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春日太一の木曜邦画劇場 第591回「情に寄り過ぎない男女の関係を長谷川公之の脚本がタイトに見せる」『孤独の賭け』
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
前回まで「陸軍中野学校」シリーズを続けて取り上げる中で、改めて気づいたのは脚本家・長谷川公之によるプロットの見事さだ。その緻密さにより、スパイたちの諜報戦に緊迫感をもたらしていた。 長谷川は警察官出身という珍しい経歴の持ち主で、それを活かして「警視庁物語」などの刑事ドラマを得意としてきた。その...
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春日太一の木曜邦画劇場 第590回「スパイは誰だ? 伝達網はどこだ? シリーズ屈指の極秘諜報戦!」『陸軍中野学校 開
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
今回は『陸軍中野学校 開戦前夜』を取り上げる。前回の『雲一号指令』と同じく、市川雷蔵の演じる諜報員・椎名次郎の活躍を描いたシリーズの第五作だ。 時は一九四一年の十一月。タイトルの通り、日米の開戦を目前にした時期である。 椎名が香港で得た情報により、対米交渉の期限を定めた御前会議の内容が連合国側...
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春日太一の木曜邦画劇場 第589回「『時代劇メイク』のない市川雷蔵を見事に活かす現代劇の役柄がある!」『陸軍中野学校
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
市川雷蔵と仕事をしたスタッフや俳優に取材すると、ほぼ必ず出てくる話がある。それは、時代劇のメイクをした際は凜々しく美しい一方で、普段のノーメイクの時は全くの地味な見た目になるというエピソードである。 雷蔵が凄いのは、だからといって現代劇を避けなかったことだ。むしろその特性を存分に活かして、時代...
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春日太一の木曜邦画劇場 第588回「名優たちによる魅力的な登場人物がご都合主義的物語をカバーしていた」『ある殺し屋の
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
今回は『ある殺し屋の鍵』を取り上げる。 市川雷蔵が凄腕の殺し屋を演じたシリーズの二作目だが、前作の主人公が表で小料理屋を営む塩沢で、本作は日本舞踊の師匠の新田だったりと、両作に直接の繋がりはない。 今度の新田の標的は、脱税を繰り返す悪徳金融業者の朝倉(内田朝雄)だ。新田はなんなく役目を果たすが...
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春日太一の木曜邦画劇場 第587回「バラエティや『悪役』だけではない中尾彬は卑小な男を演じても抜群だ」『内海の輪』
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週刊文春デジタル 7ヶ月前
中尾彬といえば、晩年はバラエティ番組への出演が目立っていたが、俳優として多くの方が印象を抱くのは、やはり「悪役」だろう。 貫禄たっぷりの顔とシルエット、野太い声、ギラついた眼差し――全てにおいて押し出しの強さを感じさせ、多くのテレビドラマや時代劇などで主人公たちの前に立ちはだかってきた。ただ、彼...
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春日太一の木曜邦画劇場 第586回「映画美術の第一人者・井川徳道。風情を創出する匠の技に敬服する」『緋牡丹博徒 お竜
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週刊文春デジタル 10ヶ月前
東映京都撮影所を中心に長年にわたって活躍してきた、映画美術の第一人者・井川徳道が亡くなった。 井川は多くの時代劇やヤクザ映画で見事なセットを設計してきた。中村錦之助が主演した「一心太助」シリーズの魚河岸、『十三人の刺客』の要塞化した宿場町、『忍者狩り』のピラミッドを意識したという霊廟、『伊賀忍...
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春日太一の木曜邦画劇場 第585回「銀座本社建設記念の本作は東映時代劇全盛期の象徴だ!」『海賊八幡船(ばはんせん)』
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週刊文春デジタル 10ヶ月前
東映が銀座の本社を移転することになった。跡地は複合的な商業施設になるらしい。 取材や試写で何度もうかがったことがあるのだが、一九六〇年に建てられた本社ビルには、各部屋や試写室はもちろん、廊下や壁や天井や階段、全てが高度経済成長期からそのまま経年した風情がある。昨今の無機質な再開発ビルとは明らか...
