天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずというけれど、しかし現実には人間は平等なんかじゃないよね――と一万円札のおっさんは言った。
そのとおりだなーと京は思う。
人間は平等なんかじゃない。
可児那由多は、あたしよりも価値がある。
平坂読といえばベストセラーシリーズ『僕は友達が少ない』(通称「はがない」)で知られているライトノベル作家だが、先日、その平坂の最新作が出た。
『はがない』がわりと好きなぼくは「またまたまたまた」と思いつつ、読んでみた。
だが、ほんとうに凄い作品と出逢ったときは「やばい」しか言葉が出ず、「やばいやばいやばいやばい」と書いては消し去る作業をくり返すことになる。
読み進めるほどに幸福感がつのり、「これはすごいのでは……?」という思いが「すげえ!」に変わっていった。
「やばい」とか「すげえ」とか抽象的な言葉ばかり使って内容がない書評はろくなものではないが、ついついそういう表現をしてしまうくらい面白い。
べつだん、ぼくはライトノベルの栄枯盛衰自体はどうでもいいのだけれど、こういうものを読むと「ラノベ、まだまだいけるじゃん」と伊坂幸太郎作品のコピーみたいなことを思う。
あらゆる意味でライトノベルでしかありえない表現をまとめあげた特濃の一作なので、ラノベ初心者は内容のクレイジーさに付いていけない危険がある。
「お兄ちゃん起っきっき~」
そんな声が聞こえて目を開けると、俺の目の前に全裸のアリスが立っていた。
アリスというのは今年14歳になる俺の妹で、さらさらの金髪にルビーのような真紅の瞳が印象的な、文句のつけようのない美少女だ。
「ん……おはようアリス」
頭がぼんやりしたまま俺が挨拶をすると、アリスはくすっと笑って、
「眠そうだにゃーお兄ちゃん。そんなねぼすけなお兄ちゃんには――」
アリスの顔が俺に急接近してきて、そのまま――チュッ。
「……!」
アリスの柔らかい唇が俺の唇に押し当てられ、眠気が一瞬で吹き飛んだ。
「目が覚めっちんぐ? お兄ちゃん」
唇を離し、アリスは悪戯っぽく微笑む。その頬は少し赤い。
「今日の朝ご飯はアリスの手作りだりゃば。冷めないうちに早く来てにゃろ」
大成功を収めたシリーズものの次の作品を、「お兄ちゃん起っきっき~」で始める平坂先生のアグレッシヴさにはマジで尊敬を覚える。
繰り返すが、ぼく的には年間ベストを争う傑作なのだ。
色々あるけれど、ようするにこの小説、才能と実力を兼ね備えたリア充連中がキャッキャウフフしている描写がひたすら続くリア充小説なのだ。そこがいちばん凄くて面白い。
かれとかれのまわりに集まってくるライトノベル業界の残念な奴らがたまに仕事をしながらひたすら遊んでいるという、それだけといえばそれだけの内容である。
ライトノベルの主人公をライトノベル作家にするのも、有名無名の実在作品を取り上げて作中に散りばめるのも、過去に作例があり、特に新しくはないのだが、この衒いのないリア充感は確実に新境地をひらいている。
才能、金、地位、名誉、容姿、人格、夢、希望、諦め、平穏、友だち、恋人、妹。
誰かが一番欲しいものはいつも他人が持っていて、しかもそれを持っている本人にとっては大して価値がなかったりする。
一番欲しいものと持っているものが一致しているというのはすごく奇跡的なことで――悲劇も喜劇も、主に奇跡の非在ゆえに起きるのだ。
この世界(ものがたり)は、だいたい全部そんな感じにできている。
「リア充」対「非リア」といったわかりやすい対立軸がさりげなく、しかし明確に解体されている。
もはや
コメント
コメントを書く冴えない彼女の育てかたは古い世代な感じだけど、こっちとエロマンガ先生はオタクの捉え方が新しい