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■久瀬太一/7月24日/24時
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■久瀬太一/7月24日/24時

2014-07-25 00:00
  • 31
久瀬視点
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 発車のベルが聞こえた。その音はずいぶん遠くから聞こえたような気がした。
 低いエンジン音と共に、バスが走り出す。
「水曜日の噂は、クリスマスの謎に繋がっている」
 ときぐるみは言った。
「クリスマス?」
 今はまた7月だ。
「そう。クリスマス。水曜日のクリスマスだ」
 彼はその不気味な顔で、じっとこちらをみる。
「水曜日のクリスマスには100の謎がある。ひとつ目の謎はもちろん、なぜサンタは遅れたのか、だ」
「100もあっちゃ困る。締め切りは目の前らしいぜ」
「大丈夫だよ。君が思っているよりは余裕がある」
「サンタが遅れたってのは?」
「そのまんまだよ。君もよく知っている彼さ。みんな大好きな彼が遅刻したんだ」
 わけがわからない。
 窓の外から、繰り返しオレンジ色の光が射した。断続的に、カウントダウンのように。
 どうやらトンネルの中に入ったようだ。ずいぶん長いトンネルだった。この辺りに、トンネルなんてあっただろうか?
「このバスはどこに行くんだよ?」
「それはオレたちが決めることじゃない。すべてソル次第だ」
「ソル?」
「ソルだけは裏切るな。彼らはきっと、君に味方する」
「よくわからないな。このバスは、バッドエンドに向かってるんじゃなかったのか?」
「今の路線ならそうなる。でもソルだけが、それを変えられる」
 着ぐるみが窓の外を指した。
「ほら、みてみな。目の前のバッドエンドが始まる」
 トンネルの出口がみえた。
 まるで、新しい世界に放り出されたように、みえる世界が変わった。

       ※

 まず窓の外にみえたのは、大型の電器店だった。
 バスはその前を通過する。
 続いて、奇妙な丸い物体がみえた。

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 さらにその先には、みっつの音叉が重なる、見覚えのある楽器メーカーのロゴがショウアップされている。その光が交差点を照らす。
 道路の向こうには、巨大な、だから平べったくみえる建造物の影があった。
 がらんとした交差点だ。きっと、普段なら。
 けれど今は違った。その交差点の真ん中に、目を離せないものがあった。
 軽自動車に、トラックがぶつかっている。見覚えのある緑色の軽だ。それは粘土細工をテーブルから落としたように、無残にひしゃげている。その隣を平然と、バスは通り過ぎていく。
 すれ違うとき、ひび割れたフロントガラスから車内がみえた。
 ルームミラーの下で、不細工な猫を模したキャラクターが紐でつられて揺れている。
 運転席ではショートカットの女性が――それは間違いなく宮野さんが、血を流して突っ伏している。
 隣ではオレが、スマートフォンに何か叫んでいる。
 ――なんなんだよ。
 オレはここにいる。目の前にもオレがいる。一瞬、オレは事故車の中のオレと目が合ったような気がした。
 ――なんなんだよ、一体。
 バスは一定の速度で走る。
 血を流した宮野さんが、事故車と一緒に後方へと流れていく。

【BAD FLAG-01 交通事故】

       ※

「どうだい? 嫌な未来だろ?」
 と、隣のきぐるみが言った。
 その声で、夢から覚めたような気がした。
「なんだったんだよ、今のは」
「ほんの目の前の出来事だ」
「宮野さんの車が事故を起こすってのか? いつ?」
「オレは知らない。はっきりとしたことはわからない。知識なんかほとんどないんだ。なにせまだ、少年なもんでね」
 オレは顔をしかめる。
 ――未来がみえた?
 馬鹿げている。
 だが、確かに目の前にオレがいた。見間違えだとは思えなかった。
 窓の外に視線を向ける。バスはいつの間にか、再びトンネルに入っていた。オレンジ色の光が、順番にオレを照らしていく。
「ショックか?」
 ときぐるみが言った。
「混乱してるよ。わけがわからない」
 とオレは答えた。
「まだまだこんなもんじゃねぇぜ。本番は、これからだ」
 無機質な声でアナウンスが流れた。
 ――次は終点、7月25日です。
 その直後、バスがまたトンネルを抜けた。

