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リングアナに音響、場内実況……プロレス団体を縁の下から支える弥武芳郎氏の異色な経歴を振り返るインタビュー。『ファイプロ』制作から、いまはなきインディ伝説の聖地「西調布アリーナ」の秘話までたっぷりと!(聞き手/橋本宗洋)
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『ファイヤープロレスリング』とUWF、純須杜夫の死――
――弥武さんはインディ団体の音響やリングアナウンサーの仕事をフリーで請け負ってますけど、いまはどの団体をやられてるんですか?
弥武 HEAT-UPがメインで、ガッツワールド、666、ドラディション、佐野魂、フリーダムズ……。
――かなり多いですよね。
弥武 格闘技でもZSTやグラジエーターなどもやらせていただいてますけど、基本は音響の仕事が多いですね。じつはプロレス界に音響の仕事ができる人っていないんですよ。リングアナは各団体にいるもんですけど、プロレスの音響ってボクを含めて3人くらいで回してるのが現状なんです。
――3人!?
弥武 平日は興行が被らないんですけど、土日はそういうわけにはいかないじゃないですか。連絡を取り合って音響がいない団体の穴埋め作業をすることもありますね。
――いまのプロレス界になくてはならない存在というか。今日はその辺も含めてお聞きしたいんですが、弥武さんはもともとはゲーム業界にいらしたんですよね。
弥武 そうですね。1994年に『ファイヤープロレスリング』(以下『ファイプロ』)を作っていたヒューマンという会社にアルバイトとして入りまして。
――最近ひさしぶりに新作が出た伝説のプロレスゲームですね。
弥武 短期のアルバイト契約だったんですけど、アルバイトの中で自分だけプロレス知識があったことで残れることになって。自分が入ったのはスーパーファミコンで最後の『ファイプロ』を作った年ですね。
――フミ斎藤さんがシナリオを監修した『ファイプロ』が出た頃ですか? 純須杜夫が主人公の。
弥武 それの一本あとですね。その『ファイプロ』は前田日明さんのことが大好きだった須田(剛一)さんが作ったんですけど、須田さんが別の制作ラインに入るので、また別の人間が新しく『ファイプロ』を作るということで。
――製作者によってゲームの方向性も変わってきますよね。
弥武 須田さんは前田日明さんが大好きで志向的にはU系でしたね。そのあと自分と一緒に実名プロレスゲームを作った先輩は三沢(光晴)さんが好きだったんですよ。ボクは武藤さんが好きだったので、実名ゲームを作るときは「武藤が一番強くないとおかしい!」ってパラメーターをいじったりしましたね(笑)。
――どうしてもヒイキしちゃいますよね(笑)。弥武さんがプロレス好きになったきっかけも武藤さんなんですか?
弥武 自分はゲームが凄い好きで、『ファイプロ』からプロレスを知ったんですね。いまだったら肖像権の侵害ですけど(笑)、『ファイプロ』には実際のレスラーをもじったキャラクラーが出てたじゃないですか。
――「冴刃明」の前田日明とか、「ハリケーン力丸」の長州力とか(笑)。
弥武 個性豊かなキャラクターがたくさん出ていて、そこからプロレスを見るようになったんです。あれは91年、92年だから、新日本vsWAR、全日本はまだ四天王プロレスと呼ばれる前ですね。それで自分も「プロレスゲームを作りたい」と思うようになって。
――その夢が実現したわけですね。
弥武 ヒューマンに最初に入った頃の仕事は、水道橋にあったプロレスショップ『チャンピオン』でビデオをいろいろと借りてきて、技のシーンだけをダビングして。要は「こんなプロレス技がありますよ」という映像資料作りですね。
――なるほど。全盛期の『チャンピオン』ってプロレスから格闘技までいろんなビデオが大量にありましたし。
弥武 凄かったですよね。当時はいまみたいにYouTubeはないので、新しいビデオが出たら借りてきて……という作業を1年2年のあいだずっとやっていて。そのあとにプレステで3Dの『ファイプロ』が出たんですけど、あんまり評判よくなくて。『ファイヤープロレスリング アイアンスラム』で検索すれば画像が出てきますけど、ちょっと悲しくなる出来栄えで(笑)。
――『ファイプロ』といえば、2Dのイメージが強いですし。
弥武 その『アイアンスラム』に自分は直接関わってないんですけど、社内的にはこれからのゲームは2Dじゃなくて3Dで作っていかないとダメだろうという流れだったんです。それは時代的な問題ですよね。それで全日本プロレスの実名ゲームを3Dで作ることになってできたのが、プレステの『全日本プロレス~王者の魂~』なんです。
――脱2Dの流れからできたのが全日本実名ゲーム。
『全日本プロレス~王者の魂~』
