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第296号 2018.12.18発行

「小林よしのりライジング」
『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』の漫画家・小林よしのりが、Webマガジンを通して新たな表現に挑戦します。
毎週、気になった時事問題を取り上げる「ゴーマニズム宣言」、『おぼっちゃまくん』の一場面にセリフを入れて一コマ漫画を完成してもらう読者参加の爆笑企画「しゃべらせてクリ!」、著名なる言論人の方々が出版なさった、きちんとした書籍を読みましょう!「御意見拝聴・よいしょでいこう!」、読者との「Q&Aコーナー」、作家・泉美木蘭さんが現代社会を鋭く分析「トンデモ見聞録」や小説「わたくしのひとたち」、漫画家キャリア30年以上で描いてきた膨大な作品群を一作品ごと紹介する「よしりん漫画宝庫」等々、盛り沢山でお送りします。(毎週火曜日発行)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…世界有数の通信機器メーカーである中国・ファーウェイの副会長・孟晩舟をカナダの捜査当局が逮捕、そしてそれに対する報復として、中国がカナダ人の元外交官を拘束…米中貿易戦争はエスカレートし長期化が懸念されている。この問題の背景にあるのは、中国の「全球化」である。中国の全球化はアメリカのグローバリズムとは根本的に異なり、「資本主義」の概念を根こそぎ変えてしまいかねないものなのだ!
※泉美木蘭の小説「わたくしのひとたち」…連載中の幻冬舎plusで「SNSにはまっていった私のイタい体験記」という記事を配信したところ、読んでくれた人が、記事を紹介しつつ「閲覧注意。精神にダメージを負う場合があります。私は負いました」とコメントを書いていて爆笑してしまった。今回はその体験記のスピンオフとして『わたくしのひとたち』を復活!
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」!映画『ボヘミアン・ラプソディ』は見た?初対面の人を漫画家としての観察眼で見ていたりする?山本太郎参議院議員をどう評価している?最近流行りのどろどろしたそば湯は好き?子どもがエロ本を隠しているのを見つけたら、親はどう対処すべき?安倍シンパの自衛官はどうしたら目が覚める?コタツの誘惑に抗えない!どうしたら良い?…等々、よしりんの回答や如何に!?


【今週の目次】
1. ゴーマニズム宣言・第305回「中国、国家資本主義の全球化」
2. しゃべらせてクリ!・第253回「歳末募金をスルーできましゅか~!?の巻〈後編〉」
3. 泉美木蘭の小説・わたくしのひとたち「怖い怖いミクシィのお話 その1」
4. Q&Aコーナー
5. 新刊案内&メディア情報(連載、インタビューなど)
6. 編集後記




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第305回「中国、国家資本主義の全球化」

 12月1日、世界有数の通信機器メーカーである中国・ファーウェイの次期トップと目される孟晩舟副会長が、カナダの捜査当局に逮捕された。
 この逮捕はアメリカの強い要請によって行われたもので、アメリカは以前から、中国人民解放軍とのつながりが指摘されるファーウェイを強く警戒し、ファーウェイ製品が広く普及するとサイバー攻撃などに利用され、国家機密が危険にさらされかねないと主張していた。
 孟副会長が逮捕されたまさにその日、アルゼンチンでは米中首脳会談が行われ、トランプ大統領と習近平国家主席が1年ぶりに会い、貿易戦争の一時休戦を決めていた。
 完全に顔に泥を塗られた形となった中国は、報復にカナダ人の元外交官を拘束。報復合戦は泥沼化する可能性が高く、米中貿易戦争のエスカレート、長期化が懸念されている。

 日本では未だに右派(産経新聞)から左派(朝日新聞)まで、世界は「グローバリズム」に向かうのが歴史の必然で、全世界が国境をなくしてひとつの市場、ひとつの世界になり、「地球市民」みたいなものができると夢見ている馬鹿ばかりだが、現実に世界で起きていることは、国家エゴと国家エゴの熾烈な戦いである。
 そもそもグローバリズムの正体は、アメリカが自国に都合のいい新自由主義(弱肉強食・自由貿易)の経済ルールを、世界中に押しつけようというものでしかなかった。
 貿易は、自国に有利なルールの取り合いである。ルールの設定の仕方によっては大負けし、国内産業が壊滅してしまうこともある。
 アメリカはグローバリズムによって金融業では圧倒的に勝っていた。
 ところが、そのグローバリズムのために日本の自動車や中国の安い製品が入ってきて、アメリカ国内の製造業が没落してしまった。
 そこでアメリカはTPPを利用して、アメリカに有利な輸出入のルールを各国に押しつけようとしたが、これもなかなかうまくいかず、頓挫し始めた。
 そこへトランプが保護主義的政策を掲げて登場した。大統領選の対抗馬だったサンダースも反グローバリズムであり、グローバリズムによって産業が没落し、移民に職を奪われるとなると、保護主義が支持されるのは自然な流れだったのだ。

 ところが、アメリカのグローバリズムの挫折と入れ替わるように、中国版グローバリズムである「全球化」がものすごい勢いで台頭してきた。
 それは、アメリカでさえこのままでは飲み込まれかねないという危機感を抱かせるほどであり、そのためにアメリカは、ファーウェイの副会長逮捕という強引な手段にも出たのだろう。
 これから世界の脅威になるかもしれないのは、中国の「全球化」だ。
 アメリカの「グローバリズム」に対抗して中国が「全球化」と言い出した時は、例によって単に用語だけ中国語訳して、あとはまるまる真似っこしているだけかと思ったのだが、そんな甘いものではなかった。
 中国の全球化はアメリカのグローバリズムとは根本的に異なり、「資本主義」の概念を根こそぎ変えてしまいかねないものだったのだ。

 日本やアメリカなど資本主義国の経済は、民間が自主的に活動する仕組みになっている。
 ところが、中国ではあらゆるシステムを国家が主導する。
 アメリカの4大ネット企業 「GAFA」(Google、Apple、Facebook、Amazon)は今後、世界をも支配するかもしれないと言われている。
(参照:小林よしのりライジングVol.278 泉美木蘭のトンデモ見聞録・第90回「米国ネット企業“GAFA”への警戒心」
 ところが、中国にはそのGAFAでさえ自国内に入れなかった。中国政府が許可しなかったからである。
 中国はアメリカのネット企業をシャットアウトし、その間にバイドゥ、アリババ、テンセントといったGAFAのビジネスモデルを丸パクリしたネット企業を作り、中国14億人の市場で成長させた。
 中国のネット広告のシェアは中国企業が大半を占め、Google Chinaのシェアはわずか3.3%にとどまるという。
 そして、中国ネット企業はアメリカにも対抗しうるまでに育て上げられ、どんどん海外へと進出して行った。これが中国の推進する「保護主義」からの「全球化」なのだ。
 ファーウェイも同じように国家戦略として保護され、育てられ、海外に進出した。そしてついに今年、スマホの出荷台数でアップルを抜き、世界第2位に躍り出たのである。