       ※

 光。――強い光。日中の光だ。
 眩しくて、オレは目を細める。それからみえた景色に、息を呑んだ。
 そこには見慣れた部屋があった。オレの部屋だ。なのにバスの窓越しにみるそれはあまりに非現実的で、上手く思考できない。
 バスは走り続けている。その振動を感じる。オレの部屋の景色が後方に流れ、また前方からやってくる。映画のフィルムのコマみたいに、ほとんど同じ景色が連続している。
 部屋の中には、やはりオレがいた。
 オレは銀色のアタッシェケースを開いていた。見覚えがある。あの、宮野さんがレストランで受け取ったアタッシェ―スだ。
 その中身は――なんだろう?
 何枚かの、紙の資料のようだった。だいたいは裏返っていてよくみえないが、2枚だけ確認できた。

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 クロスワードパズル?
 オレはそれを解こうとしているようだった。
 ――なぜ、そんなものが?
 そう思った直後、ぐにゃりと視界が歪んだ。立ちくらみのような感覚――ほんの短い時間、目を閉じてまた開く。
 すると、窓の外にみえる景色が変化していた。

 次は、また夜だ。
 オレは夜道を走っていた。
 先ほど、宮野さんの車が事故を起こしていた道ともまた違う。
 幅の細い道の両脇に、建物がびっしりと並んでいた。なんだか騒々しくみえる街並みだ。
 そこを、オレが走っている。
 オレはずいぶん慌てているようだった。地面のおうとつに足を取られて派手にすっころぶ。転ぶのなんていつ以来だろう? 自分自身が転ぶのは、みていてあまり気分のよいものではない。
 窓の外のオレは勢いよく立ち上がり、また走り出す。
 ――一体、なにを急いでいるんだろう?
 だがその答えは、すぐに氷解した。
 オレが向かう先には、古いビルがあった。その壁の一部が大きく崩れていた。瓦礫が辺りに散らばっている。爆破されたような、そんな印象。
 そして瓦礫の中に、ひとりの少女が倒れている。
 シャツに黒い染みが広がっているのが、遠くの街灯から届くかすかな光でわかる。
 ――オレは、この子を知っている。
 なぜだかそんな気がした。
 彼女は目を閉じ、窓の外のオレが肩を抱いても、ぴくりとも動かなかった。

