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山田玲司のヤングサンデー 第164号 2017/12/4

「運のいい人」

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もう何年も医者に行かなくてすんでいるくらい健康ではあったけれど、さすがにここ最近体調が悪い。


最大の原因は、CICADAの売り上げが伸びない事だ。

あれだけ凄い漫画なのにコミックスが売れず、担当も作画チームも頭を抱えている。

「あのガンダムもヤマトも人気が出たのは、放送が打ち切りになってからだ」みたいな事例はあるものの、毎月「渾身の力」で作っている漫画が2巻の販売初速が悪いというだけの理由で終わるのは、どうにも滅入る話だ。


おまけにUMA水族館のアニメ企画も止まっていて、動くに動けない。


愛情込めた2つの作品を置き去りにして「次の作品」を作るのか?

そんな事を考えていると、さすがに憂鬱にもなる。そしてヤンサンの放送日がやってくるのだ。


そんなこんなで、いつもの「ヨガ」をやる「精神的体力」が残ってないので、体調は悪化して、さらに「ヨガなんかできるか!」という悪循環。



そんなこんなで、子供の頃からの「喘息」が久しぶりに起きて、前回の放送は声が最悪になってしまっていたわけだ。


「愚痴らない」のは年上の義務だ、なんて言っているので、こんな話はしたくないのだけど、この話は「泣き言」で終わりじゃなくて「その先の話」があるのだ。


それは、なぜ僕が「運がいいのか?」という事についての話だ。


そう、こんな話をしながらも、やっぱり僕は、「恐ろしく運のいい男」なのだ。

それはなぜか?

今週は改めてそれがわかった。


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今描いている漫画「CICADA」は、漫画が規制されている近未来の話だ。


テーマは1つではないのだけれど、この「消された漫画文化」というテーマは、まさに今「消えようとしている雑誌と単行本の漫画文化」の状況に重なる。


必然的に「漫画とは何か?」という話にもなる。

つきつめれば、漫画とは「漫画家の魂」と「その時代にそれを受け取った人達の思い出」だ。


つまり漫画とは「今は亡き人々の精神(魂)」でもあるのだ。


それをテーマにしたCICADAを描くことは、過去の先輩漫画家の全ての「想い」を背負わなくてはいけないのだ。


売り上げなんかより「いい作品」にしなくては「多くの先代」に申し訳が立たないのだ。


そんなこんなで、のたうち回ること数日。久しぶりに胃が痛んできた。そりゃあそうだ。並大抵のプレッシャーではない。

この漫画にはすでに手塚先生を始め、池田理代子先生や横山光輝先生などのレジェンドが参加してくれているのだ。



そして「その瞬間」はやってきた。

ネームを描いていたら、すべてのキャラクターが、勝手に「自分の言葉」を話し始めたのだ。

作者の僕自身が驚くような、生々しいセリフに各キャラクターの「自然な行動」が重なる。


久しぶりに「何かが憑依した状態」だ。

これは、多くの作家も体験している「例のヤツ」だ。

思えば「ゼブラーマン」や「AGAPES」の時も、「アリエネ」時にも「こういう瞬間」が来た。


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どうにもスピってる話だけど、僕が感じたのだから、それは僕にとって「本当の事」なのだ。

そして、そういう「何者か」との共同作業は、作家にとって「最高の時間」なのだ。

何か「大いなるもの」が、僕の背後で、僕の体を使って「美」を生み出すのだ。

そのためにこんなきつい仕事をやっているのだ。


想像以上に「生命力の溢れたネーム」が生まれていく。


ふと仕事場の暗闇に「手塚治虫」の気配を感じた。