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山田玲司のヤングサンデー 第345号 2021/6/7

ヤンサンOP動画選手権で起きていた事

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【漫画家と読者】


昔漫画家の友人達とスキーに行った時の話。


リフトが動くまでの間、僕らはスキーを履いたままチマチマと坂を上がっては地味に滑り降りる、という遊びをしていた。


その時漫画家の1人が「登るのは大変で滑り降りるのは一瞬ってさ・・漫画家と読者みたいだな」と言った。


彼が言うには一コマづつ地道にコツコツと漫画を描く作業が「坂を登る行為」で、パラパラと一瞬で読み飛ばす読者は「坂を滑り降りる行為」だというわけだ。


いや、全ての読者が漫画を「読み飛ばしている」わけではないんだけど「漫画家が作画にかけた時間」と「読者の読む時間」では比較にならない。


単純に「下書きペン入れ」の時間ではなく、作画に取り掛かるまでの試行錯誤も含めて「長く地道な上り坂」なのだ。




【怖い番組】


今回のヤンサンOP動画選手権の参加作品を観ていて、僕は何度もそのことを思い出していた。


アニメという表現は漫画以上に地道で果てしない。

瞬時に過ぎていく「動く絵」はとてつもない時間と労力から生み出されている。


全ての動画の背後に「作り手の地道で長い制作の時間」が見える。


見えるのは当然だ。僕は漫画家なのだ。

そして僕の隣にはアニメ監督が2人。お二人ともアニメ作りの地道で果てしない苦労を知り尽くしている。


そんな僕らの前に置かれたモニターには「これで儲けてやろう」とかいう邪心(そもそも1円にもならないのだ)がまったくない「純度100%」の作品が次々に映し出される。


複雑な流通システムの中で「営利目的」の仕事もしてきた僕らには、あまりに眩しい「純度100%」の作品群だ。


僕らに「審査」などできるはずもなく、ただただ「いいですねえ」「すごいですねえ」「選べませんねえ」と金魚みたいにパクパク口を動かすしかなかった。


錦織監督が放送中に言っていた「この番組怖い・・」という言葉は全てを表している。


純度100%の作品は、僕らのような人間の魂を見事に洗ってくれる。

「僕も作りたい」と思って何かを作り始めた「あの頃」に戻してくれる。


僕は作り手のみんなにひたすら感謝しながら観ていた。




【藤子不二雄効果】


同時に今回はアニメ以外の動画もアリになったので、こちらも面白かった。

アニメとはまた違ったアプローチで「ヤンサン」を表現しようと試行錯誤していて、これまた作り手の人間性が感じられていい。

アニメより自由な表現が難しいので、どうしても「アイデア」が必要になってくる。

技術力よりアイデア力で勝負する人達が参加してくれるのは実にいい。


1人ではなく「チーム戦」にした事であちこちで奇跡のコラボが生まれているのも良かった。


ゴルパンや美術部の活動などで知り合った人達などが仲良く一緒に作品を作っている。


プロもアマも男女も年齢差も関係なくやってる。


自分だけの作品じゃないからソロ活動よりも頑張れる、というのもあったと思う。

まさに「藤子不二雄効果」だし「はっぴいえんど効果」もあったと思う。


ヤンサンは僕のソロ活動ではなく「チーム活動」なのだ。

チームは大変だけど楽しいのだ。

「あいつのおかげだよ」なんてのがあると人生は輝くのだ。



今回放送後の打ち上げで、決まらなかったエンディングの1枠の相談をしていたらおっくんが「僕らで作りますか?」と言っていた。


その企画は応募してくれた人達に申し訳ないので今回は却下になったけど、おっくんにすら(笑)「俺達も作りたい」と思わせる力がみんなの作品にはあったのだ。


(最後の枠については次の放送でお知らせします)




【血流】


そして毎度の事ながら、素晴らしい作品を作っても選ばれなかったチームも出る。

今回も恐ろしい情熱で作られた作品のいくつかが採用されなかった。