【BAD FLAG-02 爆発】

       ※

「バッドエンドを書き換えろ」
 と、きぐるみが言った。
「時間はもうない」
 どきん、どきんと鼓動が胸を打っていた。ひどい頭痛を覚えて、オレはそこを押さえた。形にならない記憶が頭の中で渦巻いていた。
「思い出したよ」
 オレは、隣のきぐるみをみる。
「お前、少年ロケットだろ?」
 ぼろぼろのきぐるみは、不敵な笑顔を浮かべたまま、じっとこちらをみている。
「へぇ、覚えていたのか」
「忘れてたよ。結局、なんのマスコットなんだお前」
 少年ロケットは、幼いころに持っていたキーホルダーだ。どこで手に入れたのか覚えていないし、手放してもうずいぶん経つ。
 きぐるみは言った。
「ロケットだろ? 名前だってもろじゃないか」
「ちっともロケットっぽくない」
 ただの不気味なガキにしかみえない。
「でも飛び出すぜ? 別の世界までひとっ跳びだ」
「ならバスで移動するなよ」
「準備がいるんだよ。ロケットって発射台まで車で運ぶんだろ? 前に、ニュースでみたことあるぜ」
 ふいに、バスが停まった。音を立ててドアが開く。だが窓の外は暗く、何もみえない。
「さぁ行きな。急げよ。カウントダウンは始まっている」
 行けって。
「ここ、どこだよ? 一体どこに行けばいいんだよ?」
「知らねえよ。きっとソルが導いてくれる」
「ソルってなんだよ?」
「ソルは遠い場所にいる。それでもこの世界を照らす」
 こいつとは、まともに会話ができないようだ。
 オレは座席から立ち上がる。
 後ろから、きぐるみが言った。
「おい、忘れてるぜ」
「ん?」
「ほら」
 振り返ると、着ぐるみは大きな手で、器用にスマートフォンを掴んでいる。それは確かに、オレのスマートフォンにみえた。
「ああ。ありがとう」
 いつの間に落としたのだろう? 受け取って、そのスマートフォンをポケットに入れる。
 指先が何か硬いものに触れた。引き出すと、それはスマートフォンだった。
 ――どうして?
 同じスマートフォンが2台ある。起動させてみると壁紙まで同じだ。
「これは、オレのじゃない」
「いや。君のだ」
 きぐるみから受け取ったスマートフォンには、メールが1通、届いていた。
 フォルダを開いてみる。
 件名のないメールだ。アドレスは、英文になっている。
 ――ソルが鳴らすベル?
 そう読めた。
 あの着ぐるみの言葉を思い出す。「ソルだけは裏切るな」。これの、ことなのか?
 メール文を開く。

       ※

 拾った携帯にあなたのアドレスが登録されていました。
 主人公とありましたが、あなたはどなたですか?

       ※

 主人公ってなんだよ。
 やはりこのスマートフォンは、オレのじゃないようだ。
「スイマには気をつけろ」
 と着ぐるみは言った。
「スイマは君に襲い掛かる。ヨフカシを捜すんだ。ヨフカシはスイマの中にいる」
 わけが、わからない。
 何もかも。
「どういうことだよ?」
「いいからさっさと行けよ。忘れるな、スイマの中のヨフカシを捜せ」
 ちょっと待てよ、どうしてスマートフォンが2台になるんだ? だいたいあの窓からみえた苛立たしい景色はなんなんだ?
 そう、言おうとした。
 でもそれよりも先に、なにか強い振動が、肩を揺らした。
読者の反応

ひげ ‏@HiGravityEdge 
いきなり交通事故フラグだと…!?


minion ‏@minion_strife 
なんだか街とか428っぽい雰囲気もある。


ボルボロス/岩氏 ‏@barroth38
クロスワードは皆さんに任せるわw 


黒猫にゃんこ@良平さん❤︎ 2時間
第一話のビラを配った人は宮野さんっぽいなっておもった…(´・ω・`)


minion ‏@minion_strife
ソルってなんだろう。太陽?


伊藤允彦 ‏@gatuhiko 
ベルくんにメールをお願いする時は、ソルを名乗ってもらった方が良さそうですね。


イマゼ鬼 ‏@KMI_Oni
水曜日はタイムリミット、かも知れない




※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント(  @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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久瀬視点
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他21件のコメントを表示

ちょっと待ってくれ!俺も気持ちはわかる!
だがほかのやつも蘇生させてるんだ!(;口; )
全然完成ないけど

No.23 125ヶ月前

ก็็็็็็็็็็็็็ʕ•͡ᴥ•ʔ ก้้้้้้้้้้้ささやき… えいしょう… いのり… ねんじろ!

No.24 125ヶ月前

いろいろあったがなんやかんやで夢だったから助かった

No.25 125ヶ月前

ザオラル!!・・・ザオリク!!・・・ベホマラー!!

No.26 125ヶ月前

ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪

No.27 125ヶ月前

やったか!?

No.28 125ヶ月前

さあ、願いを言え。どんな願いでもひとつだけ叶えてやろう

No.29 125ヶ月前

↑永遠の命を!

No.30 125ヶ月前

ソル「めんどくせぇからそのまま寝てろ」

No.31 125ヶ月前

ムドオンかければいいんじゃね

No.32 125ヶ月前
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