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内外インディーズゲームの対照展開と
実況カルチャー
〜『マインクラフト』『青鬼』『Ib』〜
(中川大地の現代ゲーム全史)
【毎月第2水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.2.10 vol.516

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今朝のメルマガでは『中川大地の現代ゲーム全史』をお届けします。今回取り上げるのは、2010年代のインディーズゲーム勃興期。その隆盛を促した環境要因、そしてブームを大きく盛り上げた「ゲーム実況カルチャー」の内実を、ゲーム史の中に位置付けます。


▼執筆者プロフィール
中川大地(なかがわ・だいち)
1974年生。文筆家、編集者。PLANETS副編集長。アニメ・ゲーム関連のコンセプチュアルムックの制作を中心に、各種評論・ルポ・雑誌記事等を執筆。著書に『東京スカイツリー論』(光文社)。本メルマガにて『中川大地の現代ゲーム全史』を連載中。

第11章 デジタルゲームをめぐる地殻変動/汎遊戯的世界への芽吹き
2010年代前半:〈拡張現実の時代〉本格期(3)


■『マインクラフト』と海外インディーズゲームシーンの隆盛

 スマホとの差別化を宿命づけられた携帯型ゲーム機に顕著なように、おおむね日本国産の家庭用ゲームハードとソフトは、どうにかして独自のギミック主義的な付加価値によって完成度の高い一品物の作品を提供しようという発想に向かいがちであった。対してPCゲームの裾野が広い欧米圏では、市井のハッカーたちや中小のベンチャーディベロッパーたち汎用の開発ツールやノウハウを共有することで、FPSなどのジャンルが育まれ、あるいは既存のタイトルを改変するMODのようなカルチャーを隆盛させてきたことは、ここまでの章に述べてきたとおりだ。
 とりわけ2000年代中盤から「Unity」のような完成度の高いゲームエンジンや「Steam」などのダウンロード販売プラットフォームが普及したことで、大手パブリッシャーに依存しない制作・流通環境の民主化に拍車がかかる。これにより家庭用ゲームなどのパッケージングにはボリューム的、コンセプト的に乗りづらいタイプのインディーズゲームであっても充分ペイできる規模で配信可能になり、日本ではソーシャルゲームの時代になってようやく定着したサービス課金型のオンラインゲームだけでなく、小額買い切り型のスタンドアローンゲームが一定の市場を形成することができた。加えて、Xbox系のハードの普及率が高い欧米圏では、ウィンテル系のPC環境での成功作をシームレスに家庭用ハードに移植できるという強みもあったため、人気のブレイクしたタイトルがメジャー化するというサクセスコースも描きやすいという事情があった。
 こうした経路に支えられて、大作ゲームがCG映画ばりのゴージャスなグラフィックで構築されたFPSやオープンワールドものに収斂されていく一方で、アーティスティックな作風を目指した小品や実験作が開発・受容されていくインディーズゲームのシーンも強固に形成され、時にメジャーシーンを揺るがすインパクトをもたらすようになっていく。

 この動きの中から最大級のヒット作として登場してきたのが、Notch制作の『マインクラフト』であった。2009年からテストバージョンが登場した本作では、レトロチックな味わいのローポリゴンのスクウェアブロックを単位として、まるでレゴブロックを組み上げるように広大な3D描画の自然環境が自動生成される。この中に投げ出された主人公を主観視点で操作しながら、周囲の環境から木材や石炭など様々な資源を採掘。これらを素材として、ツルハシなどの様々な道具や家などの建造物などへと自由に創り変えながらサバイバルしていくという概要の、いわゆる「サンドボックス型」と括られるタイプの作品である。

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▲Official Minecraft Trailer

 これは大きくは、仮想構築された世界のほとんどの要素にアクセスできるというオープンワールド型ゲームの一類型とも言えるが、クエストの連続やボス敵の存在などでゆるくストーリーテリングの存在する『Grand Theft Auto(GTA)』や『The Elder Scrolls(TES)』といったシリーズよりもさらにプレイの拘束性が弱く、目的や手順を与えるストーリー自体が存在しない。あくまでも時間の経過による空腹や、夜になると暗闇から湧いて出てくるモンスターによってゲームオーバーに追い込まれるといった危機を避けての生存の継続のみが、通常プレイモードにあたる「サバイバルモード」における中心的なゲーム要件であり、それ以上の過ごし方は何をしても構わない。

 そのかわりにプレイヤーを没入させる仕掛けとして与えられているのが、膨大な種類の資源を様々に組み合わせることによって素材をクラフトし、”ものづくり”の世界を思うままに創り変えることのできる、フリークリエイティングツールとしての多様性と奥深さに他ならない。プレイヤーがニューゲームを開始すると、ちょうど『不思議なダンジョン』シリーズなどのローグライク型RPGのダンジョンのように、世界は変化に富んだバイオーム(生態圏)の様々な組み合わせとして生成されるため、思い通りにクラフトできるようになるためには、しばらくは地形に応じて身を守るための拠点を築きつつ、素材集めに専念しなければならない。
 こうした擬似的な〝自然〟に手を入れて荒れ地を開墾し、木から石、鉄や貴金属へと採掘と造成を進めていくさまは、さながら理想的な近代人のモデルたるロビンソン・クルーソーのような視座へをプレイヤーキャラクターに与え、人類の文明史を個人の体感レベルにディフォルメして辿り直すかのような体験性をもたらしたと言えるだろう。