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《祝・大宅賞》春日太一「鬼・橋本忍との12年」【特別寄稿】
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週刊文春デジタル 10ヶ月前
五月十六日、大宅壮一ノンフィクション賞に『鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折』が選ばれた。取材・執筆に十二年余りを捧げた筆者の春日太一氏が、『羅生門』『七人の侍』『砂の器』と幾つもの大作を生み出した橋本忍(二〇一八年没、享年百)とどう対峙したのかを綴った。
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春日太一の木曜邦画劇場 第584回「驚愕の画を映し唐突に終幕へ……。おかげでその衝撃が残り続けている」『マタンゴ』
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週刊文春デジタル 10ヶ月前
昨今の映画は洋の東西を問わず、ラストシーンのキレが悪い作品が多い気がする。 クライマックスが過ぎてしばらくしてもエピローグ的なシーンがダラダラと続くため、盛り上がった気持ちが冷め、最終的には「早く終われよ」と作品全体の印象も悪くなる。 その点、旧作は良い。クライマックスを過ぎたら早々に、印象的...
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春日太一の木曜邦画劇場 第583回「“ありえない”主人公の名前は現実となりパロディを追い抜いた!」『極道社長』
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週刊文春デジタル 10ヶ月前
今回は映画『極道社長』を取り上げる。 梅宮辰夫の演じる金融業者の主人公とチンピラ二人組(室田日出男・川谷拓三)が、さまざまな手立てで大金を儲けようと企むコメディだ。
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春日太一の木曜邦画劇場 第582回「『戦争美化』と捉えられた本作は、戦争の恐ろしさを冷徹に伝えていた」『FUTURE WAR 1
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週刊文春デジタル 10ヶ月前
今回はアニメーション映画『FUTURE WAR 198X年』を取り上げる。 東西冷戦が最後の激化を見せていた一九八二年に製作された、近未来戦争映画だ。 その内容が「戦争美化」と捉えられたために左派系団体などから猛烈な抗議を受け、ボイコット運動が巻き起こったことで知られている。そのため、現在でも本作はセンセーシ...
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春日太一の木曜邦画劇場 第581回「香港クンフー映画に便乗しても、演出、アクションはそれを上回る!」『激突!殺人拳』
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週刊文春デジタル 11ヶ月前
今回は『激突!殺人拳』を取り上げる。 一九七〇年代前半、ブルース・リーが巻き起こした香港のクンフー映画の大ブームに、東映が便乗して生み出した「カラテ映画」の企画である。だからといって、いい加減な作品では全くない。むしろ、作品としての見応えは一連の香港映画はどれ一つとして及ばないものがあると思え...
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春日太一の木曜邦画劇場 第580回「見直して気づいた名作オマージュ。時代劇への興味の原点かもしれない」『キン肉マン
コメ0
週刊文春デジタル 11ヶ月前
ゆでたまご原作のマンガ『キン肉マン』は「週刊少年ジャンプ」で連載され、テレビアニメにもなった。 筆者はその直撃世代で、超人・キン肉マンが強敵たちと繰り広げる奇想天外なプロレス形式の激闘に胸を躍らせたものだ。『キン肉マン』は二〇一一年にウェブサイトで続編が連載され、そして今年はそのアニメ化も決定...
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春日太一の木曜邦画劇場 第579回「寺田農の、その“したり声”は傲慢で知的な悪役ムスカの生命だ」 『天空の城ラピュタ』
コメ0
週刊文春デジタル 11ヶ月前
寺田農(みのり)が亡くなった。 教養と知性と狂気とを内包した独特の眼差しと、なんともいえない太々しい雰囲気が、この名優の若手時代から晩年まで一貫した魅力だった。そのため、チンピラ、殺し屋、軍師、権力者、粋人、腹の底の見えない野心家――幅広い役で凄みを見せつけている。 また、声の仕事も素晴らしく、...
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春日太一の木曜邦画劇場 第578回「万博に沸く大阪で葬儀博覧会 開催を進めるというブラックコメディ」『とむらい師たち
コメ0
週刊文春デジタル 12ヶ月前
今回は『とむらい師たち』を取り上げる。前回と同じく、その座組を見るだけで期待感が上がる一本だ。 なにせ、主演・勝新太郎―監督・三隅研次という『座頭市物語』を手掛けた二人に加え、原作が野坂昭如、脚本が藤本義一。アクの塊と言っていい面々が顔を揃えているのだ。 物語の設定も、この面々にふさわしい濃厚な...