俺の棒銀と女王の穴熊〈1〉



【史上初? 将棋ラノベ】

 アライコウ『俺の棒銀と女王の穴熊』を読んでいます。

 しばらく前から書評を頼まれていたんだけれど、いただたPDFファイルで読むのはどうにもむずかしくて、のびのびになっていたのです。

 結局、自分でKindle版を買ってしまいました。電子書籍はさすがに読みやすい。iPhoneで読めばすらすら読めてしまう。すらすらすら。読み終わりました。感想を書くことにしましょう。

 さて、ほかに類例がないジャンル「将棋ラノベ」であるこの小説、実はニコニコブロマガで連載されています。こちら。


 ブロマガを使って小説を連載、それをまとめて電子書籍化というスタイルは、純粋にマネタイズという観点から見ても興味深いです。どのくらい利益が出ているのかはわかりませんが……。

 もちろん、小説は内容こそが重要。いったいどんな話なのか? ひとことで云うと、ストレートなライトノベルフォーマットで将棋をテーマにした作品ですね。

 物語は、主人公である春張来是とヒロインその一の碧山依恋がある学園に入学するところから始まります。

 かれらはそこで将棋の「女王(クイーン)」である美人の先輩に出逢い、将棋部に入って熱中していくことになるのです。



【具体的棋譜があるということ】

 この小説で扱われているのは、「アマチュアの趣味」としての将棋です。プロレベルの壮絶な魂の削り合いとしての将棋は、『3月のライオン』『ハチワンダイバー』でも描かれていますが、趣味としての将棋に目をつけた作品は少ないでしょう。

 ましてライトノベルとなるとちょっとほかに思いつきません。まずは目のつけどころは良し。それでは、中身はどうか? ひとことで云って、面白いです。

 ライトノベル的な要素は絵に描いたような鈍感系の主人公に、ツンデレ美少女のヒロイン、巨乳の先輩と、典型的な描写がなされているのですが、なんといっても将棋部分が素晴らしい。

 とにかくわかりやすく将棋の魅力を解説してくれています。

 この手のボードゲームを扱った作品でも、たとえば『ヒカルの碁』などは、囲碁のルールがわからなくても読めるよう工夫されています。

 逆に云うと、勝負の具体的な内容はことごとく省略されている。くわしいひとが見ればある程度のことはわかるのかもしれませんが、初心者が囲碁の世界に入るのに役立つ内容ではありません。

 『俺の棒銀と女王の穴熊』はそこのところをあえて踏み込んで描いています。作中にいくつもの棋譜が登場させ、勝負の流れを表現しているのです

 囲碁ではオリジナルの棋譜を作者自身で作ってしまった『入神』という漫画がありますが(傑作)、この小説ではプロの棋譜を流用しながら展開を描いているようです。

 ある意味、プロの勝負を小説形式で読んでいるようなものだと云えるでしょうか? 知識ゼロのぼくにはそこまではよくわからないのですが、読んでいておもしろいことはたしか。

 将棋がときにドラマティックな展開を生むことは実感できました。ひとつのミスが大逆転を生む――刃の上でダンスを踊るような、緊迫感ただよう世界なんですね。

 実はぼくはいままで「将棋の優勢劣勢は、シロウトの目で見て把握できるものなのか?」ということが疑問でした。

 もちろん、ある程度の棋力があればわかるのであろうということは理解できるのですが、それには相当の修練が必要なのでは?と考えていたのです。

 しかし、この小説を読んで、そうでもないのかな?と思い始めました。将棋には色々な陣形があって、それがどの程度有効に機能しているかということは、ある程度の棋力があれば判断できるのですね。

 もちろん、一手一手がもつほんとうに深い意味は、そう簡単にわかるものではないのでしょうが……。



【もっと将棋を知りたい!】

 ぼくもちょっと将棋を覚えてみたいということは以前から考えているのですが、35歳にもなってしまうと、なかなか手を出す気にはなれません。

 作中の主人公は実力的に対等のライバルや優しく教えてくれる先輩が身近にいて(しかもふたりとも巨乳の美少女)、しかも恋愛面での動機もあるという非常に恵まれた環境にいます。

 一方でぼくはまわりに将棋好きがいるわけでもないので、どうにもモチベーションが高まらないのです。わかったらわかったで奥が深くて楽しい世界なのだろうとは思うのですが――。

 じっさい、ぼくは名著『聖の青春』を初めとする将棋ノンフィクションの類はたくさん読んでいたりするのです。

 書店に並んでいるその手の本はほとんど読んだんじゃないかな? 『聖の青春』と『将棋の子』の二冊は特にオススメですので、ぜひ読んでください。素晴らしい内容です。

 この『俺の棒銀と女王の穴熊』では、「居飛車」とか「振り飛車」、「居玉」、「穴熊」、「棒銀」といった戦術についても少し語られていて、ぼくはいまさらながらに「なるほど」と思いました。

 将棋についてくわしいひとが読めば、「へえ、平明にわかりやすく書いてあるな」と感心するかもしれません。

 とにかくかなりオリジナルなアイディアの小説です。ご一読してみても損はないでしょう。巨乳のクイーンがいい感じです。