 この仕様によってプレイ履歴は必然的に個性化されていき、仮想空間上にエディットされた構築物は、それ自体がプレイヤー自身の自己表現となりうる。そのため、インディーズゲームゆえの権利処理の寛容さも手伝って、しだいに動画サイトにアップされるプレイ実況動画などをチュートリアルとして日本国内にも長い期間をかけて徐々に浸透を果たし、『マイクラ』と「マイクラ実況」は2011〜12年あたりまでにはニコニコ動画などで一大人気動画ジャンルとして台頭していくことになる。
 このようなフリーエディット型のステージ構築の自由度を備え、ユーザーの創造性が発揮された先行タイトルとしては、例えばイギリスのメディアモレキュールが制作した横スクロールアクション『リトルビッグプラネット(LBP)』(SCE 2008年)が挙げられる。こちらのステージクリエイト機能の場合は、メルヘンチックでありながらもリアリスティックにオブジェクトの挙動を制御する物理演算エンジンや、無限に近いカスタマイズが可能なテクスチャの多様性を駆使することで、あたかもジャンルの異なる他のゲームを『LBP』世界のキャラクターたちが「ごっこ遊び」のように再現したり、オルゴールやリレー式計算機のような精密機械を組み上げたりといったことまでが可能だった。このように趣向を凝らした高度な〝職人技〟が、プレイ動画を通じてコアなゲームファンたちを驚嘆させた事例は、『マイクラ』以前にも存在していた。
 ただし、『マイクラ』の場合はステージエディットの仕組みがより単純で敷居が低く、ゲーム実況が大きく隆盛してきた流れとクロスして多くの実況主たちの実践意欲を喚起できた点で、いささかアーティスティックで高踏的なテイストをまとっていた『LBP』よりも、さらに大きな感染力を獲得することができたと言えるだろう。

 本来的には『マイクラ』は、いきなり目的提示のストーリーテリングもチュートリアルもなく主観視点のオープンワールドに投げ出されるという点で、日本では受けづらいとされてきた、紛うことなき「洋ゲー」チックな体裁の作品であることは間違いない。しかしながら、大作系FPSの高精細CGなどとは一線を画した記号的なルック&フィールは洋ゲーアレルギーを引き起こさずに済み、実況主たちが遊び方の手本を見せたことによって、日本のゲームファンたちは海外インディーズゲームという新たな鉱脈に目を向けることができるようになったのである。
 この鉱脈から発掘された注目を集めたその他の傾向の作品としては、PlayStationNetworkでダウンロード販売されたPS3用タイトル『風ノ旅ビト』(thatgamecompany 2012年)などが挙げられるだろう。本作は、同社がリリースしてきた『flOw』(2006年)や『Flowerly』(2009年)などに続く一種のメディアアート的な作風の小品で、一切の言語的な誘導のない静謐な世界の中、風使いの旅人を操ってゲーム開始当初から遠くに見えている山の頂上をひたすら目指して進んでいくという3Dアドベンチャーである。
 ワンアイディアを徹底的に突き詰めて余分な要素を削ぎ、キャラクターの足下で揺れる砂の質感や上昇気流に乗る浮遊感など、ミニマリスティックで繊細な表現によって情感を醸し出しだしていくテイストは、ちょうど2000年代初頭の『ICO』『ワンダの巨像』といった上田文人作品を彷彿とさせる。こうした禅や茶道に通ずるワビサビの効いた文芸性のごときは、FPSやオープンワールドRPG等の派手な暴力表現の印象が強い洋ゲーにはない、日本ゲームならではの魅力だとも思われがちであったが、こうした特質を海外クリエイターたちはすでに十二分に消化していたのである。
 いずれにしても、和洋のメジャーゲームにない、3Dゲームの黎明期を思わせる作家性の強いミニシアター的な作品が依然として創られ続けているシーンの存在は、ゲームならではのインタラクティブ表現の芸術性を信ずる古き良きゲームファンの心胆を、少なからず暖からしめるものであった。


■国内フリーゲームと実況カルチャーの伸長

 もちろん、個人や小規模ユニットによるPCでの自主制作ゲームの展開は、海外だけには留まらない。第9章にも述べたように、とりわけインターネットの普及期である2000年代以降、日本国内でも独自の蓄積が連綿と重ねられていた。00年代前半の時点では、コミックマーケットに代表される同人誌即売会の頒布経路から火が付いた「東方Project」や『ひぐらしのなく頃に』といった同人ゲームの文脈から二次的三次的なUGCが派生していく潮流が生まれたが、00年代後半に入ると、そのホットスポットは「RPGツクール」シリーズなどのツールで制作されたネット流通のフリーゲームへと移行していく。

 この動きを大きく触媒したのが、ニコニコ動画やYouTubeといった動画サイトであった。先駆となったケースが、「RPGツクール2003」制作のフリーAVG『ゆめにっき』(ききやま 2004年)のプレイ動画が、07年5月、サービス開始間もないニコニコ動画に投稿されたことである。


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