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デジタルゲームを変えた
「ソーシャルゲーム」市場の勃興
〜『釣り★スタ』『サンシャイン牧場』
『怪盗ロワイヤル』〜
(中川大地の現代ゲーム全史)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.11.11 vol.448

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今朝のメルマガは『中川大地の現代ゲーム全史』最新回です。オンラインゲームの影響を受けつつ2000年代後半に登場したSNSと、そこから派生したソーシャルゲームがゲームシーンに与えたインパクトを振り返ります。

「中川大地の現代ゲーム全史」(これまでの配信記事一覧はこちらから )
第10章 「ゲーム」を離れはじめたゲーム/コミュニケーション環境が変えたもの
2000年代後半:〈拡張現実の時代〉確立期(6)



■ SNSとケータイ文化が準備した新たなゲームプラットフォーム環境

 そして『ドラクエⅨ』が発売された2009年は、デジタルゲームの在り方そのものが揺るがされていく、巨大な変化が決定的になった年でもあった。インターネット接続されたパソコンや携帯電話のウェブブラウザ上のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で動作する、いわゆるソーシャルゲームの勃興である。
 04年にマーク・ザッカーバーグが立ち上げた「Facebook」や、同年に日本で登場した「GREE」「mixi」といったSNSの登場により、人々のインターネット利用形態は大きく様変わりしていた。本来世界中に開かれているはずのインターネットの大海の中に、あえて敷居を設けて会員制の閉域が築かれることで、それまでのテキストサイト制作やブログ等に比べ、突出したスキルを持たない個人の情報発信の情報発信へのハードルが大幅に引き下げられたのである。
 サービス利用のためのアカウントは実名登録、実生活での知人同士など近しい関係であることを原則として、招待や相互承認によって「友達」として繫がっていくSNSの特質は、ネット上でのコミュニケーションを現実とは切り離された〈仮想現実〉と捉えるのではなく、現実の人間関係そのものをソーシャルグラフとして転写しつつ、質的・量的に補完・拡張していくものと言えた。
 SNSの基本的な構成は、アカウントを取得したユーザー各位が、まずは個人情報や写真を載せて作成するプロフィールを登録し、交流のメインコンテンツとして更新されていく日記やミニブログ、同好の士や同郷・同校の出身者といった特定テーマごとにスレッド式の交流掲示板を立てられるコミュニティ機能など、ウェブブラウザ上で利用できるサービスにアクセスするといったものだ。このサービス形態は、ちょうどMMORPGやマルチプレイ型のブラウザゲームで、自らの分身となるプレイヤーキャラクター(PC)を登録・作成してサービスにログインし、ゲーム上で知り合った仲間同士が継続的に遊べるようにフレンド登録したり、「ギルド」や「クラン」と呼ばれるコミュニティでチャットやBBSをするような感覚に近い。言うなればSNS自体が、オンラインゲームが培ってきたPCのステータスシートやアバター作成などのノウハウを、ユーザー自身に置き換え、ゲームを楽しむためのオプションだったコミュニケーションサービスだけを抽出し、専用アプリケーションを使わずに利用できる形態へと最適化させたサービス形態だという規定の仕方もできるだろう。
 結果として、SNSないしソーシャルメディアは、ITリテラシーの高い層から裾野に向けて急速に普及し、ウェブ2.0時代の情報環境を最も端的に体現する社会インフラの域にまで到達してゆく。このプロセスは、ちょうど日本のデジタルゲーム市場において、見知らぬ他者と接するオンラインゲームよりも『モンハン』や『おいでよ どうぶつの森』(任天堂 2005年)のような現実空間での身近なレクリエーションの活性化に寄与するタイトルが大きくブレイクを遂げていったのと、同じ意味を持つ社会変化だったと言える。

 こうして敷居の下げられた個々人からの情報発信の集積と、それによって張り巡らされた半実名的なソーシャルグラフの構築により、ネット上には現実と地続きの新たな〝世間〟が立ち現れることになった。それは効果的に用いれば、例えば個人主催のニッチな趣味のイベントへの人集めや、マスメディアや広告資本によらない報道・PR、地域活動や社会運動の組織化など、前時代とは桁違いの口コミ集積力によって「動員の革命(津田大介)」を引き起こすことになるのと同時に、日常的な相互監視の感覚や「自分の情報発信を承認されたい」という欲望が強迫的に肥大する、ある意味ではストレスフルな情報環境が現出したとも言える。
 そのようにソーシャルメディアの普及が一段落し、一部では「SNS疲れ」といった現象までが取り沙汰され、mixi日記にコメントをつけたり、Facebookで「いいね!」ボタンを押したりといったコミュニケーションの魅力が登場から数年を経て倦み始めていたおり、ゲームに新たな役割が発生する。SNSをプラットフォームとするプラグインアプリケーションとして、各種サービスで会員がプレイすることのできるゲームの投入が始まったのだ。大きな契機としては、07年にFacebookがサードパーティ向けのアプリ開発用API「Facebook Platform」を公開したことで、テーブルゲームや簡易なパズルゲームなど、ブラウザ上で手慰みにプレイ可能なカジュアルなゲームアプリの開発が、ベンチャー系のITディベロッパーなどの間で本格化していったのである。

 一方、日本の場合の特殊状況として、すでに00年代初頭からNTTドコモのiモードなど、各携帯電話キャリアによる独自のインターネット利用サービスが過剰発達し、さらに各キャリア会社がユーザーからの料金徴収を代行するかたちで、携帯電話端末で利用可能なiアプリなどのJavaアプリケーションサービスが普及していた。こうしたプラットフォーム環境下で、コナミやカプコン、スクウェア・エニックスといった大手ソフトウェア・デベロッパーが名作タイトルの簡易版やスピンオフ作品などで参入していたのをはじめ、中小の独立系ベンダーが買い切り型のオリジナルタイトルを配信。家庭用ゲームに比べれば、ごくごく小さな市場規模ではありながら、ガラケーと呼ばれた日本市場向けのフィーチャーフォン端末の日進月歩の進歩に合わせ、00年代初頭から中盤にかけて、携帯電話ゲームの数々がそれなりの発展を遂げていたのである。
 代表的なタイトルを挙げれば、「100円RPG」として人気を博した『mystia』(ジー・モード 2002年)や、携帯電話離れしたシナリオ容量を誇った恋愛SLG『ケータイ少女』(ジー・モード 2005年)、口コミで話題を呼んだホラー系テキストアドベンチャー『歪みの国のアリス』(サンソフト 2006年)、「勇者が魔王と相打ちになって死した勇者が、神に与えられた5日間で世界の行く末を見守る」という、桝田省治らが手がけた作家主義的なマルチシナリオRPG『勇者死す。』(ジー・モード 2007年)など、小さな画面とテンキーでの操作系に最適化しつつ、最大限リッチな体験性を提供しようという方向での挑戦が続けられていた。
 言うなればこれは、携帯電話を「さらに小さなスタンドアローン型の携帯ゲーム機」として扱うアプローチであった。

 こうした携帯アプリゲームの模索に加えて、PC由来のSNSの方法論が導入されることで、大きな変化が訪れる。先行する大手SNSであるmixiでも携帯電話端末から利用できるモバイル版のサイトは提供されていたが、最初からケータイに特化し、アプリを要さずモバイルブラウザ上で動作するカジュアルなゲームを付加価値としたSNSが現れたのである。
 そのサービスこそ、06年にDeNAがキャリア非公認の「勝手サイト」の一種として立ち上げた「モバゲータウン(現:モバゲー)」であった。


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