弥武 馬場さんの実況を収録したり、モーションキャプチャーを撮るためにスティーブ・ウイリアムスやゲーリー・オブライトに来てもらったり。自分の仕事は、実際の試合中の実況・解説をパソコンに打ってフローチャートにすることがメインで。解説は馬場さんなので、実況は若林健治さんが適任だったんですけど、若林さんに頼むと日本テレビも絡んできて、そうなると出演料が高くて払えないと。かといって当時はプロレス実況のできるフリーアナウンサーもいなかったんですね。
――当時はプロレスといえば地上波で、いまのようにフリーアナウンサーのプロレス実況仕事もそんなになかったですよね。
弥武 東京アナウンス学園という声優学校にお願いして、期待されてるという生徒さんにアナウンサー役をやってもらいましたね。ところがこのゲームが発売される3ヵ月前に馬場さんが亡くなってしまったんですよ。
――期せずして馬場さんの追悼作品になったんですねぇ。そのヒューマンは急に倒産しちゃいますよね。
弥武 とんでもない負債を抱えて倒産しちゃうんですね。ゲーム事業は儲かってたんですけど、学校をやったり、ゲームセンターの筐体を作ってたりしてて、そっちの方面で赤字を抱えてしまって。全日本の次は新日本の実名ゲームを作ろうという話もあったんですけど……。
――『ファイプロ』は別の会社から出ることになりますね。
弥武 スパイクですね。自分たちはそのスパイクという会社に引き取られまして。そのスパイクはサミーの子会社だったんですよ。で、『コロシアム2000』のヒクソンvs船木誠勝ってサミーがメインスポンサーだったじゃないですか。『コロシアム2000』に出る選手の権利を使えるから「プロレスゲームはあとで作っていいから、まずはヒクソンvs船木のゲームを作れ」と(笑)。
――ヒクソンvs船木のゲーム!(笑)。
弥武 総合格闘技のゲームですね。ヒクソンvs船木の次はヒクソンvs長州もやるから、そのゲームも作れと(笑)。
――ああ、ヒクソンvs長州の噂はありましたね。
弥武 セミファイナルは鈴木みのるvs佐々木健介、パンクラスの謙吾と、当時新日本だったKENSO選手のラクビー対決を考えてたみたいですけど。結局長州vsヒクソンは幻に終わって、権利自体も実際はアヤフヤだったからゲームの計画もなくなったんです。でも、パンクラスの選手はサミー繋がりで使えるということで、『キング・オブ・コロシアム〜新日×全日×パンクラス〜』の実名ゲームを作ることになったんですよ。
――あの不思議な組み合わせはそんな事情があったんですね。
大人の事情で意外な組み合わせになった『キング・オブ・コロシアム〜新日×全日×パンクラス〜』
弥武 これにはどこの団体にも所属していない田村(潔司)さんもなぜか入ってるんですが、それはボクがU-FILE CAMP(以下U-FILE)に通ってたんで田村さんに話をしてみようと(笑)。
――だから突然田村潔司(笑)。
弥武 この『キング・オブ・コロシアム』はもうひとつディスクがあって、そっちはNOAHとZERO-ONEなんですよ。ホントは1枚のディスクにできたんですけど、全日本の馬場元子さんから「全日本とNOAHを一緒にしないでくれ」という条件が……。
――そんな政治的事情が!? ゲームの中でも相まみえることは許さん!と(笑)。
大人の事情で別ディスクになった『キング・オブ・コロシアム〜ノア×ゼロワン〜』
弥武 なので「これだけの選手が入ってるので1枚のディスクには収まりませんでした!」という煽りにして。でも、新日本×全日本×パンクラスのディスクに比べて、NOAH×ZERO-ONEのディスクは売りが弱いという話になって。どういうルートで話がついたのかはわからないですが、小川直也と藤田和之、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラとマリオ・スペーヒーが使えると。
弥武 なので「これだけの選手が入ってるので1枚のディスクには収まりませんでした!」という煽りにして。でも、新日本×全日本×パンクラスのディスクに比べて、NOAH×ZERO-ONEのディスクは売りが弱いという話になって。どういうルートで話がついたのかはわからないですが、小川直也と藤田和之、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラとマリオ・スペーヒーが使えると。
――えーっと、それは某大手芸能事務所案件ですね、ズバリ(笑)。
弥武 生々しい話なんですけど、一人500万円で契約を結んだという(笑)。
――一人500万円!!(笑)。
弥武 マリオ・スペーヒーをゲームで使えるといってもオリジナル技はないし(笑)。三沢vs橋本、三沢vs小川直也がゲームの中でできるようになったんですけどね。
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