all/art/everblossominglife2.html)というディスプレイの作品の中も飛ぶの。つまり他の作品の中に存在する作品だし、作品同士の境界がまるでないかのように境界を越えていくの。まあ、ディスプレイの中と外で解像度が違いすぎるから、ディスプレイの中でだけ蝶が高精細になるんだけどね。
ただ、「境界のない群蝶」と一緒に、「花と人」と、「増殖する生命Ⅱ」というコンセプトが違う2つの作品を置いちゃったことと、その3つの作品が一体化しすぎて、「境界のない群蝶」のコンセプトは伝わりにくかったんだよね。
だから、イスタンブールで今度やる個展では、ただの真っ黒な空間の中に「ボイド」という何も映っていない真っ黒のディスプレイの作品を置いて、空間を飛んでいる蝶がそのディスプレイの中にシームレスに入っていくという展示をしようと思ってるの。
宇野 確かに分かりやすいけれど、逆に分かりやすすぎて驚きがないんじゃないかな。
やっぱり分かりづらくなるかもしれないけれど、作品同士がもっと相互作用で変化していくことだとかが大事なんじゃないかなあ。
例えば、「境界のない群蝶」では花がいる場所に蝶が行くし、ここの空間の花がいる場所に溜まっていったりするじゃない。そして、蝶を触るとどんどん死んでいく。ここには、実際の自然とは異なるロジックで動いている「自然のようなもの」、猪子さんの作ったもうひとつの自然がシミュレーションされているよね。
ちなみに、この、猪子さんの「残酷なもの以外は美しくない」という世界観は、俺は好きだよ(笑)。
実のところ表現として人を惹きつけるのは、壁に映っている蝶がディスプレイの中に入っていくことの驚きなんかよりも、その辺にとまっている蝶を触ったら死んでしまって、しかもその蝶の生死が、まったく別の作品の花が咲くか、咲かないかを決定してしまうことの驚きの方なんじゃないかなと思う。
要するに、人間は世界に否応なくコミットしてしまって、意図とは関係なくどうしようもなく変えてしまうことの残酷さ=美しさを描きたいわけでしょう?
猪子 いや、最終的にはそういうのをやりたいんだけど……。
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